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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: Estella
第六章 伝説の終結点//in人間界
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幼馴染でありがとう―ホワイトデーイベント―

―――さあ、貴方達もゆきなさい―――


―――恋する乙女達に報いるための気持ちをぶつけにゆくのです―――


―――鮮やかなストーリーを見せつけなさい―――


―――華やかな恋が許されるのは―――


―――このひと時なのですよ―――


―――さあ、ゆきなさい、世界に不断の恋愛を見せつけるのです―――



「のわっ!?」


「あ? 喋ってる途中に奇声あげるとか本当にマナーがなってないのかな?」


 歴史から消し飛ばされた勇者こと朝霧零夜は、戦闘をしていた最中から元居た世界にトリップしたとすぐに理解した。

 隣に腐れ縁幼馴染である日之内がいたからでもあるが、一番は目の前に通っていた高校である正中高校の校門があったからである。

 校門を無駄に派手に着飾っているし、学校の制服も無駄に力を入れている。


 教師が恋愛に特化している情報もちゃんと覚えているし、二月の修学旅行もきちんと覚えている。二つの記憶がダブっているような気もするが、まあ今のところは気のせいとでも処理しておこう。分からないものにねちねち絡んでも意味はない。


 ところで、日之内に異世界での記憶がなくなっている。それは、異世界での零夜への態度と全く違うことから鮮明に分かった。

 異世界では清く強くを信条とした―――テーラという名前が意味するのも清く強くだが―――彼女は、弄るような言葉遣いはするが荒い言葉遣いはしない。

 道徳を述べてばかりいて、恋愛を脳裏に弾き飛ばしたような奴だった。


(……懐かしい。だが)


 一番先に浮かんだのは懐かしい。だが、その次に浮かんだのは嬉しい。だった。勇者や英雄になりたくなかった彼女は、戦いたくなんかなかった彼女は、異世界が好きだ楽しいとは言っていたがずっと抜け殻のようだった。

 その感情が何処から来たのかは分からない。でもそれは確かにそこにある。


「おい、本当に大丈夫なの? もしかして昨日四十度くらいの熱が出ててぶり返したりしてる!? ほ、保健室……!」


「……バカじゃねぇのお前。バカにしたり心配したり。四十出たらとっくに病院行ってるっつの。さっさと行かねぇと遅刻するぞ」


「ハッ、次遅刻したら私シバかれる……マジで。いや本気で、まじまんじ」


 このテンションも懐かしい。一人称が『私』なのも懐かしい。彼女がボクというようになったのは、自分の人格を偽りたかったからで。

 全てに平均な対応をする勇者チームの一員として、私情をカバーするためであって。……そしてそれ以上に、彼女の使う流行り言葉も懐かしい。

 だからいつもより力を入れて口喧嘩をした。

 零夜の心情と合わせるかのように、空は恨めしくなるほどに青く晴れていた。



「ぇえっ!?」


「ルネックスさん、どうしましたか? 宿題でも置いてきちゃいました?」


 同じく勇者ことルネックス・アレキも正中高校に転移したことに気付く。頭が痛くなるほどになだれ込んでくる情報に、瞬間くらっとしそうになる。

 しかし根性で耐えた彼は、現状の整理を優先した。まず理解すべきなのは、自分はオーストラリアと日本のハーフで、顔はやや日本寄りである事。

 隣で歩いているシェリア――否、紗月しゃつき理亜りあにアルティディアでの記憶がない事。

 

「あぁ、何でもないよ。そうだ、今日の時間割なんだったっけ」


「えぇー、殆どずっと卒業式の練習なんですよね。ホワイトデーの日に卒業式ですもん。さすが私達の学校ですよね、恋愛にロマンの掛け合わせって」


「そうだったよね……ごめん、卒業式の練習が辛くなってきて頭の内容が飛んでたかもしれない、迷惑だったらごめんね」


「いえいえ大丈夫ですよ。私達のクラスは殆どが卒業式の練習を嫌ってますし」


 一方こちらは全く喧嘩せず。晴れた空がよく似合うご存知リア充だった。理亜は主にルネックスに対してだけだが、変わらぬ微笑みを浮かべ続けている。

 今日は三月十三日。明日が卒業式で、今日がリハーサル。そのため四時間程時間割が卒業式の練習に配分されている。

 なので、今日だけは無理だと嘆いている学生は探せば終わりなく見つかる。


 そう言えばそんな知識もなだれ込んできたな、とルネックスが遠い目をしていると、誰かに強く肩を叩かれた。

 そこには朝霧零夜――ルネックスの友人がいた。その隣には、大賢者テーラこと日之内がいるのをルネックスは見つけた。

 そうか、彼女にも記憶がないのか。そして零夜は、テーラが歴史改革をしてまで歴史に刻み付けたかった『その人』だったのか。ルネックスは全てに合点が行く。


「おいお前、お前もアルティディア出身だろ。というか勇者だろ、統治王だよな? ということでここはオレが元居た世界なんよ」


「……ということは、貴方がテーラさんと同じ勇者チームだった」


「おうっ、朝霧零夜だよ。よかったぜ、同じ仲間がいて……っていうかあいつ、オレのこと話してんのか?」


 朝霧零夜に話しかけられたルネックスは応じる。やっと名前を知った。そしてテーラの情報については肩をすくめて秘匿しておく。

 零夜がどうして此処にいて、アルティディアに戻っても彼が存在するのかは分からないが、人の情報を話しまくるのは控えたいと思っているためだ。

 同じく勇者である二人は、全く同じレベルの言葉のキャッチボールができる。これ以上聞いても意味はない事くらい、零夜ならば悟れるだろう。

 ふざけたような口調で喋る零夜の表情が、急に険しく真剣になる。


「この世界はな、複製された世界だ。多分オレはお前らの世界にいねぇし、お前も戻ったら覚えてねぇだろう。此処は神の試練場だ」


「神の試練場……僕らに? 神は僕らにどのような試練をするんですか?」


「ああ、敬語じゃなくていいぞ。……恋愛だと思う。ここまで複製するのは燃費が相当悪いからな、オレはもう死んでるし。日之内と理亜もいるし」


 零夜の説明はとてもざっくりしていたが、同じレベルで会話ができるルネックスには十二分に理解ができる内容だった。

 つまりこの世界は簡単に作ることができず、未来と過去から、異世界と地球から、それぞれの好きな人を呼び出すという工作も簡単にはいかない。

 それでも行ったという事はこれは神の試練。試練の種類は恋愛であること。

 零夜は短時間でそれを分析していたのだ。何千年、何億年、何兆年前の勇者というのは、やはりだてではなかったという事だろう。


 しかしどの神が、何のために、何故自分達を、こんな燃費の悪い作業をしてまでここに運んできたのか。

 この三ポイントを理解できないまま、スパルタリハーサルは四時間の時間を得て終わり、四人はへとへとになって帰るのだった。



 ―――ホワイトデー。

 

 男子全員が熱血教師である担任に集められて告げられたのが何かと思えば、卒業式と同じ日に迎えるホワイトデーイベントを行えというお知らせだった。

 好きな女子が全員いるわけではないが、ちょっとでも気になったら、チョコを渡せと教師が熱血に語る。

 それでもいない場合は全力で友人を応援しろ、と教師は叫ぶ。悪口、噂は厳禁。基本的人権の尊重……憲法まで出して熱く語る。


「例えば零夜君よッ! 例えばルネックス君よッ! 意中の女子にチョコを渡してみんかぁ――――っ!?」


「な、なんでオレたち!?」


「……鈍感かぁ? クラスで有名な甘酸っぱリア充ダブルカップルじゃねぇかよぉ―――!? 本人に自覚無しなのもまたロマンっ!」


「甘酸っぱリア充ダブルカップルって……何それ……」


 ルネックスがやや呆れた目を向ける。零夜も同じような表情だった。そんなこんなで、まさか家庭科室まで使わせてもらえることになった。

 どうやら熱血教師が頼み込んだらしい。ちなみに家庭科担当も愛情重視なので、さほど頼まずに家庭科室をゲットできたようだが。

 という事なので女子を自習させて男子全員が家庭科室にずらっと並ぶ。


 勿論恋愛を狙って正中高校に入学した男子もいるので、ノッている者も多い。というか、ノリノリな者が九割を占めている。

 残りの一割はいわゆるホモと、ご存知零夜である。零夜がホモに混ざっているような言い方をしているが、誤解しないでいただきたい。彼は別にホモではないはずだ。


「ちょっと待てよ……オレチョコの作り方とかマジでわかんねぇんだけど、さっぱりピーマンなんだけど、ちょいルネックスヘルプミー!」


「あれ、もしかして零夜ノリノリだったりする……?」


「は、はぁああああ!? んなわけねぇだろ、チョコとかどうっでもいいんだよ!」


「誰に渡す気なの?」


「知らねぇよ! 二次元の画面にでもねじ込んでやりゃぁいいだろ!」


 ホモではない理由が、ここに。ニヤニヤするルネックスとクラスメイト。一人だけそれに気づかず作業を続けるご存知鈍感チキン朝霧零夜。

 意外にノリノリだと気付いたのはルネックスだけではない。一部の男子も気付いて危うくホモに目覚めそうな事態に陥りそうになったのだ。


 てんやわんやに事件が色々起きたが、男子たちはこうして無事にチョコを完成させることができた。

 鈍感がチョコを爆裂させて床にチョコが散らばったり、ルネックスが華麗な手さばきを見せたなど差が恐ろしい展開があったのを余談に記しておこう。



 卒業式の退場の猛練習をしていてよかった、と今日ほど痛感した日はない。まさかの前列の休みが多く、後列は前列の動きをぶっつけ本番行使。

 しかし熱血教師のスパルタ教育のおかげで、誰も間違えることなく素晴らしい卒業式を過ごし、無事終わらせることができた。

 練習の時は不満を零す生徒が多いが、いざ終わるとこみ上げる達成感を止められない。


「……零夜、ルネックス君、理亜ちゃん、卒業おめでとう!」


「テーラさん、おめでとうございます」


「理亜、零夜さん、日之内さん、卒業おめでとうございます」


「おうっ、みんなおめでとう! 大学は理亜とルネックスは別れちまうか……」


 卒業証書を握り、四人がおめでとうの言葉を言い合う。これは男子も女子も、最高に綺麗になれる瞬間でもあった。

 理亜は絵を描くための専門学校に、ルネックスは剣道に専念できる学校に、そして零夜と日之内は東京の偏差値の高い大学に行く。

 殆どバラバラになってしまう形だが、お互いの連絡先はしっかりと保留している。


 ―――なにより。


「おるぁ―――ッ! 開始じゃ野郎どもぉ――――!」


 あちこちでホワイトデーのチョコを渡し始める男子がいる。バレンタインデーの修学旅行の時のお返しもあれば、貰ってはいないがあげるという男子もいる。

 中にはちらほらとホモチョコも見えるが、そこは熱血教師も含め全員の教師が、そして全員の生徒が見なかったことにしている。


「この熱血さも今日で見られなくなっちゃうんだね……そう思うと涙が出てくるよ。ってルネックス君と零夜はチョコを渡しに行かないの?」



 ―――いや―――


 

「わざわざ渡しに行く必要なんかねぇよ。……オイ日之内、とりあえずこれ受け取れ。適当に作った奴だから期待するなよ! 渡す奴が見つからねぇからとりあえずでお前にあげたんだ!」


「―――ぅぇ、マジで? 私かよ?」


 日之内は呆けたまま固まっている。零夜はニヤリと口角を上げた。彼女が此処まで驚いた顔をするのはとても久しぶりだ。

 チョコを受け取る気力もなさそうだったので、零夜は彼女の手にチョコを強引に押し付けた。日之内はようやく状況を理解したようだった。


「私か――――いっ!」


 あまりにも突然すぎたために、ドキドキ感がなかったというのは永久封印である。


 ―――一方。


「えっ、ルネックスさん、私にチョコですか?」


「うん。えっとね、僕は……僕は理亜のことが……好き、だから……」


 ルネックスは恥ずかしそうに頬をかきながらも、自然な流れでチョコを理亜に差し出した。理亜は嬉しそうにはにかみながら目を輝かせて受け取る。

 両方とも頬が真っ赤になっている。クラス名物のリア充カップルはだてではなかった。



―――お見事です―――


―――私は恋愛神ルーズホワイト―――


―――恋する乙女のサポーターたちよ―――


―――貴方達の実力をしっかりと見せてもらいました―――


―――貴方達は恋をするのにふさわしい―――


―――さあ、元の場所に帰還なさい、夢の時間はもう終わりです―――



―――しっかり記憶にとどめ、脳に刻み付けるのです―――



 異世界アルティディアの王城の一室、そのベッドの上で、少年が眠っていた。


「あぁ……ルーズホワイトさんですね……」


 ところで、運命の輪廻を無限に繰り返す勇者は、もうどの時間かもわからない時間の中で目を覚まさせた。

 幾度も繰り返した運命の中で、唯一彼は違う場面に遭遇し―――、


「……もうちょい違う場面が良かったと心から思うんだけどなぁッ!?」


 こうして恋する乙女達をサポートするうえで重要なサポーターである少年たちのホワイトデーは、早続きの展開に流されるように終わりを迎えたのだった―――。

遅くなりました。

ここ数日、実はホワイトデーイベントに全てを使い果たしていました。

番外編に力を入れているんです。ささっと書くんじゃなくて、本編と同じくらいの気持ちで書いてます。

ですので良ければこれまでの番外編、読んでない方は読んでみて下さい。

特に正月編をお勧めします。

まあ、作者すら何故したのか分からない宣伝は置いといて、今回のイベント。

バレンタインデーイベントがもし男子に起こったらどうなるかというモニタリングですね。

二つのグループのギャップを見比べちゃってください!

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