第099話 東京
翌朝、早めに起きた俺達は温泉に行き、朝風呂を堪能すると、料亭に行き、3人で朝食を食べる。
「納豆、美味しいですねー。ねばねば」
子供か。
「リンダ姉さん、体調は大丈夫?」
「大丈夫ですよ。バッチシです。ユウさんは元気そうですけど、アヤカさんはどうですか?」
「いつも通りよ」
アヤカはいつもの涼しい顔だ。
その後も朝食を食べていくと、アヤカがデザートを取りに行く。
「ユウさーん、昨日は絶対にヤレましたよ。何してんですか」
絶対に把握しているリンダ姉さん。
「順序っていうのがあるの」
「26歳のセリフとは思えませんね。やーい、ヘタレー」
100歳を超える悪魔のセリフとは思えんな。
「とっても大事な時期なんだよ」
「はいはい。それでは今日のルートを確認しますよ。基本的には最短ルートで行きます」
リンダ姉さんがスマホを見せてくれる。
「高速はないよな?」
「ええ。時間的にたいして変わりませんし、念のため、高速はやめます。愛媛も高知も人間の町ですのでスムーズに行けると思います」
「問題はなさそうだな」
「ええ。ぱぱっと行きましょう」
アヤカが戻ってきたので再度、ルートの説明をすると、朝食を終え、部屋に戻った。
そして、準備をすると、1階に下り、チェックアウトをする。
「ユウ君、リンダさん、マユミ達も旅館を出たらしい。これから神戸に向かうんだってさ」
旅館を出ると、スマホを見ていたアヤカが教えてくれる。
「向こうも順調ですね。私達も早くそちらに向かいましょう」
「ええ。お願いね」
車に乗り込むと、出発し、松山の町中を走っていく。
アヤカはぼーっと町中を見ており、かける言葉も見つからなかったので大丈夫かなと思いつつ、アヤカの様子を見ていった。
そして、町中を抜けると、山道を進んでいく。
「アヤカさん、祖父母がいるということでしたが、2人だけですか?」
「うん。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがいるだけ。他の親戚もいるかもしれないけど、ちょっと把握してないわね」
俺も従妹や祖父母までだな。
あとはわからん。
「では、そのお家でだけでいいですね?」
「ええ。お祖父ちゃんやお祖母ちゃんに会えたら親戚も親も連絡がつく。それで十分ね」
「止められる可能性もありますが?」
俺達、東京に行こうとしているわけだからな。
普通は止めるな。
「そこは無視する。私にも大事なものがあるの」
「わかりました。まあ、そこはユウさんがいれば良いですね」
「なんで俺?」
「アヤカさんはもう大人なんですよ。そして、お祖父さんもお祖母さんも察するでしょう」
そうかなー?
そのままどんどんと進んでいくと、四国山地を超え、高知県に入った。
そして、さらに進んでいくと、土佐市までやってくる。
「前に見た時よりも人が多い感じがするわね」
アヤカが町並みを眺めながら言う。
「やっぱり疎開してきた人達か?」
「多分。香川と徳島は悪魔の町だったわけだしね」
まだ徳島に戻ってない人も多いだろうしな。
「アヤカさん、そろそろ案内をお願いします」
「ええ。もうちょっと行ったら左に曲がってちょうだい」
「わかりました」
アヤカの案内で進んでいくと、住宅街に入った。
畑や田んぼなんかもあり、のどかな感じがする。
「すごく覚えのある風景になってきたわね。ただ、住宅が増えてるわ。あ、そこを右に曲がって」
「こっちですね」
車が曲がると、さらに進んでいく。
「もうそろそろ…………リンダさん、止まって」
アヤカがそう言うと、リンダ姉さんが車を止める。
「ここですか?」
「ええ…………ふう」
アヤカは俯いたが、一息つき、車から降りた。
「リンダ姉さん」
「私達も降りましょう」
「ああ」
俺とリンダ姉さんも降りると、歩いているアヤカを追う。
そして、10メートルくらい先で立ち止まったアヤカの隣に立った。
目の前には住宅に囲まれた空き地がある。
「ここなのよ……」
「そうか……」
目の前に建物はない。
砂利が敷かれているだけの完全な空き地だ。
「やっぱりダメだったかな……」
アヤカが俯いた。
「空き地になってるだけだろ」
「そうですね。引っ越したんでしょう」
「うん……でも、空振り。電話も繋がらない。祖父母の家もない。なんかこの世界に私の家族がいないって感じがしてくるわ」
気持ちはわからないでもない。
「アヤカ……アヤカのスマホはまだ契約されている。契約しているのは親御さんだし、料金をずっと払っているんだ。アヤカの親御さんに関しては確実にいる」
「そうよね……10年経っているんだもの……仕方がないわよね」
アヤカはそう言って、敷地に入っていく。
そして、こちらを向いた。
「アヤカ?」
「いや、確認。この風景は間違いなく見覚えがある。ここがお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家ね」
まあ、そうだろうな。
「そうか……」
「ユウ君、ちょっと付き合ってくれる?」
アヤカがそう言うのでリンダ姉さんを見る。
「私は車で待機しています」
リンダ姉さんが頷き、車に戻っていった。
「こっち」
アヤカと共に歩いていく。
すると、近くに公園があった。
あまり管理されている様子はなく、雑草も生えているし、遊具も錆びていた。
「子供の頃、夏休みとかに遊びに来てね……夜はここで花火をしたわね」
「へー……良いな」
花火を見に行ったことはあるが、やったことはない。
「楽しかった思い出ばかりよ」
「俺もそういう思い出はあるな」
何回も異世界で思い出していた。
もう戻れないかもという思いが頭にあったから。
「うん……私は大丈夫。まだわからないし、前を進める」
そうは言うが、無理をしているのが目に見えてわかる。
「そうだな。アヤカ、俺はずっとそばにいる。皆もいてくれる」
「ええ。私は……私達は1人じゃない」
アヤカが力強く頷いた。
「もうちょっと見て回るか?」
「いえ、大丈夫よ。戻りましょう」
アヤカがそう言うので手を握り、一緒に歩いていく。
そして、最後にアヤカの祖父ちゃん、婆ちゃん家があった空き地の前で立ち止まった。
「年齢的に施設に行っているというのもあるな」
「そうね。その可能性の方が高そう」
「まあ、東京に着けば親御さんに……あ」
「うん?」
向こうから犬の散歩をしているおばさんが歩いてきていた。
「ちょっと聞いてみる。すみませーん」
アヤカと共におばさんのもとに向かう。
「ん? どうしたの? この辺で見ない子達だけど、新たに引っ越してきたご夫婦?」
アヤカが住宅が増えたって言ってたし、そういう人が多いんだろうな。
「いえ……あの、ここに住んでいた人達を知りませんかね? 父が生前にお世話になったと聞いたので挨拶しようかと思ったんですが」
すごい嘘をつく。
「あー、田代さん?」
お母さんの旧姓を知らないのでアヤカを見ると、頷いた。
「ええ。ここだと思ったんですけど」
「あー、田代さんね……言っていいのかしら?」
「すみません。教えて頂けると……」
頼む。
「えーっとね、あなた達はまだお若いし、こんな状況になってるから覚えてないかもしれないけど、かなり前に東京の方で高校の生徒さんが集団で行方不明になったことがあるのよ」
俺達のことだ。
「それは覚えてます」
「実はね……その生徒の中の1人が田代さんのところのお孫さんだったのよ」
アヤカがぎゅっと俺の手を握った。
「そうだったんですか……それは何とも……」
「そうよねー……結構な事件だったんだけど、その後に悪魔なんて現れちゃったのよね」
やはり悪魔のせいで俺達の神隠し事件は風化しているな。
まあ、神隠し以上のインパクトがあったのだから仕方がない。
「それで田代さんは? ご夫婦で住んでいるとは聞いていたんですけど」
「あの事件で東京に行かれたわよ。捜索隊みたいなのが結成されたから東京に引っ越されたのよ。ただ、それ以降はわからないわね。連絡もないし、もう10年くらい前のことだから」
東京に……
「ありがとうございました。挨拶をさせて頂けたらと思ったんですが、どうしようもなさそうですね」
「こればっかりはね……あなた達も気を付けてね。それじゃあ」
おばさんが歩いていったのでアヤカと顔を見合わせる。
「東京か」
「ええ。東京ね」
アヤカが笑顔で頷いたのでリンダ姉さんが待つ車に戻った。
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