61 修行①
「何ですかこの出鱈目な性能は!」
鑑定を行った天照が最初にその性能に驚愕し手元のアイテムを鑑定して行く。
その様子に天照だけでなく周りで見ていたスサノオや雷神、更にカグツチまでもがそのアイテムを見ようと近寄った。
そしてすぐに全員がその性能に驚愕する事になる。
「なんじゃこれはこれをホントに百合子が作ったのか?」
「これは人が作れる次元を超えてるぞ。こんな小娘が信じられん。」
「これは、応用すれば私の作る剣も更に進化するかもしれない。」
それぞれ雷神、スサノオ、カグツチの順であるが皆が目の前のアイテムを高く評価する。
そしてこの時、天照はこの閉鎖した世界を改革する事を決意する。
それは奇しくも未来の自分が考えていた事と同じ道を歩む切っ掛けとなった。
「百合子。これは簡単に作れる物なのか?」
「はい私にとっては材料があれば簡単に作ることが出来ます。」
「そうか・・・。」
そう言って天照はしばらく考えると全ての決断を下した。
「君の望み通り、君を含めた4人はこちら神々でどうにかしよう。しかしアリスという人間の両親と君の弟についてはこちらでは関与できない。まあほっといても雷神が無断で何とかしそうだけどね。」
百合子にそう告げた天照は次に雷神を見た。
「雷神。私は君が何をしても咎めるつもりはない。ただ世界のルールは守るように。それと百合子はスサノオの加護を受けたが育てなければ意味がない。君の方で死なない様に鍛えてやりなさい。成長すれば余裕が出来て君の加護を受け入れるくらいにはなるだろう。」
そして、話が終わったので百合子は雷神に連れられ部屋を出ていった。
その後、空間を出るとそのまま近くで待っていた撫子と共に社を後にする。
しかし、互いの疲労を考え、旅館で一泊して帰る事になった。
そして百合子の長い1日が終わり、今考えられる最大の成果を得て家路につくのであった。
そして数日後の土曜の昼。
百合子は蒼士の元へと追憶の腕輪を届けに向かった。
蒼士の家は自分の家からはそれなりの距離があったが家族旅行のついでとして向かうことが出来た。
今は未来がどうなるか分からない。
そのため伊織にもいい思い出を作ってやりたいと百合子は考えたのだ。
(たしか、教えてもらった住所だとこの辺だけど・・・。)
百合子は道行く人に住所を聞きながら次第に山へと向かって行く。
そして、それから迷いながらも1時間ほどで渡辺と表札のかかる家を見つけ出した。
百合子は戸惑いながらも少し高い位置にある門のベルを鳴らす。
すると中から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「はーい、どちら様ですか?」
そして玄関を開けて現れたのは蒼士ではなく冬花であった。
どうやら彼女は蒼士の家に遊びに来ているようだ。
百合子は少し悩んだが彼女がいるという事は蒼士もいる可能性が高い。
それにここで逃げては古のピンポンダッシュという悪戯になってしまい相手に不快な思いをさせてしまう。
特に蒼士は他人が冬花を困らせる事を断じて許さない性格である。
今はまだ、あそこまで苛烈ではないにしても、これから重要な話をするうえで信用は大事であった。
「すみません。蒼士という方はおられますか?」
すると冬花は一瞬[?]と頭に疑問がよぎったが「ちょっと待っててね。」と言って中へと入って行った。
そして、すぐに蒼士を連れて冬花は戻って来た。
その顔は百合子の知る彼女と同じとても幸せそうである。
百合子はこの二人の幸せを護るために話を切り出した。
「あの、今から重要なお話があります家の中でもいいですか?」
すると蒼士は疑う事なく百合子を家の中に招きいれた。
部屋に入るとどうやら二人で仲良くお茶をしていたようだ。
机には手作りと思われるクッキーが置かれ部屋には日本茶の香りだ漂っている。
「この椅子に座ってくれ。それと追加の湯飲みを出すから、クッキーは好きに食べるといい。自慢じゃないが冬花のクッキーは世界一だぞ。」
そう言って蒼士は幼女である百合子に惚気てみせる。
その姿は彼方の世界で会った時とは大きく違いその顔には今が幸せである事が伺えた。
しかし、もし、冬花を救えなければこの笑顔が失われるのは確実だろう。
そして互いの前に湯気を立てた湯飲みが揃うと百合子は緊張の中、蒼士を見つめて話し始めた。
「あの、信じてもらえないかもしれませんが私は未来のあなたから重要な記憶を預かってきました。」
そう言って百合子はアイテムボックスから追憶の腕輪を取り出し蒼士たちの前に置いた。
二人は突然現れた腕輪に驚き、その腕輪に視線を向ける。
しかし、まだその顔はこちらを完全には信じていないようである。
「それでお願いですがこれを付けて眠れば夢でこれから何が起きるかが分かります。もし信じてもらえるなら後日この神社に来てください。」
そして百合子は準備してあったメモ用紙を渡した。
百合子の神社はかなりの大きさがあるのでネットで調べてもすぐに分かる程である。
しかし、念のために百合子は住所や電話番号などを書いた紙を渡しておいた。
すると蒼士は確認するように百合子に問いかけた。
「もし君の言葉を信じずにこれを使わなかったらどうなるんだ?」
すると百合子は悲しそうに顔を歪めながら答えた。
「冬花さんが手の届かない所に行ってしまいます。そこを人は異世界と言いますが。そんな所に力のない冬花さんが言ってしまったらどういう結果になるかは言わなくても分ると思います。」
すると蒼士は腕輪をはめるとソファーへと向かう。
そしてそれに合わせる様に冬花はソファーの端へと座り、蒼士は冬花の足を膝枕にして眠り始めた。
すると次第に蒼士は眠りに落ちて行く。
(凄い早さ。の〇太もびっくりの速度ね。)
そして眠りについた蒼士が見た物は彼が味わった17年の捜索の苦しみ。
そしてその横で同じように流れる冬花の17年の死の記憶である。
それらを見ながら蒼士は夢という時間の流れが曖昧な世界を驚異的な速度で駆け抜ける。
蒼士は神の才能スキルを取り込めるほどの天才である。
ただ今まで冬花がいたのでそれに胡坐をかいてその才能を数パーセントしか使っていなかった。
そして今、蒼士は自分の意思により自分の緩みきっていた精神を書き換える。
それは冬花への思いをそのままに彼女を護るために次第に未来の蒼士へと近づいて行く。
そして映像が終わりに近づくにつれて最後に自分からのメッセージが流れた。
「冬花のいない時間は地獄と同じだった。だからお前は冬花を護れ。しかし冬花にとっても俺のいない時間は地獄と同じだ。だから自分も守れ。そのための力を手に入れろ。」
そこで映像は途切れ俺は目を覚ました。
時計を見るとその時間は1時間にも満たないようだ。
そして目が覚めた俺はその顔を百合子の良く知る物に代わっていた。
「百合子・・・。よくこれを届けてくれたな。これで冬花を護るための算段がついた。ところで、ちょっとスサノオとカグツチに会いたいんだが何か手段はあるか?」
「それなら今出雲にいるから行けばすぐに会えると思う。でも今は二人の事知らないからかなり危ないよ。」
百合子は先日の事を話しながら俺に忠告してくれる。
未来での神々は好意的であったがあの時は俺の境遇に思う所があったからだろう。
しかし今はまだ信頼関係も何もできていない。
彼らから見ればまだ俺は数十億いる人間の一人だからな
「構わない。それに今のままだとどっちみち高校は留年か退学だ。俺はすぐに動く。冬花、俺に付いて来てくれるか?」
冬花は迷いなく笑顔で頷いた。
そして俺達は荷物を纏めると百合子の案内で出雲へと向かった。
一応手紙は残してきたが定期的には連絡を入れる予定である。
そして手紙にはある時期からはしばらく連絡が出来なくなると書いておいた。
そして百合子も両親に連絡しそのまま旅行を楽しむように伝え新幹線と電車を乗りついで目的地へと到着した。
周りは既に暗く観光客は誰もいない。
百合子は先日雷神が現れた場所に向かい再び雷神に呼びかけた。
「お爺ちゃ~~~ん。」
すると前回と同じように雷神が現れた。
そして雷神は初めて見る俺と冬花に目を向ける。
「そこの二人は誰じゃ?」
すると雷神は目を細め鑑定を行い魂を読み取った。
そして二人の魂を見て雷神は顔を驚愕に染める。
それはこの二人が先日話に出て来た者達であると分かった事もあるが最も驚いたのはその魂の輝きである。
その輝きはこの世界で言う聖人という者たちに匹敵し、これなら未来の神々がこの者たちを取り戻そうとする理由が理解できた。
そして今はまだ雷神を認識できない二人に変わり百合子は俺の手を取り、俺は冬花の手を取って中へと入って行った。
中に入ると目の前の景色が突然切り替わる。
周りに見えるのは先ほどまでの夜の社ではなく光に包まれた新品のように美しい社が視界に映る。
そして百合子の前には先ほどまで見ることが出来なかった雷神が俺達に視線を向けていた。
「この空間は天照の作る特別な空間じゃ。じゃから儂らの姿も見えるし声も聞こえる。じゃがここには大人しい神だけではない。絶対に儂から離れるなよ。」
そう言って雷神は3人を天照の元へと案内していく。
そしてそこには先日と同じ3人の神が待ち受けていた。
すると先ほどの雷神のように神たちは蒼士と冬花の魂を確認する。
その途端スサノオは笑いだすと俺の傍に歩み寄り肩を叩いた。
「ぐう・・・。なんだ、何かが流れ込んでくる。」
俺は突然の事に苦悶の表情を浮かべその場に膝を付いた。
まるで風船に限界まで空気を吹き込んだ感じで気を緩めると体が千切れそうだ。
「オイオイ、マジ凄えな此奴。人間の癖に俺の加護を受け止めやがったぜ。普通の奴だとここまでしたら体中から血を吹き出して逝っちまうんだがな。」
そう言って大笑いしながら下がって行ったが俺としては願ってもない事だ。
加護を体に慣らすには時間がかかるがその時間は十分にある。
「スサノオ、あまり無理はさせない様に。彼らは私の計画に無くてはならない存在なのですから。」
天照はスサノオの予想外の行動に溜息をつくと一応注意した。
そして、その間に俺は立ち上がり天照を見つめる。
「スサノオが無理をさせましたね。それでここには何をしに来たのですか?」
すると俺はニヤリと笑い要件を口にした。
「一つはスサノオの加護を貰いに来たんだがそれは思いもよらない形で手に入ったからな。しかし、今日来た最大の理由はあんたらに俺達を鍛えてほしくて来たんだ。このままだと確実に向こうに行ってから殺される。どうやらあちらの神はかなり馬鹿なようだからな。」
俺のあまりの言いように天照は最初キョトンとした目をした後に口元に手をやって笑い始めた。
それを見てこちらも同じように笑い互いに笑い合うと真面目な顔に戻り話し合いを続けた。
「それならまずカグツチにお願いしましょう。彼女も時には違う相手と稽古をした方がいいでしょうから。」
するとカグツチはあからさまに嫌そうな顔を天照に向けた。
俺はそれを見て溜息を吐き確かに以前とは違うと納得する。
しかし、もしかすると俺の所に来る前にこんなやり取りもあったのかもしれないと考える。
そうなるとスサノオには最初からかなり苦労を掛けたんだなと実感する。
「天照様、お言葉ですが人間に私の相手が務まるとは思えません。下手をしたら殺してしまうかもしれませんよ。」
すると天照は笑顔でカグツチへと告げた。
「それならその程度と言う事でしょう。その時はそこの者二人は人肉を好む神にでも与えましょう。どうせ困るのは彼方の世界です。我々には関係ありません。」
そう言って天照は微笑むと俺も「望む所だ」と言って笑った。
そしてカグツチについて庭に出た俺は剣を受け取り互いに向かい合った。
するとその周りには酔った神々が集まりだし、次第に囲んで丸い円を作る。
「蒼士と言ったな。手加減はしてやるがそれにも限界がある。無理だと思ったら諦めろ。」
カグツチはそう言って忠告するが俺は何故かその場で剣の素振りを続けている。
しかしその様子にカグツチは次第に疑問が膨らんでいった。
(おかしい。ただ素振りをしてるだけなのに次第に振りが鋭く、無駄が無くなっていく。)
俺はこの時初めて剣を握ったが未来で異世界に行った時も素人同然で突然の戦闘だった。
その時は何も分からずに戦闘を行ったが今ならそれらを自覚している。
そのため加護の馴染みも早く俺の持っている才能によって急激な成長を始めていた。
すると体が温まった所で剣を止めカグツチへと剣を向ける。
「それじゃあ頼む。」
そして最初に動いたのはカグツチの方だ。
俺は記憶から今の状態で攻撃しても隙を作るだけで切り捨てられる未来しかない事を知っている。
そのために俺は記憶と同じようにまずは防御に徹する事にした。
そしてカグツチの攻撃に全神経を集中し初撃をギリギリで受け止める。
するとまさか防がれるとは思っていなかった様で後ろに飛び下がってこちらの剣先を見つめてくる。
「まさか防がれるとは思わなかった。今のでお前を殺すつもりだったのだがな。」
すると先ほどまでと違い彼女は真剣な顔になり鋭く細めた目を向けて来る。
「少し試してみるか。」
そう言って今度は先程と同じ速度で連撃を放ってきた。
しかし、俺はその連撃に対応しきれず体を浅く切り裂かれていく。
その様子に周りの神々。
特に人肉を好んで食べる者たちは歓声を上げて血の匂いに興奮し始めた。
しかし、彼らは気付いてはいないがカグツチは少しずつではあるが剣速を早くしている。
それでも俺はなんとか対応しカスリ傷で済ませているのだ。
だがそれでも傷からは血を流し服を赤く染めて行く。
そして、ここで一つの限界が訪れた。
それは二人の剣戟に剣が悲鳴を上げ俺が使っている剣が折れてしまったのだ。
しかしカグツチは俺の使っている剣が自分の攻撃を防ぎきる性能がない事を理解していたようだ。
そのため剣が折れると同時に剣を引き俺に剣が当たるのを寸前で防いだ。
するとカグツチは異空間から剣を取り出すとぶっきらぼうに投げつけてくる。
それは俺がスサノオからいつの間にか持たされていた剣と同じ物だ。
鞘や柄の作りだけでなく、今の俺ならその握り具合からもその事が伝わってくる。
「それは私が少し前に作った剣だ。スサノオにでもくれてやろうと思ってたんだがこのままでは稽古が出来ん。貴様に貸してやるから今はそれを使え。」
そして再び稽古は再開され何日も続いた。
この時の俺は肉体を持って稽古したため眠る時間は当然ある。
しかし、それでも起きている時間は常にカグツチと稽古を行い剣の腕を磨いた。
そんな中、百合子も雷神から稽古を受けて飛躍的に成長しようとしていた。
「百合子、お主は気の扱い、あちらでは魔力というのか。それが格段にうまい。おそらく何者かがすでにお前に加護を与えていたのだろう。魂にもかなり馴染んでおる。これなら儂の戦い方も教えられそうじゃ。」
そう言って雷神はこの時初めて百合子の前で姿を変えた。
それは真の雷神の姿である鬼の姿。
雷神は百合子に怖がられるのが嫌で今までこの姿になっていなかった。
しかし近い未来に必ず訪れる命を賭けた旅が迫っているのだ。
雷神も自分の我儘を捨て去り本気で彼女を育てる事に決めた。
雷神はまずは普通の人間らしい戦い方を手ほどきして行く。
しかし、その習熟速度は蒼士とは雲泥の差がありそれに数日は注ぎ込んだ。
だが、雷神はそれでもスサノオの加護により常人よりは遥かに速い速度で成長する百合子を孫を見守るような心境で育て続けた。
恐らくは遅いと言っても人間の目線で見れば天才等と言われていただろう。
そして彼女も次第に成長し魂に余裕が出来ると雷神はまず一つの耐性を与えた。
それは雷耐性で彼の持つ属性に対するダメージ緩和スキルだ。
これが無ければ自分の闘いは教えられないため最低限として最優先で与えた。
そして、ここからが真の特訓の始まりである。
百合子の条件が揃うと雷神は百合子を連れて大きな岩の前に移動した。
そして岩に向かい構えると体に雷を纏い攻撃態勢を取る。
「百合子よ、これが儂の戦い方だ!」
そして雷神は拳を握ると雷を纏った拳を振りぬいた。
するとそれはアニメの過電粒子砲のように突き進み、その先にある岩を溶かして穴をあけた。
そして体に雷を纏うと雷速で岩に近づいて蹴りにより岩を切り裂いた。
その雷神の戦闘を始めてみる百合子は驚きに顔を染めるが、これこそ今の自分には必要な力である。
そして今は師となった雷神に向かって百合子は大喜びで飛び付いた。
「凄いですお爺ちゃん。私もこれが出来る様になりたいです。」
そうやって大絶賛する百合子の姿に自分を怖がる様子はない。
雷神は鬼の顔に笑みを浮かべ百合子の頭を撫でると訓練に移った。
そして百合子は辛い修行により力を手に入れる事に成功しあちらで身を護る手段を手に入れた。




