第1話 九年前の宇宙
一年戦争末期、ソロモン攻略戦の最中、ハマーンのネオジオン軍が艦隊ごと転移してきた。
ハマーンはどのように歴史に介入するのか。
宇宙世紀0088年。
第一次ネオ・ジオン抗争
ハマーン・カーン率いるネオ・ジオンは、地球圏において巨大な軍事勢力となっていた。
旗艦サダラーン。
その周囲には、多数のネオ・ジオン艦艇が展開している。
だが――。
その瞬間。
異変は、何の前触れもなく起きた。
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「!?」
サダラーンの艦橋が激しく揺れた。
「何事だ!」
ハマーンが叫ぶ。
「分かりません!」
「敵の攻撃ではありません!」
「レーダーに異常!」
「ミノフスキー粒子濃度、急激に変化!」
「空間座標が――」
オペレーターの声が止まった。
「どうした」
「……座標が、合いません」
ハマーンが眉を寄せる。
「合わない?」
「はい」
オペレーターが何度も計器を確認する。
「現在位置を再計算します」
「急げ」
「はっ!」
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周囲の艦隊にも混乱が広がっていた。
サダラーンだけではない。
艦隊そのものが、別の宙域へ移動している。
「全艦の確認を行え」
「了解!」
ハマーンは即座に命令した。
「艦隊通信網を再構築。各艦、現在位置と損害を報告させろ」
「はっ!」
次々に通信が戻ってくる。
幸いだった。
艦艇そのものに大きな損害はない。
機関も正常。
MS格納庫にも異常なし。
乗員の被害もほとんどない。
問題は。
――ここがどこなのか。
それだけだった。
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しばらくして。
艦隊確認が終了した。
オペレーターが読み上げる。
「旗艦サダラーン、異常なし」
「グワンバン級大型戦艦、健在」
「エンドラ級巡洋艦群、健在」
「ムサカ級巡洋艦群、健在」
「輸送艦、補給艦、整備艦、すべて確認」
「MS搭載数についても転移前との大きな差異はありません」
ハマーンが確認する。
「艦隊そのものが丸ごと移動したと?」
「現状では、そうとしか考えられません」
「……妙だな」
ハマーンはモニターを見る。
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## 転移したネオ・ジオン艦隊
現時点で確認された主力艦艇。
**旗艦**
- サダラーン 1隻
**大型戦闘艦**
- グワンバン級 3隻
**巡洋艦**
- エンドラ級 18隻
- ムサカ級 12隻
**その他**
- 輸送艦 9隻
- 補給艦 6隻
- 整備支援艦 4隻
**確認艦艇総数 53隻**
さらに。
艦内には。
ドライセン。
ザクIII。
ザクIII改。
ガルスJ。
ズサ。
ガザD。
バウ。
ドーベン・ウルフ。
ゲーマルク。
そして。
ハマーン専用キュベレイ。
ネオ・ジオンの主力MSが、そのまま存在していた。
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「MS部隊は?」
「異常ありません」
「ドーベン・ウルフ隊、出撃可能」
「ドライセン隊、出撃可能」
「ザクIII隊、出撃可能」
「ゲーマルクも問題ありません」
ハマーンは小さく息を吐いた。
戦力はある。
艦隊もある。
MSもある。
弾薬もある。
補給物資もある。
ならば。
次に調べるべきものは一つ。
「現在位置を特定しろ」
「はっ」
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数分後。
オペレーターが顔を上げた。
「ハマーン様」
「分かったか」
「はい」
少し困惑している。
「どうした」
「現在位置ですが……」
「言え」
「地球圏です」
ハマーンの表情が変わった。
「何?」
「間違いありません。地球、月、各ラグランジュポイントの位置関係を確認しました」
別のオペレーターも報告する。
「地球圏天体配置との照合、完了」
「誤差ありません」
ハマーンは立ち上がった。
「地球圏だと?」
「はい」
おかしい。
ネオ・ジオン艦隊が突然移動しただけなら、まだ理解できる。
だが。
センサーに映るものが。
妙に少ない。
艦船識別信号。
航路標識。
通信。
軍事ビーコン。
すべてが。
記憶している地球圏と違う。
「通信を拾え」
「広域通信傍受開始」
ノイズ。
軍用通信。
暗号通信。
民間通信。
大量の情報が流れ込む。
その中から。
一つの言葉が拾われた。
『――ソロモン方面――』
ハマーンの目が細くなる。
「今、何と言った?」
オペレーターが通信を巻き戻す。
『――連邦軍艦隊、ソロモン方面において――』
艦橋が静かになった。
ハマーンが呟く。
「ソロモン……?」
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さらに通信を解析する。
ジオン公国軍。
地球連邦軍。
ソロモン。
ティアンム。
ビグ・ザム。
ホワイトベース。
そして。
一年戦争。
あり得ない単語が。
次々と現れる。
「日付を確認しろ」
ハマーンの声が低くなる。
「標準時刻情報を照合します」
数秒。
オペレーターの手が止まった。
「……ハマーン様」
「言え」
「宇宙世紀……」
一度。
息を飲む。
「0079年12月24日です」
誰も。
声を出さなかった。
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ハマーンだけが。
ゆっくり。
椅子へ戻った。
「もう一度確認しろ」
「すでに三系統で照合しています」
「もう一度だ」
「はっ!」
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五分後。
結果は。
同じだった。
宇宙世紀0079年。
12月24日。
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ハマーンは目を閉じた。
九年前。
自分がまだ。
子供だった時代。
ジオン公国が。
まだ存在していた時代。
デギン・ソド・ザビ。
ギレン・ザビ。
キシリア・ザビ。
ドズル・ザビ。
ガルマ・ザビ。
そして。
父。
マハラジャ・カーン。
まだ。
生きている。
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ハマーンの指が。
わずかに震えた。
父。
その言葉だけは。
彼女の心を揺らした。
宇宙世紀0088年では。
もう会うことのできない人間。
しかし。
この時代なら。
いる。
アクシズに。
父が。
生きている。
「…………」
ほんの数秒。
ハマーンは黙った。
だが。
それだけだった。
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「ハマーン様?」
オペレーターが心配そうに見る。
ハマーンは目を開く。
いつもの目だった。
「問題ない」
そして。
命じる。
「ソロモン周辺の情報を集めろ」
「は?」
「現在の戦況だ」
「了解!」
艦橋が動き始める。
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次々と情報が集まる。
連邦軍によるソロモン攻略。
ジオン守備隊。
ドズル・ザビ。
ビグ・ザム。
そして。
戦況。
ハマーンには。
分かっていた。
この日。
何が起こるのか。
ソロモンは落ちる。
ドズル・ザビは。
ビグ・ザムで出撃する。
そして。
ガンダム。
アムロ・レイ。
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ドズル・ザビは。
今日。
死ぬ。
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ハマーンは。
正面モニターを見た。
そこには。
遠く。
ソロモンがある。
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「歴史……か」
小さく。
呟いた。
ここで。
何もしなければ。
自分の知る歴史へ近づく。
ジオンは敗北する。
ザビ家は崩壊する。
デギンは死ぬ。
ギレンは死ぬ。
キシリアは死ぬ。
ドズルは死ぬ。
そして。
幼いミネバが。
すべてを背負う。
その後。
アクシズへ。
ネオ・ジオンへ。
自分へ。
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ハマーンは。
数秒だけ。
考えた。
歴史を変えてよいのか。
未来が。
どうなるのか。
自分自身が。
存在するのか。
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だが。
迷いは。
長く続かなかった。
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「馬鹿馬鹿しい」
ハマーンが呟く。
近くの士官が振り向く。
「は?」
「何でもない」
ハマーンは立ち上がった。
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歴史を守るために。
目の前で死ぬ者を。
見殺しにする。
そんな義理はない。
まして。
未来を知っている。
力もある。
艦隊もある。
兵もいる。
ならば。
使えばいい。
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**力があるのに使わない。**
その方が。
ハマーンには。
理解できなかった。
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「全艦隊に通達」
艦橋の空気が変わった。
「はっ!」
「第一種戦闘配置」
一瞬。
静まる。
「第一種戦闘配置!?」
「そうだ」
警報。
サダラーン艦内。
赤い照明。
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『総員、第一種戦闘配置』
『繰り返す』
『総員、第一種戦闘配置』
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MS格納庫。
整備兵たちが走る。
ドライセン。
ザクIII。
ガルスJ。
ズサ。
バウ。
次々と。
起動。
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別の格納庫。
マシュマー・セロ。
「戦闘?」
ザクIII改を見上げる。
「ハマーン様が、お命じになったのか?」
整備兵。
「はい!」
マシュマー。
笑う。
「ならば聞くまでもない!」
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ゲーマルク。
コックピット。
キャラ・スーン。
「え?」
「戦闘?」
「どこと?」
通信。
『詳細は待機』
「ハマーン様が?」
『はい』
キャラ。
「じゃあいいや」
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艦橋。
オペレーター。
「ハマーン様」
「ソロモンでは現在も大規模戦闘が継続中です」
「連邦軍優勢」
「ジオン守備隊は損害拡大」
「ドズル・ザビ中将の旗艦から――」
通信が入る。
「ビグ・ザムの出撃準備を確認」
ハマーンの目が。
鋭くなる。
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間に合った。
まだ。
ドズルは。
生きている。
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「艦隊針路変更」
「目標」
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ハマーンが。
指を伸ばす。
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その先。
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ソロモン。
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「ソロモンへ向かう」
「全艦、最大戦速」
「了解!」
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巨大な。
ネオ・ジオン艦隊が。
一斉に。
向きを変える。
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九年後の戦艦。
九年後のMS。
九年後の兵士。
そして。
九年後の戦争を知る女。
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それらすべてが。
一年戦争へ。
向かっていく。
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オペレーターが。
最後に確認する。
「ハマーン様」
「我々は……介入するのですね?」
ハマーンは。
即答した。
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**「当然だ」**
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「未来を知っている」
「力もある」
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そして。
静かに。
しかし。
迷いなく。
言った。
---
**「ならば、使わぬ理由がない」**
---
サダラーン。
最大戦速。
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その前方。
ソロモンでは。
まだ誰も。
知らない。
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自分たちの戦場へ。
---
**九年後のジオンが向かっていることを。**
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そして。
ソロモン内部。
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ドズル・ザビは。
まだ。
未来から来た艦隊の存在すら知らぬまま。
巨大な機体を見上げていた。
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**MA-08。**
---
**ビグ・ザム。**
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次回。
## 第2話 ビグ・ザム出撃




