国策会議①
日が昇るより前に琉架は事務室の自身の机で羊皮紙を睨んでいた。
(あれから一週間。練れるだけ練ったつもりだが、どうもまだ粗がある気がする)
琉架は前の世界で経営者会議の前に提出資料を何度も確認していたときを思い出した。
「もう起きてたのか。随分早いな」 ゴルバが琉架の後ろから声をかけた。
「ゴルバさん、なんだか目が覚めちゃって」
「どうやら相当重積を感じているようだな。レオナール王も言っていたが、お前だけの責任じゃない。全員の意見を集約して最終的にレオナール王が判断される。だから安心して思うままに意見を言え」
「.......わかっています」
「さ、めしにするぞ。ティスを起こしてこい」
「...........わかりました」琉架は空返事をして、思い足取りのままティスを起こしに行った。
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王宮のとある会議室。
「皆、今日も集まってくれて感謝する。先週話した三本の柱の内容を詰めていきたい。まず、全体像を把握していきたい。イザベラ、農業改革についてどうだ」
「はい、この一週間農村を視察致しましたが、この国の農業の改善すべき点は2点ございます。一つ目は人力の作業が多すぎます。もっと他の動物や、魔物の力を借りるべきです。私の祖国では耕作において、ユニホーという四本足の角の生えた魔物を使用していました。調教に時間はかかりますが、一度調教できれば、農地開墾の時間は半分以上削減できます。そのためにはまず、この国でユニホーを飼育、調教できる施設を作る必要があります」
イザベラが相変わらず背筋を伸ばしながら理路整然と説明する。
「魔物に農業させるんすか。なんか意外っすね。この国だと被害はあれど、手伝わせたことなんてなかったから」 トッドが頭の後ろで両手を組みながら天井を見た。
ゴルバが腕を組みながらトッドの言葉に反応する。
「そこは石壁の弊害という見方もあるな。本来人間と共存できるはずの魔物たちも石壁に阻まれているせいで、生体についてほとんどわかっていないことが多い。その点ノルマン王国は海には魔物がうじゃうじゃいるが、地平にはそこまで凶暴な魔物はいなかったらしい。ノルマン王国の知識と経験を存分に使えそうだ」
「そうだな。二つ目とはなんだ、イザベラ」レオナールがイザベラをまっすぐ見た。
「二つ目は備品の不足です。先王の悪政のせいで民たちの生活が苦しかったためか備品を新しく買うことができないものが多い。いまだに木製のものを使用している方もいらっしゃいました。ここは一度国が出費を請け負って、全て鉄製の最新のものにすべきかと思います。最終的にできた作物から回収すればお互いにとって得になりますわ」
「そうなると製鉄所の人員も足りなくなりそうだな......」ティスがちらっとキーンの顔を見た。
「そうだな。まさに国策だ。必要なところに、必要な人材が集まるよう、国が始動しなければならない。今後会議でとる一つ一つの策が国力に直結することを皆に今一度胸の留めておいてほしい」
レオナールが力強い声で言い、一人ずつ顔を見た。
「以上が農業改革の全容です。前者は私の祖国から何人かこの国へ来て尽力いただくつもりです。あの航路を越える必要があるため、その際は精鋭の部隊を護衛としてつける必要がございますわ。そのためには石壁の防衛をどうするかも検討しなければなりません」
「そこは魔法部隊でなんとかするよ。てか、私一人いれば護衛は十分な気がするし」
「アーシュリ、侮るな。私とて、それなりに腕に自信がある。だが、この通り今では右腕がない。あの海を渡るにはそれなりの戦力が必要だ。お前一人では危険すぎる。最低あと一人腕の立つ魔法使い、二人屈強な戦士が必要だ。それでも安全とは言えん」
ドヴァンがアーシュリを諭した。そして、かつての苦痛が思い出されるかのように右肩を摩った。
「....すぐに答えは出ぬな。先に二つ目の柱。戦士と魔法使いの教育機関について、ドヴァン頼む」
レオナールがドヴァンに対して二つ目の柱について説明を求めた。
「は、教育機関に関しては人が集まりさえすれば場所はどこでも構いません。一つの案として石壁から半日
ほどのところに廃村になった村がございます。ここを改修して使えればと考えています。石壁から近い分、物資の補給も動線上で効率が良い。そこに志願者を集め、戦士、魔法使いの適正ごとに教育を施します。ただ、一点問題があり.....」
「教官でしょ。師匠」アーしゅりが前髪をくるくるといじりながら言った。
「そうだ。そもそも石壁に割くべき人員を教官として教育施設に常駐させる必要がある。そして半端な腕のものでは、志願者の能力向上に心配が残る。どうやって教官を捻出するかが火急の問題となります」
「ドヴァンが適任だと考えていたのだが、それでは足らぬのか」
レオナールがドヴァンを真っ直ぐ見た。
「もちろん、私は教官として従事するつもりでおります。しかし、肝心の戦士の方に適任な人物がおらぬのです。魔法使いには生まれ持った素養が必要となります。そのため、おそらく志願兵の大半は戦士として訓練していくことになるでしょう。その大人数を誰が訓練するかとなると......」
「ライガー。そなたの意見が聞きたい。どう思う」レオナールはライガーの方を向いた。
「ふん、戦士に訓練施設などいるか。そんなの前線に出せばいいじゃねーか。それが一番戦士として成長するんだよ」ライガーが腕を組み、大きな声量でドヴァンを牽制するように言った。
「全く、この男は....」ドヴァンが呆れたようにため息をついた。
「なんだ、本当のことだろうが。訓練をいくら積んでも実際に命をかける戦場は訳が違う。訓練で強くなったと勘違いする輩が出ないようにさっさと前線に立たせちまえばいいんだよ」
ドヴァンがライガーを睨め付けた。
「そのせいで新人が育たず、前線で負傷する、さらに兵士が足りなくなり新人を育てる余裕がなくなる。その繰り返しをして来たから戦士の高齢化が進み、数が足りなくなっておるのだ。少しは頭を使えるようになれ、この阿呆が」
「なんだと、てめぇ。以前から気に食わないやつだと思ってたが。片腕なくなってさらに人をイラつかせるようになったじゃねーか」
「お前のあほヅラは十二年経っても変わらぬな」
ライガーが勢いよく立ち上がり、ドヴァンとの間合いを一瞬で詰め胸ぐらを掴んだ。掴んできたライガーの手首をドヴァンが強く握る。
「いい加減にせぬか!」 レオナールが机を叩き立ち上がった。
「会議の最中だぞ。二人とも席につけ。」
ライガーは掴んだ胸ぐらを離し、腕を組みながら自席に戻った。
「......ライガー、そなたの実力は認めるが、ドヴァンの言うように皆がそなたのようにいきなり戦場に出されて平気な訳ではない。前線にいきなり立たされても恐怖のあまり動けぬものが大半だ。そのために訓練が必要なのだ。......確かに、戦士を育てる適任のものを探すのは手を焼きそうだ。腕が立つものはどうも癖が強いからな。ゴルバ、元戦士のそなたの意見が聞きたい」
「........俺の知る限り、戦士の中に教官として志願兵を適切に育てられるやつはいませんね。どいつもこいつも崖から落として這い上がってなんぼだと思ってる無骨な奴らばかりですから」
「面倒見がいいやつなら前線にもいるじゃねーか」ライガーがゴルバを見ながらニヤついている。
「誰のことだ」
「お前の嫁だよ。女だてらに戦場駆け回ってるあいつなら実力もあるし適任だろうが」
(.........お前の嫁?)琉架の脳内で嫁という字が反芻される。
「えー、ゴルバさんって結婚してたんですか?」トッドの目が未だかつてないほど見開いている。
「いや、結婚しろと言われただけで、実際に入籍はしていない。なぜこんな時にあいつの話をするんだ。あいつは戦場が大好きな女だぞ。戦場を離れると思うか」
ゴルバは顔を赤くしている。
「.........会ってみたいっすね。ゴルバさんの奥さん」ティスが笑いを必死に堪えている。
「お前まで、嫁じゃないと言ってるだろうが」
「十二年前までセリーはいい感じだったと言ってたぞ。いいじゃねーか。筋肉はすごいが、あいつもいい女じゃねーか」
「セリーさんは確かに綺麗ですね。どこが嫌なんでしょうか」ミーナが会話に参戦する。
会議室がゴルバの嫁談義で大盛り上がりの最中、レオナールは机を思い切り叩いた。その音に驚いた一同は会話をやめ、静寂が流れた。
「一旦休憩とする。各自頭を冷やし、10分後に再開する」
そういうとレオナールは足早に部屋から出ていった。
国策を練る重大な場でのいきなりのカミングアウトいったいどんな人なのかお楽しみに!




