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真名殺しの無銘 〜名前を奪う世界で、俺だけが奪われない〜  作者: 佐木凛人
第2章

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第25話 何でも屋の日常

 久しぶりに、一人で街を歩いていた。


 セーラスの引き渡しから数日が経って、グレンザールでの日常が始まっている。

 イリスは毎日、保護局支局に通って研究記録を調べている。分厚い書類の山と格闘しているらしい。得意分野に入った時のイリスは強い。

 フィーナは保護局関連の後始末を手伝っている。元保護局員だから手続きの段取りが分かるらしい。「だるい」と言いながらもきっちりやっているあたり、根は真面目なんだろう。

 で、俺は暇だ。

 書類は読めないし、保護局の手続きも分からない。何でも屋にできることは何でも屋の仕事しかない。


 グレンザールの大通りを歩いて、掲示板を探した。

 掲示板。思えば、リーデンの広場で掲示板を見ようとして見れなかったのが全ての始まりだった。奪名犯に出くわして、イリスに追いかけられて、気がついたらここまで来ていた。

 今度こそ、普通に掲示板を見る。誰にも邪魔されずに。


 グレンザールの掲示板は、大通りの中ほどにあった。木の板に羊皮紙が何枚か貼られている。リーデンのものよりも立派だ。

 さて、依頼はどんなものか。


 荷物運び。銀貨5枚……安い。

 倉庫の片付け。銀貨3枚。……もっと安い。

 害獣駆除。街の外れの農地に出没する魔物の退治。銀貨15枚。


 これだな。

 何でも屋は飯で動くが、できれば飯のグレードは高い方がいい。銀貨15枚なら、三人でも安ければ何日か食える。

 依頼の詳細を確認する。「小型の魔物が畑を荒らしている。作物被害が深刻。腕に覚えのある者求む」。

 腕に覚えあり。

 依頼書を持って、掲示板の管理人に声をかけた。


「この害獣駆除の依頼、受けたいんですが」


「あんた、冒険者かい?」


「何でも屋です」


「……何でも屋?」


 リーデンの露店の親父と同じ反応だ。何でも屋という肩書きは、どこに行っても怪訝な顔をされる。

 だが管理人は依頼主の場所を教えてくれた。運が良い。以前、依頼を受けようとしたら断られたことがあった。それに比べれば怪訝な顔で依頼を受けさせてもらえるなら上出来だ。


 ♢ ♦︎ ♢


 場所は、街の南門を出て、街道沿いの農地。

 依頼主は中年の農家の男だった。日に焼けた顔に、疲れた目。


「ありがてえ。もう三日も畑に出れねえんだ」


「どんな魔物ですか」


「虫みてえなやつだ。地面の中に潜ってて、夜になると出てきて作物の根を食い荒らす。追い払おうとしても、すぐ地面に戻っちまう。三匹はいる」


 地中に潜る虫型。地上で戦うタイプじゃない。

 となると、道具は意味を成さないか。

 ……環境を見よう。


 畑の周囲を歩いた。

 農地の端に水路がある。灌漑用だ。今は水が少ないが、水門を開ければ一気に流せるが水に強いかどうかは分からない。もし、流しても反応がなかったら畑を水浸しにするだけになってしまう。これは最終手段だな。

 畑の土を観察する。巣穴の入口と思われる穴が三つ。依頼主の言う通り三匹か。

 

 害獣駆除で一番大事なのは、相手を自分の土俵に引きずり出すこと。地中にいるなら地上に出させる。


「畑を少し燃やしてもいいですか?」


「……本当に退治できるんか」


「ええ、少しだけ燃やせば退治できます」


「なら……いいけどよ」


 巣穴を二つ塞いだ。石と泥で簡単に。完全に塞ぐ必要はない。逃げ道を一つだけ残して、そこで待ち構える。

 残した一つの巣穴に、枯れ葉やわらに火をつけ、放り込むと、煙が大量に煙が上がってくる。

 準備完了。


 少し待つと何もなかった地面が膨らみ、逃げ出すように何かが飛び出してきた。


 虫型の魔物。体長は腕一本分くらい。黒い甲殻に、赤い目が六つ。脚が八本。見た目は巨大な甲虫に近いが、口元から鋏のようなものが突き出ている。

 煙の影響で動きが遅くなり、混乱しているように見える。

 地面から出てきた一匹目は遅く、同じ場所、同じ道筋を辿っている。完全に混乱してるな。

 混乱している魔物を蹴ると横倒しになる。腹を見せた瞬間に、短剣を突き刺した。甲殻は硬いが、腹は柔らかい。一撃で動かなくなった。

 二匹目がすぐ後から飛び出してくる。一匹目と同様に混乱していて、動きが遅い。

 一匹目が死んでいるのを見て、方向を変えようとした。投擲ナイフを甲殻の隙間に投げる。動きが鈍ったところを距離を詰めて短剣で仕留める。

 三匹目。

 出てこない。巣穴の中は煙で充満しているはずだが。

 ……まさか煙の中で耐えてるのか。

 地面を見る。塞いだはずの出口の石が動いている。

 そっちから出るのか。


 石を押しのけて三匹目が這い出てきた。塞ぎ方が甘かった。

 向こうも必死だ。混乱している中で的確にこっちに向かって突進してくる。

 鋏が開いている。挟まれたらまずい。

 横に飛んで躱した。通り過ぎた三匹目の尾に短剣を引っかけて、体勢を崩させる。倒れたところに馬乗りになって、腹に短剣を突き立てると動かなくなった。

 三匹。全部仕留めた。


「す、すげえな兄ちゃん……」


 農家の男が目を丸くしていた。


「ありがとうございます」


 投擲ナイフを回収して、魔物の死骸を畑の外に運んだ。死骸は放っておくと別の魔物を呼ぶことがある。依頼主に処理方法を教えておく。

 そうこうしているうちに煙は消えてた。


「ありがてえ。本当にありがてえ」


「仕事ですんで」


 報酬の銀貨15枚を受け取った。革鞄の中で銀貨が鳴る音が、妙に懐かしかった。

 自分で稼いだ金だ。リーデンの護衛の仕事以来か。


 ♢ ♦︎ ♢


 宿に戻ると、イリスとフィーナが先に食堂にいた。

 イリスが書類の束を抱えている。フィーナは隣で欠伸をしていた。


「おかえり。仕事してきたの?」


「ああ。害獣駆除。銀貨15枚」


「おお。太っ腹じゃん」


「太っ腹って、まだ何も出してないけど」


 イリスがこっちを見た。少し複雑な顔をしている。


「……お仕事、お疲れ様です」


「ああ。で、今日の飯は俺が出す」


 イリスの表情が微かに揺れた。嬉しいのか、寂しいのか、よく分からない顔だった。

 今まではずっとイリスの金で動いてきた。飯も宿も馬車も。それが当たり前になっていた。

 俺が稼ぎ始めたということは、イリスの金に頼らなくても動けるということだ。それはいいことのはずなんだが、イリスの顔はあんまり嬉しそうじゃなかった。


「イリス。調査はどうだった」


「はい。真名核の除去に関する記録は、かなり詳細に残されていました。ただ……」


「ただ?」


「回復に関する記述がここにはありません。除去の方法は研究されていましたが、回復については別の拠点で行われていたようです」


「別の拠点?」


「移送記録がありました。研究資料の一部が、グレンザールから別の場所に送られています。北の港町、ラズヴェルという街です」


 ラズヴェルか……知ってる場所だがあまりいい思い出はないな。


「エルド・カーシュには、グレンザール以外にも拠点があったんですね。セーラスが把握していた以上に、組織の規模は大きかったのかもしれません」


「ラズヴェルに行けば、回復に関する情報が見つかるかもしれないってことか」


「可能性はあります。ただ、確証はありません」


 ファレンでもそうだった。手がかりがあるかどうかも分からないまま動く。

 でも、動かなければ何も分からないのも、いつも通りだ。


「フィーナはどう思う」


「んー。北か。港町なら海鮮が美味しそうだね」


「そこで決めるのかよ」


「大事だよ、ご飯は。君が一番よく知ってるでしょ」


 ……否定できない。


「じゃあ、もう少しここで金を稼いでから、ラズヴェルに向かうか」


「そうですね。もう数日は調査を続けたいですし」


「私も後始末がもう少しかかるから、ちょうどいいよ」


 飯を頼んだ。三人分。今日は俺の金で。

 煮込みとパンとスープ。いつもの組み合わせ。グレンザールの飯は、やっぱり悪くない。


「……ノウム」


「何だ」


「ありがとうございます」


 イリスが小さく言った。飯の礼か、仕事を始めてくれた礼か、それとも別の何かか。

 よく分からなかったが、「おう」とだけ返した。


「明日も仕事あるかな」


「掲示板に何件か残ってたぞ」


「……何でも屋って、本当に何でもやるんですね」


「何でも屋だからな」


 明日も仕事をして、飯を食って、イリスの調査を待つ。

 面倒事の合間の、何でも屋の日常。

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