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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: Estella
第六章 伝説の終結点//in人間界
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ひゃくいっかいめ 訪れる大商人だね?

最終章始動!

 ぱたぱた。

 やけに履き慣れていないとわかるような、引きずったスリッパの音を響かせて、少女は木で作られた地面を走っていた。

 その手にはジャガイモやニンジンなどの食品が詰まった袋を抱えている。随分急いだ様子で少女は厨房に向かっていた。

 今は正午。紛れもない昼ご飯を食べる時間だ。なので少女は急いでいる。魔導書を読みふけっている愛しい少年のために、料理に勤しんでいる。

 元々は料理ができなかったが、前からカレンに習ってそれなりに美味しい料理を作れるようになっている。


 今からチャレンジするのは肉じゃがだ。いつだったか、大賢者テーラに教えてもらった、彼女の居た世界での定番料理。

 これを食べると実家のような安心感がする、暖かさが胸を包む、などという感想が次々に出てくるらしく、少女――シェリアとしては魔法の料理のようだと思った。

 そして自分で作って見たところ、確かに暖かい味がした。姉のことを思い出して、危うく涙を流しそうになった。それ以来シェリアは肉じゃがを尋常ではないほど気に入っている。


 愛情を込めて肉じゃがを作り終わり、リビングの机に置く。全体が木で作られたこの家は、勿論机も木で作られている。

 この辺りは、シェリアとかの少年――、ルネックスの希望である。

 勇者と英雄になった彼らは、つい最近この山奥にある家に転移した。大きくも小さくもなく、二人で生きるには十分な大きさだ。

 丁寧に磨かれて光を放つ木が、明らかに高級だとわかるがシンプルな作りのライトに照らされて一段と美しい光を反射している。


 そうして光を反射する木の床を、シェリアはまた走って、今度はルネックスの部屋へ向かう。三階まであるこの家の二階は、ルネックス専用の階だ。

 ちなみにシェリア専用なのは三階である。彼女は高い場所が好きなのだ。


「ルネックスさん、肉じゃが、できましたよ。今日こそルネックスさんに肉じゃがの良さを分かってもらうときです。愛情を込めて作りましたよ!」


「有難う。肉じゃがは食べたことがないから美味しさが分からないけど……シェリアが愛情を込めて作ってくれるならきっと何でもおいしいよ」


「―――! ルネックスさん、容赦なく女の子の恋心をストレートに刺してこないでください。鈍感って怖いですよね」


 シェリアはルネックスに褒められたおかげで、昂った心情を抑えつけるのに精一杯になってしまった。

 そんな想い人の少女の様子に、ルネックスも思わず表情が緩む。一階に下りると、この世界では未だ流通していない《和風》の香りが部屋に充満していた。

 ルネックスだけではなく、シェリアもまたこの香りに惹かれていた。


「ね、こんな匂いがするんですから、美味しいと思いますよね?」


「うん。きっといい味がするんだろうね」


 そんな、夫婦のような話をしながら二人は向かい合って椅子に座る。シェリアが白米を机に置けば、昼ご飯は開始する。

 

 ルネックスはまずじゃがいもを口に入れた。まろやかな甘み。口に入れたらすぐに溶ける柔らかさ。染み渡っている味。恐ろしい程に美味しかった。

 次に人参。甘さがしっかりと残っている。それでいて適度な甘みで、柔らかく、歯で噛み千切ると染み渡っていた汁が口の中に広がる。

 肉も、玉ねぎも、幸せの味しかしなかった。シェリアの言う『愛情』だけではなく、食材本体の美味しさ、レシピの凄さも確かに関係している。


「おいしい……つまり、テーラさんの故郷ではこんなに美味しいものが簡単に食べられる、という事だね。そんな世界行ってみたいよ……!」


「そうですね。でも今私達に出来ることは、テーラさんにいっぱいレシピを教えてもらうことです。私が愛情を込めて作りますよ」


 拳を握り締めて意気込むシェリア。まあ彼女も、最近は決して誰にも会うことができないのは分かっているだろう。

 そのため彼女は、肉じゃがを極めてからで、と言葉を付け足した。

 シェリアは英雄だが、同時に乙女でもある。誰にも会わせられないのは過酷かともルネックスは思ったが、その件は彼女自身がそんなことは無いと言っている。


 単にルネックスに自信がなくて認められないだけで、シェリアはルネックスと二人でこれから先生きていられるのが楽しみなのだ。

 他の人などに会わなくてもいい。ルネックスだけでいい。そんな思いがシェリアの中にあるのを、ルネックスは見透かすことができなかった……。

 しかしそれでいい、と答えた彼女の答えを聞いて喜んだのは事実である。


「あ、そうでした。魔導書、今どれくらいまで研究できましたか?」


「最初の魔導書を誰が作ったのか、という地点まではたどり着いたよ。おかげでこの世界に存在する全ての魔術を覚えられたけど、まだまだだね」


「というか、まだ全部は覚えられていなかったんですね、あんなに強いのに」


「うん。身の回りで全部覚えられているのはテーラさんだけだよ。何億個の魔術を覚えるなんて根性が凄いと思うよ……僕はあれだけ覚えたくなかったからね」


「覚えたくなくても覚えられちゃうのがルネックスさんの凄い所なんですよねー……テーラさんもそのうち超えちゃうんじゃないですか?」


「それは無理だと思うよ。あの人は六十六兆年生きてるんだからね。経験もテーラさんが圧倒的だ。勝てるものなら一度でいいから勝ってみたいけどね」


 肉じゃがに舌鼓を打ちながら、二人はいつものほのぼのな、日常の会話を繰り広げる。戦闘が何とか言っている時点で普通とは言い切れないのだが、少なくとも勇者と英雄二人にとっては普通の会話である。


 シェリアが話のきっかけを作り、ルネックスがさらに話を進め、二人で料理を食べて舌鼓を打つ。そんな、彼らの日常。

 しかし、しかし、だ。

 英雄と勇者の二人でさえ、この平常な時間を世界は維持させてはくれない。


「―――ん?」


「凄いですねぇ。此処には宮廷魔術師の結界があるのに。相当魔力を使ったんでしょう……その状態で私たちが負けるはずもありませんね」


「そうだね。例え何か他の方法を使っていたとしても、僕らが負ける理由はない。どちらにしろ敵対してくるなら、対抗以外の道は無いね」


 ルネックスとシェリアだからこそ、結界に施された魔力の揺れを感じた。魔物などが二人の邪魔をしないように、ここにはコレムの独断で宮廷魔術師の結界が張られている。

 それを知ったのは、現在は山のふもとで生活をしているリエイスのおかげだった。彼女は一足先に此処についていて、二人を邪魔しないためにふもとで生活をしている。


 そんな歴史のある、宮廷魔術師の施した結界だが、その魔術が乱され、壊された反応が二人に伝わって来た。

 何百メートルも先にあるのだが、まあそれは二人だったからこそ気付いたという事だ。

 丁度肉じゃがも食べ終えている。ルネックスは立ち上がり、ベアトリアの剣を装備。シェリアも相変わらず禍々しい双刀を装備する。


「転移、どうします?」


「僕がやる」


「了解です」


 一言二言で、今回はシェリアが前衛、ルネックスは後衛、そして同じく彼が転移担当であることを決めた相思相愛のお二人。

 ルネックスが精密に練り上げた魔術の閃光が、部屋の中に充満した―――、



 ―――次に二人が目を開けた場所は、草原だった。随分近くに見えてくるのは、三十人ほどの大群を引き連れた存在感溢れる二人の存在。

 世界のシステムが言っていた大商人とその従者だろう。今からルネックス達は何とかして彼らを仲間に引き入れなければならない。

 ちなみにコレムに許可はとってある。あとは大商人に対して説得を頑張るだけだ。


「……どうしたのかな、君達。僕は君達に面識がないはずだけど?」


「私達を知っているからこそ、私達をここまで追い込めたのだろう? さすがに虫が良すぎるな。私達が此処に来た理由も、知っているのだろう?」


「さすが大商人ブロック・ダイアリー。でもここまで来て、宮廷魔術師の結界も破ったからには、僕らに勝つ術があるんだよね」


「勿論だ。無謀で挑むほど私もあほではない。だが奥の手を見せる前に……まずは貴殿らの魔力でも削らせてもらおうか」


「ふうん。策を言っちゃっていいんだ?」


「ああ。この程度では貴殿らの相手にならないことは元より分かっている。この程度開示したところで、私らが勝てる布石にはならない」


 高度な言葉のキャッチボール。本人以外で付いていけているのはシェリアと、グロックの横に立つダイムの二人のみだ。

 グロックの後ろに並ぶ三十人はちんぷんかんぷん。これで並ぶ三十人の強さが分かった。シェリアは闘志をにじませて双刀を構える。


「折角で悪いんだけど……僕は相手にならないよ」


「と、言うと、そちらの少女かね。どちらにせよ私達は全力で相手をするのみ。後がない私達ではそれ以外道がないのでな……行かせてもらうぞ!」


 カッ、と目を見開いたグロック。その隣でダイムが魔力を活性化させる。周囲一帯に影響を及ぼす大量の魔力に、シェリアは一瞬目を見張る。

 しかしそれもコンマ数秒のこと。グロックが手を上げて、約十人が出動すると同時に出動した者達が全て切り倒された。


 シェリアは動いていないように見える。しかしルネックス、ダイム、グロックには見えた。彼女の双刀がうねるように動いて十人の心臓を的確に突いたところを。

 可憐な顔をしておきながら、容赦のない手つき。穏やかな話し方をしていながら、その燃える闘志は見ているこちらが熱くなるほどに燃え上がる。


 認めよう。グロックとダイムは今の今までシェリアを舐めていた。勇者の横にちょこんと座っているだけの役者のように見えた少女は、大物だった。

 もう、手は抜かない。その決意が遅いとわかっていながらも、ダイムとグロックは更なる闘志をにじませ、更に集中する。

 次の瞬間、彼らの背後にて待機したもう二十人が一斉に出動した。


「【黒洞ブラックホール】!」


 闇の洞窟が周囲一帯を埋め尽くすほどに広がる。きちんと詠唱をする事によって、より的確に魔力を魔術に注ぎ込んでいく。

 ルネックスに任された前衛。より鮮やかに、よりスピーディーに、ルネックスからの依頼を終わらせなくてはならない使命が、彼女の中にはあった。


「私達を舐めないでください、あなたたちも加えて全員一気に出動するのならまだやりがいはあったのですが、二人だけとなった以上―――私一人で貴方達に相手します!」


「……少年よ、この少女は貴殿の伴侶だろう。何も言わないのか?」


「彼女に出来ると信じているからね。それに彼女は、この程度の戦闘で魔力がすり減るように鍛えてはいない。こちらの心配はしなくていいよ。あと伴侶とか聞き捨てならないから……」


「わざと話題に取らないでくださいっ!? そう言うときはスルーですよスルー!」


 そんな二人の叫び声を聞きながら、大商人と従者は思う。自分達が救いようもなく二人で完結しているように、目の前の少年少女もどうしようもなく二人で完結しているのだ。

 ああ、自分達と同じだ。

 ブラックホールになすすべもなく飲み込まれていく二十人の仲間を遠目で見つめ、闇のオーラをこれ以上なく高めていくシェリアを横目で見ながら、二人は思った。


 ―――だからこそ、より高みを求めて、グロック達は、ルネックスたちは、戦うのである。

六章一話目です!

どうしようもなく、救いようもないほどに完結している二人同士の対決!

過去最高なくらいルネックスとシェリアの仲間にふさわしい人物たちなのではないかと思います。

高度な交渉については、私の文章能力がその時だけ進化してくれるとありがたい、、、

死なない程度に頑張りますので、これからもよろしくお願いします!

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