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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: Estella
第六章 伝説の終結点//in人間界
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ひゃくろっかいめ 世界の日常だね?

 ばあん、と机を叩く音が室内に響いた。机を叩いた少女を見守っていた少年は、やや目を吊り上げたがその変化も一瞬だった。

 少女の顔は険しい。室内には壇上に立つ自分と、ずらりと並べられた椅子に様々な人間が座っている。

 貴族なり、平民なり、商人なり、冒険者なり。様々な身分の、様々な職業の人間が少女を見上げて、彼女の次のセリフを待っている。


「―――それはボクの時代。ボクの時代から今の時代まで、その歴史は隠蔽されたままだった。気にならないか、陰湿だと思わないかッ! 貴殿らの思いを見せてくれ。今こそ隠蔽された歴史を暴く時!」


「しかし大賢者様、貴女様一人での証明では、足りないのではありませんか?」


「僕も証明できるけどさあ。テーラさんがその時代を生きた勇者だって知ってんでしょー? なら否定する理由は無いんじゃねえかなあ、というか君達テーラさんを疑うってことは、勇者を疑うことと同じなんだけどその点考えてるのー?」


 大賢者、テーラ・ヒュプス。遥か昔、勇者という単語すら生まれておらず、巡回という単語を最初に生み出した初代勇者。

 その伝説は全世界に轟くレベル。しかし今彼女は、別の存在を持ち出す。歴史書も残っていないほど昔の時代の事実の改変。

 そして、彼女は紛れもないその場にいた当事者。そして、その場にいた事実を証明できる者は彼女と―――彼女の隣に立つ少年以外はもうこの世界には存在しなかった。


 少年の名はハルト・アルティア。アルティアとは、この世界の名がアルティディアになる前に存在した、この世界の名称である。

 彼は当時、世界の守護者だった。別にテーラを超える力を持つわけでも、本当の勇者である零夜を超えるカリスマを持ち合わせているわけでもなかった。

 それでも圧倒的発言力と、頭の回る速さ。彼はこの世界が今のアルティディアになるために、本当に幾多のことを成し遂げた。

 そして、彼の存在はテーラが救い出したものである。魂の輪廻で彷徨っていた彼を救い、自身のマネージャーとしているのだ。


 ―――そしてもうひとつ。


「わたしの名はディウム・ルディス。冒険者であり、商人だ。彼女には聖界で命を助けられた。彼女は歴史を騙るような者ではないと、ここにわたしが保証しよう」


「妻のリル・ルディスです。テーラ様は誰かを救おうとする人です。今だって、功績を積み上げた人物を無視せず自分だけの功績ともせず、その者を救おうとしている。立派だと思います。どうか皆さん、テーラ様を信じてください」


「最近ルディス家の跡継ぎをする、息子のハディル・ルディスだ。テーラ殿がいなかったら、俺の父さんは死んでいた。この方は、誰かを失いたくないと思っている、と思う。テーラ殿の思いは何処までも光輝くと、俺が保証する!」


 神級冒険者であり商人、ディウム・ルディス。同じく神級冒険者、リル・ルディス。大商人の器を持ち現在Aランク冒険者、ハディル・ルディス。

 明らかに天才であり現実味の残るこの三人と、失われたアルティアの名を持つ幻想のような少年と、そして幾多の信頼を乗せられ、今回も世界を救い、アルティディアの栄光を取り戻す手伝いをした少女―――大賢者テーラ。


 このグループがあれば、反対派も沈静化するのはきっと時間の問題だ。

 テーラはもう一度机を叩いた。銀髪はさらりと後ろに流れる。全員の視線が集まったのを感じた彼女は、大きく息を吸った。

 そして、自身の白銀の杖を掲げて、太陽の光に反射させるように手首の位置を計算する。


「―――アルティア、アルティディアに、栄光を!」


 歓声が、響いた。


 歴史の改革が成されるのは、もう少し先の事になるのだろう。



 ピッ。ピ――!

 部屋一面に広がった青いパネルの中のひとつを、少女が懸命に叩いている。銀髪のオッドアイの少女であり、魔界の主となった者。

 ひと際大きな音を鳴らしてシャットアウトしたパネルを見て、少女――カレン・フィースは大きく舌打ちをした。


「これじゃ冥界に……通じないのか……?」


「ヘルはぁ~、パスワードが不正解なんだと思いますよぉ~? 魔界の技術で冥界のハッキングはぁ~、難しいですからねぇ~」


 大魔王だったヘルは、カレンの存在により魔王に格下げ。しかし彼女はカレンの一番の腹心としていつも彼女のそばにいた。

 今回もヘルはカレンにアイディアを与える。ただ、今回は相手が悪い。冥界のハッキングなど、魔界にできるものではないのだ。

 分かっていながらも、カレンは止まれない。止まらない。やりたいことがある、ただそれだけだ。


 ルネックスは神に追いついた。神を超えた。神を治めた。統治王になった。どれも全部、ゼロからのスタートだった。

 ならばカレンにだってできる。ルネックスに負けたくない。


「そのぉ、アーナーさんっていうのはぁ~、どんな人なんですかぁ~?」


「人というよりは……自律性の機械……魔女界が生み出したもの……わたしは彼女を呼び戻して……いったんわたしにセットする……絶対に魔界に役立つから」


「ルネックス様のぉ~眷属だった方だと聞いたことがありますがぁ~」


「そう……ルネックスの眷属だった……でもアーナーは今彼の管理下にない……だからわたしも操縦できる……絶対に負けない」


 アーナーの【導く】性能で、魔界を更に育てる。それがカレンの目標であり、アーナーを復活させるための目的でもあった。

 魔界を育てるのは、ルネックスからの任務だ。ならば彼女のやらなくてはならないことであり、そのための布石を打っているのが今。

 ルネックスにやれと言われたわけではない。ただ、カレンにはこれ以上の術は見つからない。


 死者の復活は難しく、禁忌の術もである。カレンがそれを再現できるのは魔界という、邪術を扱う場所が此処だからという理由もある。

 一番は単純に彼女の力が強いから。アーナーとは最初から感情で結びついている仲間だから。そんな良い条件なのだから、使わない選択肢はない。

 ただ、復活させるまでの過程が至難だ。強固にロックされた冥界のコンピューターシステムのハッキング。何億の中からアーナーの魂の選別。

 あのカレンが今ハッキングの段階で悩んでいるのだから、その難しさは尚更。


「もう少し……もう、少し……」


 カレンの額には汗がにじんでいた。五日も寝ず食わずでハッキングを進めては後退し、少し進んでは新たな所につまずいている。


 そんな主の姿を、ヘルは心配そうに見つめてはいるが手を出したりはしなかった。

 カレンは、

 ルネックスを愛していたカレン・フィースは、この程度につまずきはしない。


 ―――そう、ヘルは分かっていたから。



「おいこらクソ師匠待ちやがれ! せっかく俺が花を採ってきたと言うのに地面にちりばめやがって、お前には優しい心という物がないのかっ! ドジばかりしてんじゃねええええ! さっきも牛乳ぶちまけやがって、慈悲の心で許してやったらまたこれだ!」


「すまん許してくれ! というかこの程度で怒るとか精神年齢小さくねぇ!? というか師匠って呼びながら口の聞き方がおかしいのは気のせいじゃないよな!? 牛乳ぶちまけ事件はもうやめてくれそれは俺の黒歴史だ!」


 一方神界では、勇者リンダヴァルトが大英雄ヴァルテリアに対し、ほうきを持って追いかけまわしている。

 それは師匠であるヴァルテリアのドジに対しての憤怒。数えればきりがないほどドジをする、というか豪快な性格をしている彼に対し、ついにしびれがきれたのだ。


 しかしそんな二人を、残った少数の神や精霊、天使はくすくすと笑いながら見つめている。ヴァルテリアの犯した数々のドジを、その目で見ているからこその微笑み。その中には微笑ましいなあという感想も多く混じっているのは否定できない。


「はぁ、はぁ、どんだけ逃げ足早いんだお前……なんか神界で戦った時より進化してるし、なんなんだよクソ師匠、お前裏で何やってんだ? やっぱり昔みたいに、俺に黙ってること、まだあるよな」


「は、はは、んなもんねぇよ。おめーがまだまだなのは確かだがな」


「違うだろ。お前、昔から嘘が下手だ。俺にはわかるんだよ。……たまにいなくなるときがあるだろ。その時は何しに行ってるんだ」


 沈黙が、降りる。走り疲れてやっと平和かと思ったヴァルテリアは、瞬時に気を引き締める。リンダヴァルトに教えてしまえば、彼は昔と同じように自責の念を抱えてしまうことだろう。

 しかし今のリンダヴァルトは彼の答えを望んでいる。ヴァルテリアには答えるか答えるか答えるかという同じ選択肢しか残されていなかった。


「人工精霊の作成だよ。ルネックスからの資料にもあっただろ。神界と魔界の平衡を保つためには、最初から決められた力しか使えない、しかし神以下天使以上には強い人工精霊を作る必要があるって。そいつを今俺が作ってんだ。強くなってんのは多分、めちゃくちゃ魔力流してるからだと思うぜ」


「なんで俺に言わなかったんだよ。言ったら俺だって協力できたのに。なんでいつもいつも黙ってるんだよ。というか、何で俺に作らせてくれなかったんだ?」


「おめーはまだまだって今言ったばかりじゃねえか、天才な若者は大人しく力鍛えて美女と結婚してくたばっときな。良く聞けリンダヴァルト、おめーは成功者だ。保護やら生産やらの仕事は俺みたいな、影に任せとけ。人生楽しめよぉ、若者ぉ!」


 ばんばん、とヴァルテリアはリンダヴァルトの背を叩いて、ひらひらと手を振って去っていく。勢いよく振り返ったリンダヴァルトの目から見て、彼のいつも大きな背中が、今まで以上に大きく見えた。

 いつも彼の行動は誰かを救いたいから、というものばかりで。自己犠牲ばかりで。いつだってみんなが自分以上だと思っていて。

 だからリンダヴァルトも今此処にいられる。だから輪廻も抜けていられる。全部全部、バカで純粋でクソで優しい師匠のおかげなんだよ。


「―――っこの、クソ師匠がぁああああ!!」


 そう叫ぶリンダヴァルトの顔は晴れやかだ。すでに遠くに行ってしまったヴァルテリアの、豪快な笑い声が彼の耳に届いた。

 

 あぁ、クソが。

 どこまでもクソで、どこまでも優しいじゃねぇか。

 バカだろうが。

 俺のこと気にかけるっつっても、ただの自己犠牲じゃねぇか。

 クソで、バカで、優しくて自己犠牲の野郎よ。


 ―――お前は、永遠に、俺の師匠だ。俺の頭に、刻み付けてやるよ。



 でろ~ん、と少女が机に突っ伏して呻いている。事務室らしく事務衣装を着た少女――フレアルは、集中力が切れたかのようにペンを振り回している。

 彼女から向かって左の位置に座ってレポートのような物を書いていたリアスにとって、これはいつもの情景である。

 咎めることもせず、一心不乱にレポートを書き続けた。


「ねー魔界のカレンから協力申請が来てるんだけど。おーい。ねぇルネックスのお父様―――!」


「うわっ!?」


「聞いてなかったの?」


「いや、いつものだと思っていたんだ。何かあったのか?」


 ぴらぴらと羊皮紙を見せながらだらけた声でそういうフレアルだったが、リアスが気付いていないとみると勢いよく声を張り上げた。

 リアスの言ういつもの、とは、彼女の集中力が切れて休憩モードになる時のことを言う。しかし今はただ悩んでいただけのようだ。

 立ち上がったリアスを見て、フレアルも機嫌を直して羊皮紙を見せる。

 もとより別に怒っていたわけではない。


「魔界からの協力申請。魔界の【核】に力を注いでほしいみたいね。一時的なモノでもいいから、っていってるわ。うちは今平和だからそこまで力を欲してないけど、どうするの?」


「……魔界が協力して欲しいというのなら文句は言わないが、一体何に使うんだ」


「それが、その……冥界の深層世界へのハッキングだって。アデルは最近シャルのところへ行ってるから、ハッキングはなるべく早く終わらせたいんだって」


 核、とは、世界を維持する王が必ず心臓に宿すものだ。魔界に力を放つようにして注ぎ込めば、その力は王の中に吸い込まれる。

 無意味な世界同士の紛争を起こさないようにと、ルネックスが配置したシステムでもある。

 そこに力を注ぐこともまた、難しい事ではない。しかしそれが一回り以上上の世界である冥界までとなると、さすがのリアスも目元を険しくする。


 カレンの思いが叶うのは。

 フレアルとリアスが決断を下すのは。

 冥界へのハッキングが成功するのは。

 そして、アデルがそれに気付くのは。


 ―――まあそれらは、随分先の事になるだろう。

なんとも中途半端な時間に投稿した気がしますが、気にしない気にしない。

ちなみにこれ、なろうコン第一次選考にがっつり落ちました(゜-゜)

やはり初盤の改稿をしなくてはなりませんね。放置してちゃいけないと神様がそう言っている。

……この作品で神様なんて言っても信憑性なんてない上に主人公らに怒られ燃やされ捨てられる気がしますが、まあよしとしましょう。(笑)

というわけですが今回一番書きたかったのはテーラさんなんですよ。

結局は歴史改革の場面を書くのが好きなだけなのですよ。歴史改革は後付けではありませんが、勇者の名前だけは後付けです(何のカミングアウトだよ)

一次選考には落ちちゃいましたが、僕ブレをこれからもよろしくお願いします<m(__)m>

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