第十六話「枯渇」
休日。
ティエスは、冒険者ギルドに向かった。
ジルが騎車を出し、トーリも同行している。
ティエスは、動きやすい軽装の防具。
トーリとジルは、いつもと変わらない普段着とメイド服であった。
ジルが、冒険者ギルドから少し離れた位置に騎車を停めた。
ティエスとトーリは客室から降りた。
ジルは、御者台に座ったまま、手をひらひらと振って見送った。
ティエスとトーリは、ギルドの扉を開いた。
「だからぁ!Dランクの依頼が、ないじゃないですかぁ?!」
甲高い声が響いた。
中は揉めている様子だった。
「CでもBでも、出来るからやらせて、って言ってるんですぅ!」
少女が、ぷりぷりと怒っている。
腰に手を当て、薄桃色のサイドテールが揺れた。
「Dランクのあなたには、上位ランクの依頼を回すことは出来ません。規則ですから」
受付のオーカーが、眉をハの字に困らせて対応している。
「もし、上位の冒険者とパーティを組めるならば話は別ですが──」
オーカーの言葉に、少女はロビーを振り返る。
サイドテールとマントが揺れて、口を尖らせた童顔が、居合わせた冒険者たちを見回した。
視線を向けられた冒険者たちは、顔を背けた。彼らもまた、依頼にありつけなかった下位の冒険者たちである。
「いないじゃないですかぁ?」
少女はオーカーに向き直り、再び口論が始まった。
ティエスは、腕組みをした。
「なんだ。Dランクの依頼はないのか?」
「パーティを組めば別、と言っていただろう」
トーリは、いつも通りの笑みを浮かべている。
「ぼくがいる。ティーでも関与できそうな依頼を探そうか」
トーリが歩みを進めようとすると、
「あーあ!あたしも闇ギルドの依頼ぃ、受けちゃおっかなぁー!」
少女は、一際大きな声で言った。
「ダメです。規則違反です。闇ギルドとのやり取りが確認出来次第、冒険者ギルドからは除名されますよ」
オーカーが、低い、落ち着いた声で返す。
「闇ギルド?」
ティエスは、首を傾げてトーリを見た。
「冒険者ギルドを通さずに、冒険者たちに依頼を発注している団体がいるみたいだね。この前のトリアル村でも、薬草の買い占めがあったわけだけれど」
トーリは答えた。
「規則、規則ってぇ。規則守ってたって、規則はあたしを守ってくれないじゃないですかぁ?それともぉ、おにーさんが、依頼くるまでご飯くれるんですかぁ??」
少女の言葉。
周囲の冒険者たちも、内心は同じだった。
D、Cの下位の依頼は、枯れて久しかった。
掲示板には、AやSといった上位の依頼が色褪せて残るばかり。
上位は手が足りず、下位には仕事も昇級の機会もない。
加えて、薬草の採取といった、通年依頼が消えている。
闇ギルドの買い占めや過剰な採取により、市場から薬草自体がなくなっていた。
──一理あるな。
ティエスは頷いた。
少女に向かって歩き出す。
トーリは、止めようと手を出しかけたが、ティエスの横顔を見て、苦笑を浮かべて、やめた。
「あのさ」
「ぴゃっ?!」
ティエスが少女の肩を叩くと、少女は驚いた様子で振り返った。
「……全然、魔力を感じませんでした。おねーさん、ほんとに人間ですかぁ……?」
少女は、ティエスの手に自身の手を重ねて、言った。
「失礼な。良かったら、パーティ組む?」
ティエスは、半目で言った。
「いいんですかぁ。嬉しいですぅ」
少女は身体ごとティエスに向き直り、両手でティエスの手を包んだ。
「あたしぃ、サキって言いますぅ。よろしくお願いしますねぇ。おねーさん」
サキは、笑顔でティエスの手を包んだまま、ぶんぶんと上下に振った。
露出の多い軽装に、マントを羽織っている。
小柄な体格ながら、その胸は豊満である。
腰元の短剣は、よく手入れされていた。
「私はティエス。あっちはトーリ」
ティエスは名乗って、自由な側の手でトーリを指し示した。
トーリは、軽く手のひらを挙げた。
「よろしくお願いしますぅ」
サキの紫の瞳が、ティエスとトーリを値踏みした。




