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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: Estella
第六章 伝説の終結点//in人間界
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ひゃくにかいめ 敗北の先に、だね?

 シェリアが闘志を纏う。ゴゴゴ……というオーラが肉眼でも見えそうなほど、彼女の目は煌々と輝いていた。

 その純粋な光は、大罪として闇に心を染め上げられてしまったグロックとダイムには決して真似できない、尊い感情を原点とするものだ。

 鬼族として闇魔術を使いながら、しかし使役する闇には光が宿される。


 完全の闇を使役し、己の心さえも闇に飲み込まれかけている二人には到底真似できないのだ。それに、彼らの力は借り物だ。

 文字通り血反吐を吐くような努力を重ね、これ以上ない尊い感情を土台に成長し、鬼族としての誇りを掴み―――、そして少女は英雄になった。

 そんな波乱万丈の人生を、生まれながらにして天才だった二人は真似することができない。


 天才だったからこそ、堕ちた。果てしない努力の前に、精神上で敗北した。今此処で負けるのなら、肉体的にも負けてしまう。

 

 努力家が天才を超えるために、ひとつだけ必要なキーワードがある。


 それは―――、


「私はルネックスさんのために戦っているんです。ルネックスさんのためなら私は負けません。負けられません。特に戦力を自分で削いだ、貴方達には絶対!」


 ―――それは、誰かに対する尊い感情を土台に敷くことだ。


 努力することは、そのまま自分のためになる。自分のために努力する者もいれば、彼女のように誰かのために努力する者もいる。

 しかし彼らは決まって、土台に【誰かのため】を付ける。主語と述語がこの世界にあるのなら、彼らはこういっただろう。


 誰かのため、を主語に、自分のためを述語に、そして終わりには果てしない成功を掴む。

 道徳にしか聞こえないと思うか。

 それとも心に刺すように響くか。

 その反応によって、努力が報われる度合いが違う。グロックとダイムのように、生まれながらにして天才派それを知らないのだ。

 

 彼らが努力していないとは言わない。しかし足りない。道徳を退けるくらいの天才的力を持っている者には、特に。

 彼らには力がある。努力の仕方は無視して努力すればするだけ栄光を掴めるだけの力がある。だから、努力の道徳を知らないのだ。


「そうか。では、私達は私たちなりの道を歩もうではないか!」


「うん。それも構わないと思うよ。どこかの神様と似たような世界観を持っているようだけど……その台詞は、資格ある者が言うものだ」


 そのルネックスの静かな言葉と共に、シェリアの双刀が闇を纏った。触れるだけでも皮膚が腐り落ちそれが広がる、恐ろしい代物だ。

 ―――ルネックスの中で、今さっきグロックとダイムが言った台詞を胸を張って言えるのは、行動は間違っていたが確かに聖神のみだった。

 決まった道を歩む勇者と英雄。それはテーラも同じであり、その運命の道から外れた人物は彼女だけだったのだ。


 結果的に、運命の道からの外れ方が間違ってはいたが。最後まで自分なりの道を歩んで、自分なりの思いを抱いて、散っていった。

 聖神は、自分の考えを持てるものだった。そしてそれを実行に移せるほどに、行動力のある者でもあった。

 

 しかし散ってしまった彼女へのせめてもの慈悲だ。

 彼女の言葉を汚す者は許さない。彼女の言葉を偽る者は叩きなおす。『自由』という言葉を尊重する上で、この世に彼女を超える者は居ない。

 自分の道を歩むという言葉を使いたいなら、彼女を超えてから言え―――!


「「はぁあああああっ!」」


「ふっ!」


 二人で同じ権能を持った大罪の大司教が、闇を纏う。触手のように彼らの体にまとわりつくそれは、実体を持たなかった。

 しかし心を突き刺して抜き取ってしまわれそうなほどの深い闇の触手は、紛れもなく触れるだけで人の精神を可笑しくしてしまうものだ。

 過去の、この技を極めた大司教は、触手を使って人の精神を操ったのだという。スキルがなければ為せないアンデット術を、使ったのだという。


 ダイムが、前衛に出る。そのままシェリアの刀とぶつかる。グロックが自分の体を触手に一時的に憑依させ、彼女の背後に出現する。

 シェリアのもう片方の刀が危険を察知したように瘴気を吹き出し、グロックの触手を何本か溶かした。

 一方のダイムはシェリアの瘴気を纏う刀に押され、その剣が徐々に溶け始めている。触手も操作するが、そのどれもがシェリアのシールドに阻まれる。


 高度な魔力を必要とするシールド。扱う術者のレベルが必要な瘴気。それを同時に使いながらも未だ他の闇魔術を行使する英雄の少女。

 はっきり言って、ダイムとグロックに勝ち目はなかった。言えることは、それだけだ。


「……っあぁぁあああああああああああああああっ!」


 シェリアの双刀の瘴気が、今度は彼女の体にまとわりつく。彼女に触れるだけで死亡は免れない状況になり、二人は一気に飛びのいた。

 勿論術者である少女自身に影響はなく、彼女はその瘴気を触手のように扱うことができた。

 シェリアが手を伸ばすと、瘴気は形を変え大きさを変え細さ、太さを変え、変幻自在に二人に襲い掛かっていく。


 ダイムが横に飛びのこうとすれば、瘴気は広がる。グロックがよけきれずに触手で抵抗しようとすれば、その触手は瞬時に溶ける。

 二人の体力も無限ではない。しかし瘴気はシェリアの魔力が続く限り無限だ。そして英雄の魔力に二人が追いつくことはない。

 やがてダイムが避け切れずに間一髪のところで地面に転がる。幸い、瘴気は足に掠ることはなく彼は無傷だった。


 しかしこれは彼が体力を使い果たしたことを敵に示しているも同じ。それは、明らかに二人の敗北を示す決め手となったのだ。

 現状戦力になるのはグロックのみ。ダイムに出来ることは、グロックの後ろで彼に魔力を注ぐくらいのものだろう。それもいつまで続くか。


「大人しく投降すればこの以上のことはしないんですよ。魔力切れで倒れるまで続けたいというんですか!」


「私は百パーセント助かる確率より百分の一の勝率を信じる」


「よく百分率なんて知ってますよね……私は未だに良く分かってないんですよ」


 口数が段々と少なくなっていくグロックに比べて、彼の触手を難なく叩き潰していくシェリアは軽口を叩くような余裕があった。

 勿論グロックとダイムにそのような余裕はない。シェリアの軽口に応じることは無かった。

 それにこの場で百分率を十二分に理解できているのは、グロックとルネックスのみだ。ダイムもシェリアも欠片ほどの知識しかない。


 最も、ルネックスに百分率をテーラが教えて一か月、グロックは教える者がおらずに何十年もかけて学んだことは大商人として秘匿するべき事項ではあるが。


「……あ、そうそう。背後に気を付けてくださいね」


「―――は?」


 シェリアの笑顔が引っかかって、グロックは思わず後ろを向く。そこには、無慈悲に空中に掲げられようと上昇する、巨大な何かがあった。

 ダイムがシールドを展開させるその前に、それは高速落下し二人の背中に容赦なく叩きつけられた。


「背後に気を付けるって言ったのは、背中に叩きつけられると思ったからですよ。…‥魔力の多量喪失による判断力の低下。そして魔力不足による素早い魔術の展開不可。私はそれを狙っていたんです。大商人として、それを見破るべきでした、と言っても、見破っていたとは思いますがね?」


「……はは……はっはっは! しかし私は何度でも貴殿らに挑もうではないか。私は大商人だが、もはやその道は残されていないからな」


「―――残念だけど、それは遠慮してもらおうかな」


 シェリアの早続きの推測にグロックは固まり、しかし地面に這いつくばった状態で血を口から垂らしながら壮絶な笑みを浮かべる。

 残念ながらここからはシェリアの説得できる範疇ではない。テーラの発明した通信機を手に持ったルネックスが、笑顔でシェリアの立つ場所を追い越した。


 ルネックスは笑顔のまま彼らに目線を合わせるようにしゃがんだ。彼らの背中に乗せられた石を取らないのは、抵抗の可能性をゼロにするためだ。

 ルネックスのもつ通信機の向こうからは、途切れ途切れに声が聞こえる。彼がその音量を最大にすれば、その声は明確になる。


『グロック殿、ダイム殿。こちら大帝国帝王コレムだ。貴殿ら以外の仲間を全て拘束した。貴殿らはルネックス殿らの仲間になれば、こちらからすることはない。貴殿らの仲間も、死刑になる事は免れる。貴殿らは、もう一度大商人に復帰できる。幸い、話はそこまで広まってはいない』


「ほう……? そのような条件、私らに有利過ぎではないでしょうかな?」


『貴殿らにはわからぬだろう。私にもわからぬ。この世界の仕組みはそうできているのだ。貴殿らとルネックス殿らが仲間になるように、仕組まれているのだ』


 操られている感覚は気持ちのいいものではない。グロックとダイムは思わず自分の手を握ったり開いたりしているが、操られている感覚はしない。

 帝王が直々に無罪判決をした。条件は、目の前の最強の少年少女の仲間になる事。それは有利であり、彼らがもう一度挑むには不利だった。

 最強に監視されれば、戦力を整えることもできない。誠心誠意忠誠を誓うしかなくなる。


 抵抗して散るか、従順になり生きるか。そうか、そう言う道もあったか、とグロックはにまりと笑う。

 道は抵抗だけではなかったのだ。そうだ、コレムはきちんと話し合えば道を用意してくれるような、王としては身震いを覚えるくらいに優しい帝王だった。

 勇者への妬みを抱きすぎて、小さなところに視線を配れなかった。最初から勇者に会えるよう話し合って、稽古を付けてもらったりと、素直になればよかったのに。


 その道を絶ったのは自分だ。しかしその状況ですら、心優しき帝王と勇者と英雄は二人に道を用意しておいてくれた。

 たとえそれが仕組まれたことでも、全てが操られていても、彼らが世界の命令で動いていたのだとしても―――、だ。

 遥か高みの存在から道を提示されて、この瞬間確かに嬉しかったのだ。


「ハッハッハ……! そうか、そういうことか……要求を呑みましょう。しかし私の仲間は私の命令で動いていただけです。死刑だけは勘弁してほしい……」


『あれだけの人数が集まったのは、貴殿の人望の表しだ。彼らが貴殿に忠誠を誓っているのは確認済み。美しい絆だ、それを殺すのはもったいない。できるかぎり死刑は免れるよう処理する』


「感謝します。私に改心する機会をください」


 シェリアとルネックスは顔を見合わせ、新たに誰かを救うことができて喜んだ。それからしばらく、コレムとグロックは通信を終えた。

 シェリアは彼らの背中に乗せたままの石をどけ、治癒魔術を十全にかけてやった。その理由は魔力をある程度回復させるためだ。

 帰る道中、何かあったら今までの努力の意味がなくなってしまうからだ。


 グロックとダイムは立ち上がると、晴れ晴れとした顔で深くお辞儀をした。二人共その顔は、来た時よりもずっと、ずっと晴れやかだった。

 何かがすっきりしたような感覚。彼らは、手にいれた闇の力を手中に収めることができたのだろう。心の中の光を持ってして、闇の力に飲み込まれず、それを『扱う』ことができるようになった瞬間だ。


「……帰ったら、その瘴気の魔術を使ってみてよ。なにか変わってると思うから」


「は、はあ。了解した」


 グロックは怪訝そうに眉をひそめたが、すぐに気を立て直して去っていった。ちなみに、転移魔術は使っていない。

 二人が去ったあとを見つめたシェリアとルネックスは、満足のため息をついた。

 さて、とルネックスがつぶやく。


「世界のシステムからの任務も終えたことだし、そろそろ帰るかな。テーラさんに報告通信もしなきゃいけないしね」


「テーラさんのおかげでもありますからね。次はどの料理がおすすめかも聞かなきゃいけませんし!」


 今の戦いがまるで何でもなかったかのように。あれだけの魔術を使ったのに二人はほとんど魔力を消費することがなかった。

 家に戻っていく二人の後姿は、まさしく世界に認められるのにふさわしい英雄と勇者、その姿だった。

今回はシェリアの格好いいシーンを出したかっただけです。

あとは、グロックとダイムの覚醒……と言えばいいんでしょうかね。ちなみに、壮絶な戦いの演出はクライマックスに精力を使い果たしました(笑)

どこかの小説でもう一度あんなクライマックスを演出できたらいいんですけど……。

この小説のクライマックス戦闘は本当に私の文章力の限界まで使い切ってるので……(;^ω^)

これからも頑張っていきますので、あと少しよろしくお願いいたします<m(__)m>

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