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第001話 異世界転移。そして……

新作です。


 ――クラス転移。

 今より10年前、とある高校の2年生のクラスにいた40名と教師1名が突如として、異世界に転移した。

 41名を攫った誘拐犯である神はジョブとスキルという異能の力を授ける代わりにその世界に君臨する魔王を倒してほしいとお願いしてきた。

 成功報酬として、望むものを与えるということと、元の世界に返すという約束をして……


 このお願いに異を唱えたのが教師である40代の男性である。

 教師は生徒のことを想ってという思いはあるのだろうが、遅めの結婚をし、子供が生まれたばかりだったので異を唱えるのは至極当然だった。

 しかし、その教師は神の決定に逆らったということで雷に打たれて、丸焦げになってしまった。


 生徒達は教師が死んで初めて気付いたのだ。

 これはお願いではなく、命令であることに。

 そして、夢でもドッキリでもない現実であるということに。


 そこから先は神に恐怖しながらジョブとスキルを選び、それぞれ魔王討伐のために旅立った。

 そう、もう10年も前のことである。


 あれから知っているだけでも10人が死んだ。

 生きていると確認できている人間はもう5人だけだった。

 何故、5人はわかるかというと、魔王討伐に向かう仲間……というわけではない。

 俺とその5人はとある町からもう5年近くも動いていないのだ。

 理由は簡単である。

 この世界で死ぬことがどれだけ呆気ないか知ってしまったからだ。

 それ以来、俺達はもう前に進むことができなくなってしまった。


「ふう……」


 キリの良いところまで来たので一息つき、お茶を準備する。

 すると、店の扉が開かれた。


「いらっしゃい……何だ、アヤカか」


 店に入ってきたのは軽装の冒険者服を着ている155センチ程度の若い女性だった。

 まあ、若いといっても26、7歳だ。

 女性は背中まである茶髪であり、可愛いらしい顔と少し大きめの胸がチャームポイントだ。

 ちなみに、これは本人が言っていたことなので他意はない。


「やっほー、ユウ君。儲かってる?」


 アヤカはいつもの明るい笑顔で受付にやってきた。


「ぼちぼちだ。今、お茶を淹れているところだが、アヤカも飲むか?」

「サービスの良いお店ね。ちょうだい」


 アヤカはうんうんと頷くと、受付内に入り、テーブルについたので2人分のお茶を用意する。


「高宮さんと北浦さんは?」

「先に帰った。今日もまあ、日銭くらいは稼いだわね」

「それは良かったな」


 お茶の用意ができたのでテーブルに置くと、アヤカの対面に座った。


「今日、何の日か知ってる?」


 ん?


「何かの祭りでもあったか? あ、誰かの誕生日?」


 知らんぞ。


「違うわよ。今日は4月28日」

「そうか……」


 4月28日……俺達がこの世界に連れてこられた日だ。

 翌日からゴールデンウィークだったことを覚えているので間違いない。

 そして、俺達がこの世界に来てから今日でちょうど10年になるんだ。


「よくわかるな」


 この世界にカレンダーなんてない。


「ずっと数えていたからね……ちゃんとうるう年も数えているのよ?」


 あー、そんなものもあったな。

 すっかり忘れてた。


「久しぶりに聞いたな……」

「私も久しぶりに口に出した。あれから10年……私達、どうなるのかな?」

「わからん。10年か……」

「ユウ君はどう思う?」


 わからんって言ったじゃん。


「何ともな……」

「前にもう帰りたくないって言ってなかった?」


 ん?


「言ったか?」

「ほら、町の祭りの時に皆でお酒に挑戦しようって飲んだじゃないの。その時にそう言ってたわよ」


 あー……言ったのか。

 全然、覚えてない。


「正直に言って、その通りだ。帰りたくない」


 ずっと思っていたが、空気を読んで口に出さなかったことだ。


「なんで?」

「帰ってどうする? 10年も行方不明だぞ。貴重な10代後半と20代前半をよくわからない世界でよくわからない仕事をして過ごした。戻っても学歴なしの10年ニート野郎だ。まずロクな職業に就けない。いや、それどころかワイドショーの餌食だぞ。もう普通の生活は送れないだろう。だったらこの世界で生きるのも悪くはない。幸い、俺にはこの店がある」


 俺は最初、魔法使いのジョブを選んだ。

 そこからジョブが進化し、錬金術師となったのでそっちの道に進んだ。

 そして、ジョブとスキルを活かし、金を貯めてこのアトリエを開いたのだ。

 そこそこ儲かっている。


「ユウ君は家族に会いたくないの?」


 これが空気を読んで口に出さなかった理由。


「会いたいとは思う。でも、そこは割り切った。どうなっているかは知らないが、普通に生きてくれてたらそれでいい」

「そう……難しいわね。私も家族に会いたいと思う。でも……」


 魔王討伐なんて無理だ。

 俺達は神の命令で魔王討伐の旅に出た。

 さすがに1人は怖かったので仲の良かった男友達3人と組んで、旅をした。

 最初はなんだかんだで楽しかった。

 ゲームみたいに魔物を倒せばどんどん強くなったし、非現実の冒険は興奮した。

 しかし、挫折というものは突然現れる。

 仲間の1人が魔物との戦闘中に死んだのだ。

 そこで俺達は心が折れ、この町から動けずにいた。

 そして、その半年後にアヤカ達女子4人パーティーがこの町に来て、俺達と同じ道を辿った。

 だからこの町には俺を含めた6人が5年も留まっているのだ。


「あくまでも俺の考えだ。ミナトにもリクにも言ってない」


 多分だけど。

 酔った時に言ってるかもしれん。


「そうね……私達もそろそろ考えないといけないかもね。このままその日暮らしの冒険者っていうわけにもいかないもの」

「何度も言ってるが、ウチで働いてくれ。あ、社長って呼んでくれよ」

「何それ? 普通に店長でしょ。ハァ……まあ、それも良いかもね。私も正直に言うけど、ちょっと疲れちゃった」


 俺はとっくの前に疲れた。

 だからこそ、店を開いたのだ。

 これはもうこの町から出る気がないという意思表示でもある。


「皆で適当に暮らすのも悪くないだろ。完全にドロップアウトした俺が言うが、楽になるぞ」


 アヤカもミナトもリクも高宮さんも北浦さんもまだ魔王討伐を完全には諦めていないと思う。

 だから今でも冒険者として、魔物を倒しながら力を付けている。

 しかし、安全策を取り、弱い魔物ばかりを倒していて、効率は非常に悪い。

 これも口に出せないことだが、俺には中途半端にしか見えなかった。

 それでも手助けはしようと思い、たまに冒険に付き合っているし、ポーションなんかの薬なんかも援助していた。


「まあねー……私ももう26歳よ。7月には27歳。10年前はもう結婚していると思ってたわ」


 俺も結婚までは考えていなかったが、漠然とどっかの会社に就職して、頑張っているだろうなって思っていた。

 それが異世界なんだからな。


「結婚はできるだろ」

「ふっ、あなた、本当に私のことが好きねー」


 んー?


「なんでそうなる?」


 何、ニヤついてんだ?


「いや、その酔った時に――」

『はいはーい。神様アナウンスの時間でーす。勇者の皆様、元気ー?』


 アヤカのちょっと気になる言葉を遮るように嫌いな女の声が脳内に聞こえてきた。


「チッ」

「神様ね……」


 俺達をこの世界に連れてきた神はたまにこうやって俺達に語りかけてくることがある。

 しかも、それは大抵、嫌な報告だ。

 誰それが死んだとか、早く魔王を倒せとか、イベントを用意したとかそういうの。


『先ほど、とある勇者が魔王討伐に成功しました』


 ほら、ロクなアナウンスじゃない……は?


「え?」

「魔王を倒した……?」


 いったい何が……


『それでは皆様のお仕事は終わりです。ご協力、大変ありがとうございました。魔王を倒した勇者様の名前は本人の希望で言えませんが、その方の願いを叶え、皆様を元の世界に返したいと思います』


 ちょ、ちょっと待て!


「いきなりか!」

「え? 本当に? ど、どうする?」


 どうするって言われても……


『これより帰還してもらいます。あ、それとこれを伝えておかないといけません。勇者様の願いにより、この世界で得た技能は元の世界でも引き継がれることになっています。それではあちらの世界でも良い人生を。ありがとうございました』


 何が良い人生だ!

 俺達を誘拐し、10人以上も死なせたくせに!


「クソッ! 本当に戻るのか!?」

「ユ、ユウ君……身体が光ってるわよ」


 そういうアヤカも光っていた。

 そして、いつぞやと同じく、視界が真っ白に染まっていく。

 俺はなんとなくアヤカの方に手を伸ばした。

 すると、アヤカも手を伸ばし、指と指が触れ合った瞬間、何も見えなくなった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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