30-繋がる。
私達の関係に、『恋人同士』って名前が付いてから、もうそろそろ半年。お風呂上がりの、寝るまでの時間。寝支度は整えてあるから、時間が許すまで、ほのかな甘い時間を過ごせる。
「あのね、ひかりちゃん」
「ん、……なぁに?」
「これ、プレゼントなの、……あんまりいいのじゃないかもだけど」
「由佳里ちゃんがくれるんなら、何だって嬉しいよっ、……ねえ、開けていい?」
ひかりちゃんも、高校生になって、十六歳になった。年齢だと、早生まれの私と同じになる。でも、こういう時、無邪気に喜んでくれるのに、ちょっと安心する。初めて会ったときと、そんなに変わらない仕草。ラップングした紙袋を手に、二つ結びの髪をぴょこぴょこ揺らす。
丁寧にシールをはがして、中身を取り出すのを見る。中身は、空色のコースター。タグも何も無くて、ちょっとよれちゃった、私の手作りの。
「もちろんよ、」
「これ、コースター?」
「うん、……友達に手伝ってもらったんだけど」
「えっ、手作りなの!?ありがとーっ!……えへへっ、由佳里ちゃん、大好きっ」
「ふふ、私もよ、ひかりちゃん」
いつも通り、ベッドに並んで腰かけてるのに、急にベッドの上で膝立ちになるひかりちゃん。ちょうど……わかってる。『恋人同士』の甘え方、したいってこと。少しだけ見上げて、重なる視線。こういう風に見下ろされるのも、まだ、慣れないや。
……初めて会ったときよりも、少し大人びたように見えるのは、多分見間違いじゃない。少し落ち着いてきたのか、前みたいにおっちょこちょいなとこを見せなくなった。体も、女の子から、大人の女性のものに近づいてるのが分かる。今年の健康診断で、去年より身長が二センチ伸びてたって喜んでたし、私たちが恋人になった日に着けてたブラジャーがきつくなったって相談されて計り直したら、カップサイズが上がってたのも、ついこの間。
……もう、かわいい妹みたいには見れないな。『お姉ちゃん』なんて呼んで、頼ってくれた頃みたいには。今は、子供らしいどけなさの中に、大人の美しさを秘めた、私の、恋人。
「ねえ、……全然お返しになってないかもだけど、もらってくれる?」
「……嫌なわけ、ないでしょ?」
艶めいた声は、耳を優しく揺らす。甘い誘いを、断るわけがない。目を閉じると、息を呑む音が聞こえて、しばらく待ったあとに、ふにふにした温もりが、唇に触れる。乗せるだけの優しいキスを何度か重ねて、離れる。それ以上のこと、知らなそうなあどけなさ。それをただ、かわいい、って四文字じゃ済ませられない。
目を開けると、半目になった瞳が、少し潤んでる。赤らんだ顔は、少し荒い吐息をこぼす。……色っぽい。その言葉しか出てこない。
もっと、深く繋がりたい。重ねるだけのキスだけじゃ、足りない。その先がどういうことなのかも、どうすればいいいのかも、知識でなら、ある程度は知ってるけれど、……してみたいって思ったのは、これが最初。
「ねえ、ひかりちゃん、……キスよりも、恋人らしいこと、……知りたいって思ったこと、ある?」
ひかりちゃんと、エッチなことしたい。何回も頭の中で言葉を選んで、それでも、キスするより、ドキドキする。嫌じゃ、ないかな。そういうこと、考えたこと、あるのかな。
「そういうこと、考えたこと無かったけど、……由佳里ちゃんとだったら、……知りたいし、……したいな」
私とだったらしたい、なんて。……これ以上、キュンってさせないで。本当に、我慢できなくなる。これが、最後の壁。それすら乗り越えてきたら、進むしか、ないから。
「そう?……じゃあ、今すぐしたいって言ったら?」
「……え?」
顔の奥、熱い。ひかりちゃんと同じくらい、私の顔も、多分、赤くなってる。戸惑ったような声。さすがに困らせすぎたね。ただの冗談だから、そうごまかそうとして。
「……わたしも、したいよ。さっきだって、言ったでしょ?」
それを塞いだのは、子供のような無邪気さじゃなくて、大人らしい決意と欲望の混ざった言葉。これ以上の予防線は、きっと、ひかりちゃんにも悪いから。
「わかった、……嫌だったり怖かったりしたら、ちゃんと言ってね?」
「いいよ、……何か、ドキドキしちゃうね」
「私も、自分で言ったのにね」
ベッドサイドに下ろしてた足を上げて、ひかりちゃんを脚で挟むように体育座り。真っ直ぐ見つめ合うのは、やっぱり、気恥ずかしいな。でも、進みたい気持ちのほうが、ずっと大きい。
「じゃあ、……触るよ」
「……うん、わかった」
「力抜いて?私も、できるだけ優しくするから」
「分かってる、……由佳里ちゃん、優しいもんね」
腕を背中に回されて、お返しのように抱き返して。近づいた顔は、やっぱり少しだけ、オトナの顔になってる。顔を軽く傾けて、目を閉じる。心の準備ができるまで待つつもりで、意外と、その瞬間は早くやって来る。
……ちゅ。『好き』って気持ちを伝えてくれる証。今は、『大人』のつながりのスタートライン。
今話をもちまして、『あなたの光に包まれて。』は完結致します。
長らくのご愛顧、誠にありがとうございました。
拙作はここでお開きといたしますが、二人の物語はこれからも続いていきます。二人のお話を、これからもどこかで書いてあげたいです。その時に見て頂けたら、私としてもとても嬉しいです。