第101話 一つ目ちゃん
「向こうは順調みたいね」
「そうだな。アヤカ、一つ目ちゃんのアカウントで連絡を取ってくれないか? 香川の状況を知りたい」
「あ、あの子がいたわね」
会計の時にアカウントを教えてもらったのだ。
「ああ。香川の知り合いの悪魔は一つ目ちゃんだけだ」
「わかったわ」
アヤカがスマホを操作しだす。
「リンダ姉さん、悪魔の協力で本州に渡れるか?」
「極端な話をすれば、岡山のドラゴンに乗せてもらえば飛んで渡れますね」
あ、岡山のドラゴンって飛竜なんだ。
「リンダ姉さん、飛べない?」
「浮くくらいならできますけど、さすがに四国から本州は無理ですね。ましてや、あなた方を背負っては絶対に無理です」
それはそうか。
「ハーピーも無理かな?」
「さすがに厳しいんじゃないですか? それならまだサハギンに頼んで、泳ぐという方が現実的です」
なるほど……
「ユウ君、早速、返事が来たわ。マナをくれたら情報をあげても良いですよー、ですって」
さすがは悪魔だな。
「頼む。電話できないか聞いてくれ」
「わかったわ」
アヤカが頷き、再び、スマホを操作しだす。
「リンダ姉さん、あの一つ目ちゃんってどういう種族なんだ?」
「モノキュラーという一つ目悪魔ですね。呪いをかけたり、真実を見破る邪眼を持っています。マナを感じたでしょうか、かなり強い悪魔です」
確かに魔力がすごかった。
見た目が少女だったこともあり、雰囲気は柔らかかったが、強者だなとも感じた。
「友好的な感じ?」
「典型的な悪魔です。誰かに肩入れすることはないですが、マナさえ払えば仕事をしてくれるでしょう」
それは友好的という判断で良いな。
「ユウ君、一つ目ちゃんが電話番号を教えてくれたわ」
「かけてくれ」
「うん」
アヤカがスマホを操作すると、呼び出し音が鳴る。
すると、すぐに音が止んだ。
『はーい、こちら一つ目うどんでーす』
そういう店の名前だったのか?
「一つ目ちゃんか? 昨日の客だ」
『はいはい。人間君と人間ちゃんとサキュバスさんですね』
種族で呼ばれるのも変な気分だな。
「ああ。うどん、美味かったぞ」
『それはどうも。愛媛に行くって言ってましたけど、戻られるんですか? 温泉は?』
「それは昨日行った。本当の用事は高知だったんだ。それが終わって帰ろうとしたらSNSでそっちが大騒ぎになっていると知ったんだよ」
『はいはい。温泉はもう行ったわけですね。人間は本当に交尾が好きですよね。私のところにもよく人間のおっさんからDMが来ますよ』
いや、俺達はそれ目的で温泉に行ったわけじゃないんだが……
というか、人間のおっさんは何してんの?
「それはすまないとしか言いようがないな。それでなんだが、そっちはどんな感じなんだろうか? 今、そっちに向かっているし、報酬のマナは払う」
『それはありがたいですね。あなた方はマナがとんでもなかったですから。こっちなんですけど、大パニックですね。戦いが得意じゃなかったり、臆病な悪魔が続々と橋に集まったせいです。ウチも客が来ませんよ』
この状況で悠長にうどんは食わんわな。
「俺達は四国を出たい。その橋を渡れるか? 最悪は歩いていこうかと思っているんだが」
『どうですかねー? ケンカも起きてるみたいですよ? ホント、バカばっかりです。こういう時こそ、人間の統率力を見習いたいですね』
悪魔は個々だもんな。
「あの、一つ目ちゃんは逃げないの?」
アヤカが聞く。
『人間ちゃーん、蟻の大軍が襲ってきて、逃げますか?』
「いや、蟻の大軍が襲ってきたら怖いでしょ」
うん、怖い。
『それもそうですね。うーん……もう香川もダメかなー? 囲まれた時点で危ないって孔明な私は思ってたんですよね』
嘘つけ。
膠着状態が続くって言ってただろ。
「逃げるの?」
『まあ、岡山で新生一つ目うどん店を開こうかなー?』
余裕だな。
これが強者か。
「一緒に逃げない?」
『人間と逃げるって斬新ですね。攻めてきているのはその人間だというのに』
それはそう。
「あなたも長生きなんでしょ? 良い経験じゃないの」
『ふへへ。確かにそうですね。よく考えたら面白いです。何故か人間といるサキュバスさんの気持ちがわかりました』
悪魔って本当に気分屋だな。
「一つ目ちゃん、逃げるならどうするんだ?」
『一つはあなた達が言っていたように歩いてですかね? ケンカしている連中はマヒの呪いをかければいいんですよ』
ウェアウルフが固まってたやつか。
「いらぬトラブルを招くわよ」
『すでにトラブルです。でもまあ、自衛隊がかなり迫ってきているらしいですし、より安全策を取りますかね』
想像以上に自衛隊が優勢だな。
「あるの?」
『ええ。一緒に行きますか?』
「お願い。私達は待たせている仲間がいるのよ」
『仲間を待たせて温泉に交尾旅行とは斬新です。ドスケベですね』
違うっての。
「そういうのじゃないわよ。こっちは真面目に言ってるの」
『私も真面目ですが?』
頷くな、サキュバス。
あんたはふざけないと死んじゃう病だろ。
「もういいわ。それでどうすればいいの? 今……」
「もうすぐで海岸線に出ます。丸亀まではあと30分少々」
リンダ姉さんが教える。
「だそうよ」
『では、そのままウチに来てください。というか、車に乗せてくださいよ』
「わかったわ」
『それではこちらも逃げる準備をして、店で待ってます。また……』
電話が切れた。
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