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60 過去へ

朝になり二人はいつもより少し早くに目が覚めた。

そして、支度を済ませると庭に出て朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。

旅立ちの時間までまだ少しあるため、二人は並んで境内を周り時間を潰した。


すると目の前から黒髪の少女がこちらへと歩いて来る。

そして少女は二人の前に来ると足を止めた。

二人もその神物が人間でない事は分かっていたためそれほどの驚きはない。

そしてアリスも見える事から何かの依り代に宿りここに来たようだ

すると二人の顔を見て確認を取ると異空間から剣と数本の小太刀を取り出した。


「私はカグツチという。お前たちに餞別を渡しに来た。まずはアリスだな。前回見た時よりもいい顔になってるな。それならこれを渡しても大丈夫そうだ。」


そう言ってカグツチは一本の直剣をアリスへと渡す。


「それは形は違うが蒼士に譲った剣と同じように不懐の属性が付いている。ただそれ以外を付けるには時間が無かった。すまないがこれで勘弁してほしい。」


アリスはカグツチから剣を受け取ると礼を言ってアイテムボックスへと仕舞った。

そしてカグツチは7本の小太刀を宙に浮かしてそれを百合子へと差し出した。


「これは雷神から依頼のあった物だ。それぞれに雷神の加護が宿ってるから使う時は気を付けてな。あちらには魔法に雷属性があるんだろ。これはその補助と増幅をしてくれるはずだから過去に戻ったら、少しでも雷神から戦い方を習うといい。それとこれを持って行け。これはスサノオの好物が入っている。これを渡せばあの飲んだくれなら願いを聞いてくれるはずだ。」


それだけ言ってカグツチは去って行った。

そして百合子もアイテムボックスに小太刀を仕舞うと二人は朝食を取りに家に戻って行く。


朝食を食べ終わると、そこに丁度合わせたように雷神が現れた。


「そろそろいいかの。こちらは準備が出来ておるからいつでも行けるぞ。」


その言葉に百合子とアリスは同時に立ち上がって一時の別れを告げる。


「それじゃ、お母さん、お父さん行ってきます。」


百合子の言葉に撫子は涙を流しながら百合子を抱きしめる。


「頑張るのよ。伊織の事よろしくね。」


そして春樹は百合子と撫子を一緒に抱きしめる。


「アイツが言う事気かなかったら遠慮なく殴っていいからな。男は時に無理やりしないと言う事を聞かないからな。」


そして3人は離れると互いの目に涙を浮かべながら別れを告げる。

そしてアリスも世話になった事に礼を告げると外へと向かって行った。


すると外ではすでに雷神が二人を待っておりそのまま転移で移動していく。

撫子と春樹はその消えていった二人の後をしばらく眺め自分達の信じる神に無事をいのった。


転移が終わるとそこには天照、スサノオ、カグツチ、オーディン、ハーデス、ヘルディナが居り、彼らの後ろには何やら空間の穴が口を開けていた。

すると天照とオーディンが互いの勢力を代表して前に出た。

そして最初に声を掛けたのは天照である。


「よく来ました。すでに準備は出来ています。これに飛び込めば過去へ行くことが出来ますが問題はありませんね?」


百合子とアリスは無言で頷いて答える。

緊張しているのもあるがこれから向かうのは20年前である。

そのためここに飛び込めばもう自分たちの力で切り抜けるしかない。

次に二人が合流するのは1年後のあちらの世界であった。

そして次はオーディンが二人へと声を掛ける。


「二人とも、移動後は彼方の自分たちがお前たちになる。そのためアイテムも、魂に刻まれたスキルも変わらん。しかし体は今よりも遥かに弱いはずだ、しっかり体を慣らして召喚に備えるように。」


そしてそれにも二人は無言で頷いて答えゲートへと歩み寄る。

しかし、そこで天照が「あ」っと声を上げた。


「アリスに言い忘れている事がありました。」


その声にアリスは足を止めて天照に顔を向ける。


「何ですか?」


天照は少し言い難そうにしてから意を決したように話し出した。


「ハーデスさんから聞いたのですが。」


その時点でアリスの脳裏に2日前の事が思い浮かぶ。

そのため主神からの言葉だというのに嫌な予感しかしなかった。


「ハーデスさんが言うにはあなたはとても面白い方だと。それでこちらの笑いにまつわる神で誰か加護を与えられないか探してみたのです。ちょうど日本の神々も酔っていたので冗談交じりに言ったら一人手を上げてくれましたよ。」


そう言って天照は笑顔をアリスへと向ける。

しかし、加護を貰えるとうのアリスは両手で頭を抱え、空を見上げて苦悩していた。

そして顔を下げるとすかさずハーデスを睨みつける。

すると狙っていたようにハーデスと目が合い彼は口に手を当てて「ククク」と笑った。

その姿にアリスは顔を赤くして無言で地団太を踏むが天照は善意で言ってくれた事である。

文句を言ったり、ましてや断る事は出来ないだろう

そして、天照はそんなアリスの事を気にする事無く話し続けた。


「それでその神ですが既にあなたに加護は与えているらしいです。ただ彼が言うには魂が少し普通と違うらしくとても馴染みがいいと。きっとスキルとして何かそれらしいのが付いてると思うので早めに確認してみてください。」


するとアリスは急いでステータスを確認する。

すると確かにそこには見覚えのないスキル名が書かれていた。

その名も『轟運』。

どうやらピンチをチャンスに不運を幸運に変えてくれるようである。

アリスはそれをくれた神の名前が気になり問いかけた。


「あの確かにそれらしいのがついてましたがどなたからの加護なのですか?」

「ああ、七福神の恵比寿が気まぐれに付けてくれました。あなたの身の上を聞いて少しは力になればと言ってましたよ。」


するとアリスはその神に向けて感謝の念を飛ばした。


(まともなスキルをありがとう。どんな時でも笑いが取れるスキルじゃなくてよかったです。)


そして天照にもお礼を言った後にハーデスには[あっかんべー]をして二人はゲートへと飛び込んだ。

それを見送った神々はゲートが閉まるのを確認してハーデスへと視線を集める。


「お前ももう少しまともな励まし方はないのか。あれでは過去のお前が大変であろう。」


するとハーデスは少し笑って言葉を返す。


「良いであろう。あれで彼女たちの緊張は解けゲートに無事飛び込めたのだ。あんなに緊張していては上手くいく物も行かなくなる。」


そして神々の多くは呆れた視線を向けて解散して行った。




そしてここは20年前。

百合子は学校で授業を受けていた。

そして自分が20年前に来れたのかを確認するためにカレンダーと黒板を確認する。


(ホントに20年前に戻ってる。これなら帰ってからすぐにお爺ちゃんと話をすれば何とかなるかも。)


そして放課後になり彼女は急いで家に帰ると社に飛び込んだ。


「お爺ちゃん話があるの」


しかし、いくら呼んでも雷神が現れる気配は無かった。

そして彼女はある事を思い出した。


(あ、今10月だからみんな出雲に行ってるんだ。)


しかし、時間があるため慌ててはいないがこれは一つのチャンスでもある。

出雲に行けばそこには多くの神がおり、一度に話が出来る。

どうやらアリスの轟運はここでも働いているようである。

百合子はすぐに社を出ると春樹と撫子の元へと走った。


「お父さん、お母さん私今すぐ出雲に行きたい。」


そして家に入るなり大声を出して叫んだ。

すると奥から撫子が手を吹きながら出て来て笑顔を向ける。

その姿は自分の記憶にある母親とほぼ変わらない姿であり百合子の胸にとても嬉しい思いが沸き上がった。


「百合子どうしたの急にもしかして何かあったの?」


撫子は笑顔を絶やす事なく百合子へと問いかける。

すると百合子から真面目な顔での頷きが返って来た。

その途端に撫子は奥へと入ると電話をかけ始める。


「春樹さんすぐに車を用意して。今から出雲へ向かいます。」


そしてそれ以外は何も言わずに電話を置くと再び電話を掛けた。


「お母さん、百合子がすぐに雷神様に用事があるそうなの家に来て伊織の面倒を見てもらえる。」

(ああ、任せておきなさい。今から行くから数分で着くよ。)


それだけ言って撫子は電話を切った。

そこには確認や疑問などを挟む気配はなくトントン拍子に準備が進んで行く

そして撫子はすぐに荷物ケースに数日分の服を詰めると財布を持って百合子と共に家を出て行った。

境内から出ると既に春樹が待っており、その横には車が1台エンジンをかけた状態で止まっている。

そして撫子に車を渡すと「気を付けるんだよ」と言って二人を抱きしめた後に境内の家へと戻って行った。

その頃には撫子の母親が到着しており撫子から引き継いだ夕食の準備を行っている。


「お義母さんありがとうございます。」


春樹は突然のことながらこちらに来てくれ撫子の母に頭を下げる。


「何言ってるんだい。我が家は代々雷神様の巫女をしてるんだよ。こういう時の対応は昔からの習わしとしてちゃんと決まってるんだ。お前が気にする事じゃないよ。それよりも伊織は大丈夫かい。私は今はここから離れられないんだよ。あちらはお前が父親としてしっかり面倒見るんだよ。」


そしてその頃、百合子たちは車に乗り高速道路を走っていた。


「百合子ここから出雲まで走ったら到着は深夜になるから、近くのパーキングでご飯食べたらあなたは少し寝ておきなさい。」


そして食事を終えた百合子はしばらくの間、後部座席で眠りにつくのだった。


そして目覚めるとそこは出雲大社の境内である。

百合子は撫子に起こされると車を降りて境内へと向かった。


「お爺ちゃん出て来て~。百合子だよ~。」


すると境内の入り口にスパークが走りそこに常人には見えない次元の裂け目が現れる。

そしてそこから一人の老人が現れた。


「どうしたんじゃ百合子何かあったのかの?」


そこから現れたのは雷神である。

彼は百合子の声に気付いて天照が作る空間なら出て来たのだ。

すると百合子は雷神に駆け寄ると要件を告げる。


「お爺ちゃんお願いがあるの出来たら天照様やスサノオ様にも聞いてほしいの。」


すると雷神は少し考えた後、百合子の手を取って天照の空間へと入って行った。

それを後ろで見ていた撫子には娘が突然消えたようにしか見えない。

しかし、百合子の会話から雷神が百合子の願いを聞いて何処かに連れて行ったのだろうと予想を付け、その場で待ち続ける事にした。


雷神に招かれ天照の空間に入るとそこには酒の匂いが充満し、そこかしこに神々が酔い潰れていた。

そして酒の匂いに慣れていない百合子は鼻を押さえて軽く唸り声を上げる。


「うう、臭いよお爺ちゃん。」


するとその声に百合子を見た雷神は彼女の頭を撫でて笑い声をあげた。


「わははは。すまんの百合子。少し我慢してくれ。天照に頼めばすぐに匂いもなくなる。それと確認じゃが少し見ん間にお前さんの魂が変質しておるのに何か関係しておるのか?」


すると百合子は雷神の顔を真剣に見つめ頷きを返した。


「うん、それもあるけどそれは天照様の前でまとめて話すね。」


そう言って百合子は繋いだ手を強く握り返した。

そしてしばらく進むと一つの部屋に二人は入って行った。

そこには酔っ払いの神はおらず、清浄な空気が満ちていた。

百合子は鼻から手を離すと目の前に座る見覚えのある神に跪いた。


「人の子よ、何故こんな所に来たのだ。ここは今、日本中の神が集まっている。中には人を食う者もいるからすぐに立ち去りなさい。」


しかし、百合子は立ち上がらず顔を上げると天照に話しかけた。


「どうしても天照様にお願いしたい事があります。どうか話だけでも聞いてもらえませんか?」


すると天照は少し悩んだが百合子の魂を見ると気が変わったのか話を聞く事にした。


「お前の名前は何という?」

「近江 百合子といいます。」

「百合子よ今は酒の席。余興として聞かせてもらおう。お前は何を我々に伝えたいのだ。」


百合子は天照に恭しく一礼すると自分が知る全ての事を話し始めた。

それは彼女の喉が枯れる程長く続き当然その中には質疑応答も含まれていた。

そして天照は念話を飛ばしてすぐにスサノオとカグツチを呼び寄せた。


「どうしたんだ天照。いきなり呼ぶなんて珍しいな。」


そう言って扉を豪快に開けて入って来たのはスサノオである。

こちらは片手に酒瓶を持っており先程まで飲んでいた事が分かる。

そしてその後ろに剣を持った少女が静かに入って来た。

しかし、こちらは未来であった時よりも表情が硬く、まるで美しい人形のようだ。


「天照様、お呼びですか?」


そう言って入って来たカグツチは感情のあまり感じられない平坦な声をしている。

彼女は外で今日も剣の修行に明け暮れており僅かに疲労の見える顔で問いかけた。


「ああ、実はこの人の子が面白い情報を持ってきてくれてね。これはちょっと看過できない事なんだ。今から伝えるからそれを見てくれ。」


すると天照は二人へ向けて思念を飛ばす。

するとそれだけで百合子と話した数時間分の内容が伝わり二人は納得した。


「天照よ~。これはちょっと俺たち舐められすぎじゃねえか。どう見ても喧嘩売られてるうえに放置するとこの世界が滅んじまうぞ。」


そう言ってスサノオは顎の髭を触りながら闘気を立ち上らせる。

そしてその闘気は当然、同じ部屋にいる百合子にも降り注ぎ彼女は息をする事も出来なくなった。

それに気付いた雷神はすぐに盾となり百合子へ向かっている闘気を跳ね返した。


「大丈夫か百合子?」


雷神は急いで百合子の肩に手をかけ無事を確認する。


「だ、大丈夫・・、お爺ちゃん。ちょっと苦しかっただけだから。」


すると雷神はホッと息を吐いて立つとスサノオを睨みつけた。


「おいスサノオ。もう少し周りを見て行動せんか。危うく儂の可愛い百合子が死んでしまうとこだったぞ。」


スサノオはフンと鼻を鳴らし百合子へと視線を向ける。

しかし反省の色のない顔で再び天照へと顔を向けた。


「それでどうするんだ天照?」

「これは円卓会議が必要ですね。しかしどれほどの神が協力してくれるやら。」


天照は渋面を作って悩み始める。

しかしそこに百合子が声を掛けた。


「あの、未来の天照様たちはカグツチ様に協力していただいたと言ってました。主に秘蔵のお酒で。」


するとそれにいち早く反応したのは当然スサノオであった。


「カグツチお前に酒はよく貰うがそんな酒があるのか?」

「さあな、私は酒を飲まんから美味いか不味いか分らん。」


そこで百合子はアイテムボックスから一つの酒瓶を取り出してスサノオへと見せた。

それはこちらに来る直前にカグツチから受け取った秘蔵の酒である。

百合子は酒瓶を手に取るとその蓋を開けてその匂いを解き放った。


「うおーーーなんじゃいこの匂いは。これだけで理性が飛びそうだ。」


そしてスサノオは突然歩き出し百合子の前に立つとその手を差し出した。


「それは神への貢ぎ物だろう。」


しかし百合子は怯む事無く酒瓶をアイテムボックスに仕舞うと笑顔を向けた。

カグツチは言っていたのだ。

これを使えばスサノオは願いを聞いてくれると。

そして、ここで蒼士たちを救う権限を持つのは天照である。

そのため百合子はまず天照へと確認を取った。


「それで天照様は蒼士さんと冬花さんを救ってくれますか?」


その問い掛けに天照は悩む事なく頷いた。


「その子達を救わないと今後私達が他の世界の神々から舐められる事になる。そのためその二人を救うのは決定事項だ。それには当然君ともう一人の子も含まれている。」


それを確認すると百合子はスサノオへ向くと笑顔のまま話しかけた。


「スサノオ様にあのお酒を差し上げるのは吝かではありません。その代わり私に戦う力を・・・。可能なら加護をいただければ幸いです。」


するとスサノオは顔を赤くして百合子に詰め寄った。


「舐めるなよ小娘。貴様程度の人間に加護なんぞやれん。」


すると百合子は再び酒を取り出して蓋を開けるとスサノオへ匂いが行くように手で仰いだ。


「うおおおおーーーー。やめろ小娘。があああーーー。」


その姿を天照は笑いをこらえながら見つめ、カグツチは呆れた目で見ている。


すると、とうとうスサノオに限界が来たのかその場に膝を付いた。


「わ、分かった。お前に加護をやろう。しかしお前では俺の加護に耐えられん。そのため加護はやるがお前が耐えられるまでだそれでいいな。」


スサノオは百合子へと近づき慎重に神気を流し込んでいく。

そしてある程度注いだところで百合子はその強力な神気に耐えることが出来ず手足の血管が裂け、目から血の涙を流した。


「おいスサノオ流しすぎだ!百合子が死んでしまうぞ!」


そう言って雷神は急いでスサノオを止めて遠ざける。

すると百合子はアイテムボックスからポーションを取り出しそれを口に流し込んだ。

すると傷はみるみる治り怪我をする前の状態へと戻る。

それを見て天照は興味深く百合子とポーションを見た。


「それはあなたが作った物ですか?それともあちらで手に入れた物で?」

「こちらは私が作った物です。私はアイテム製作に特化した者なので元々スサノオ様の加護を完全に受け止められる器は持っていないのです。それでも私は自分の目的を果たすには少しでも力が欲しいので無理なお願いをしました。」


そう言ってお酒をスサノオに差し出した。

スサノオはそれを大事に抱えるとその場で蓋を開けゆっくりと飲み始める。


「うっめーーー。こりゃいくらでも飲めそうだぜ。(チラ)」


そう言ってアピールしつつカグツチを見るがいい反応はない。

どちらかと言えば無視されている感じである。

百合子もそのやり取りを無視して幾つかのアイテムを天照へと差し出した。

どれも予備はあるが出来れば無駄使いはしたくない。

しかし、天照は百合子の製作物に興味があるようであった。

彼女は自分の事を売り込む時だと判断したのである。


すると天照は神の目による鑑定を行いその性能に驚愕するのであった。

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