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バタフライエフェクト  作者: シッピー&樽
【小学四年生】 立志編
10/10

サーブとドライブ【挿絵あり】

 翌週の火曜日。


 学校を終えたモルフォは、母に送ってもらい、青葉けやき卓球クラブへやってきた。


 着替えを済ませて練習場へ入ると、天馬(てんま)が卓球台の上にいくつか球を並べていた。


「今日は最初にサーブをやりましょ」


「サーブですか?」


「ええ。この前、里緒ちゃんにやられたでしょう?」


 言われて、モルフォはすぐに思い出した。


 強い横回転のかかったサーブ。


 普通にバックで返したつもりなのに、ラケットに当たった球は大きく横へ逸れてしまった。


「あれ、やりたいです!」


「そう言うと思ったわ」


 天馬が笑い、一球を手に取る。


「サーブは、相手より先に自分から仕掛けられる一球なの。回転や長さ、コースを変えれば、そのあとの展開も作れるわ」


「そのあとの展開?」


「たとえば相手が返しにくい回転をかけて、甘い球を返させるとかね。もちろん、強い回転や厳しいコースで相手が返せなければ、そのままサービスエースを狙うこともできるわ」


「サーブだけで一点取れるんですね」


「そういうこと」


 天馬が台の端へ立った。


「里緒ちゃんが使ったのは横回転。球の横を薄くこすって、横向きの回転をかけるの」


 左手で球を上げ、右手のラケットを振る。


 ラケットが球の横を鋭くこすった。


 低くネットを越えた球は、モルフォのコートで跳ねると横へ逃げるように曲がった。


「おお……」


「強く叩くんじゃなくて、薄くこするのが大事。やってみましょ」


「はい!」


 モルフォも球を持つ。


 見よう見まねで上げ、ラケットを振った。


 パコン。


 球はほとんど回転せず、まっすぐ飛んでいく。


「……全然違う」


「今のは当てすぎね。もっと薄く」


 もう一球。


 今度は球の横をこするつもりで振ったが、ラケットの端に当たり、斜めへ飛んでいった。


「難しい……」


「当然よ。最初から里緒ちゃんみたいにかけられたら、アタシが困るわ」


 天馬はもう一度、ゆっくり見本を見せる。


 強くぶつけるのではなく、球の表面を薄くこする。


 モルフォも何度も真似をした。


 十球、二十球と続けるうちに、ようやく少しだけ横へ曲がる球が出る。


「あ、今の!」


「そう。その感触よ」


 ほんの少し曲がっただけだった。


 それでもモルフォは、すぐに次の球を手に取った。


「もう一回お願いします」


「ふふ。いいわよ。じゃあ、あと何本かやってみましょ」


「はい!」


 何度か繰り返してから、天馬が球を集めた。


「サーブはこれから少しずつ種類を増やしていきましょ。次はドライブね」


「ドライブ……」


 里緒との試合でも、何度も見た打ち方だった。


「ドライブにもフォアドライブとバックドライブがあるけど、その前に、モルフォちゃんには覚えてほしいことがあるの」


「なんですか?」


「同じドライブでも、使い方が違うってこと」


 天馬は少し離れた場所にいる光輝(こうき)を見る。


「まずは違いを見た方が早いわね。光輝、お手本よろしく。このくらいなら大丈夫でしょ?」


 光輝は自分の手首を一度確かめるように見てから、静かに頷いた。


「無理はしないでね」


 光輝はスマートフォンをポケットへしまい、ラケットを持つ。


挿絵(By みてみん)


「最初は、しっかり回転をかけるドライブからね」


 天馬が緩めの球を送った。


 光輝は球を引きつけると、手首へ負担をかけないよう力を抑えながら、ラケットを下から前へ振り上げた。


 球の表面をこすり、前進回転をかける。


 パァン。


 白い球が大きな弧を描いて飛んだ。


 高い軌道だったのに、途中から沈み込むように相手コートへ落ちる。


「すごい……! 迫力も里緒ちゃんと全然違う」


「元世界三位を十歳と比べるのは、さすがに里緒ちゃんがかわいそうよ」


 天馬が苦笑する。


「今の球には前進回転がかかっていたの。回転が強いほど、球が下へ沈みやすいのが特徴よ。そして、ドライブにはフォアだけじゃなくバックもあるわ」


 天馬が今度はバック側へ球を送った。


 光輝は身体の前からラケットを振り上げ、同じように回転をかけて返す。


「こっちがバックドライブ。さっきのがフォアドライブね」


「里緒ちゃんも、これを使ってるんですよね?」


 光輝が頷く。


 そして先ほどしまったスマートフォンを取り出し、文字を打つと、その画面をモルフォに見せた。


『そう。あの歳ではかなり上手い。』


「じゃあ、私もこれを?」


「使えるようにはするわ。でも、モルフォちゃんの基軸はもう一つの方ね」


 光輝が再びスマートフォンをしまう。


 天馬は今度は、さっきより速い球をフォア側へ送った。


 光輝は台の近くから下がらない。


 球が高く上がりきる前に捉え、コンパクトにラケットを振る。


 パァン!


 大きく振ったわけではない。


 それなのに、返ってきた球はさっきよりも早く天馬のコートへ入った。


「速い……!」


「これがカウンタードライブよ。相手が打ってきた球の勢いと回転を利用しながら、自分でも回転を加えて返すの」


 もう一球。


 今度はバック側。


 光輝は早い打点で捉え、低い軌道で相手コートへ返した。


「カウンタードライブにも、フォアとバックがあるわ」


 モルフォは光輝のラケットをじっと見る。


「どっちもドライブなんですね」


「そうよ。でも、使い方が違うの」


 天馬が台の近くを指した。


「モルフォちゃんは前陣カウンター型。台の近くで早く捉えて、相手の球威を利用するカウンタードライブが基軸になるわ」


「じゃあ、最初に見せてもらった方は?」


「試合で、ずっと前にいられるとは限らないでしょう?」


「……あ」


 里緒との試合を思い出す。


 左右へ振られ、何度も台から離されそうになった。


「ええ。そういう時に、自分からしっかり回転をかけて返せると楽になるの」


「だから、両方?」


「そう。カウンタードライブを基軸にして、もう一つも使えるようにしていく。それが今の目標ね」


 光輝が頷く。


「両方やるんですね」


「欲張りでしょ?」


「……やりたいです」


「でしょうね。目がキラキラしてるもの」


 天馬が楽しそうに笑った。


「じゃあ、まずはカウンタードライブから」


 モルフォは台の近くで構える。


 天馬が少し速めの球をフォアへ送った。


 早く触ろうとして、モルフォは大きくラケットを振る。


 球は相手側のコートに落ちることなく、そのまま台を越えていった。


「あっ」


 光輝がスマートフォンへ文字を打つ。


『振りすぎ。』


 続けて、


『相手の力を使う。』


「相手の力……」


 もう一球。


 今度は大きく振らない。


 バウンドした球が高く上がる前に、コンパクトにラケットを出した。


 パァン。


 低く速い球が相手コートへ入る。


「入った!」


「そうそう。今の感じ」


 次はバック側。


 一球目はネットにかかった。


「もう一回お願いします!」


 二球目。


 今度は早い打点で捉え、相手コートへ返す。


 その後もフォアとバックを交互に繰り返した。


 強く振りすぎれば外れる。


 遅れれば、相手の勢いをうまく使えない。


 何本か続けたところで、天馬が球出しを止めた。


「じゃあ、次はもう一つの方ね」


「回転をかけるドライブ?」


「そう。今度は相手の球威を借りるんじゃなくて、自分で回転を作るの」


 天馬から緩めの球が来る。


 モルフォは先ほどの光輝を思い出し、ラケットを下から振り上げた。


 だが、球は高く上がりすぎて台を越えていった。


「難しい……」


 もう一球。


 今度は強く当てるのではなく、球の表面をこすることを意識する。


 ラケットが球を捉えた。


 白い球が弧を描き、ぎりぎりで相手コートへ落ちる。


「入った!」


 モルフォの顔が明るくなる。


 光輝も小さく頷いた。


「今のは入ったけど、まだ回転は弱いわね」


「もっとできます」


「ふふ。じゃあ、もう少しやってみましょ」


 フォアドライブを何本か続けたあと、バックドライブにも挑戦する。


 一球目はネット。


 二球目もネット。


 三球目でようやく越えた。


「……フォアよりこっちの方が難しい」


「焦らなくていいわ。今日だけで完成させるものじゃないんだから」


 カウンタードライブ。


 自分から回転を作るドライブ。


 どちらにもフォアとバックがある。


 今日覚えたばかりで、まだ思ったようには打てない。


 それでも、できないことが増えたとは思わなかった。


 むしろ、できるようになりたいことが、また増えた。


「もう一回お願いします!」


 モルフォが構えると、天馬は球を持ったまま笑った。


「その調子。でも、大会までもうあまり時間はないわよ」


「……あと、どれくらいですか?」


「二週間もないわね」


 モルフォは手にしたラケットを見る。


 横回転のサーブ。


 カウンタードライブ。


 そして、自分から回転を作るドライブ。


 どれも今日覚えたばかりだ。


 大会までに、どこまで自分のものにできるのか。


 モルフォにはまだ分からない。


「じゃあ、もっと練習しないと」


 光輝が小さく頷いた。


 天馬が次の球を手に取る。


 大会までに間に合うかどうかは分からない。


 それでもモルフォはラケットを構え、飛んでくる次の球を待った。

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