20・オークに勝っちゃった!
続きです。
宜しくお願い致します。
皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。
「ブギー、ブギー、ブギー…」
オークは倒れ込んで来た木に載し掛かられてしまったのでそこから必死に抜け出そうとしているけど、何故か木を抱き抱える格好になってしまっているので当然上手く身動き出来ずにただ踠いているだけになっていた。いまの自分の状態に気が付いて居ないのかな?
「師匠、この状況を見ているとオークが可哀想になって来ました」
「………」
「ブギー、ブギー、ブギー…」
何処かしらウリケルさんも唖然としている様に見えるけど、僕の気のせいなのかな?
「このまま止めって訳にもいきませんよね?」
「………」
「ブギー、ブギー、ブギー…」
「そんなの気にしなくても良いんじゃない?」ってウリケルさんって時々適当だよね…。でもオークの肉は美味しいしそれも丸々一匹分有るって事は、無限収納も有るし当分お肉を食べ放題だよね!だけど僕の精神状態が良くなってからって事だけど…。
「そうですね、仕方が有りません。美味しい肉を食べるためには、犠牲は付き物です(獲物の)!」
「………」
「ブギー、ブギー、ブギー…」
僕は覚悟を決めると小剣を構えて慎重に、木に押し潰されて踠いているオークへと近付いて行く。踠いているって言っても手は木を抱き締めているから、足をバタつかせているからその足に気を付ければ良いだけなんだけど、いくら身体強化で筋力を強化しているからと言ってもオークの破壊力抜群の力で蹴られたりしたら僕なんてひとたまりも無いかも知れない。何事も絶対は無いので油断は禁物だよね!ってこれは師匠であるウリケルさんの受け売りなんだけど…。
「暴れているから、狙い難いですね…」
「………」
「ブギー、ブギー、ブギー…」
伝説の英雄で伝説の賢者でも有るウリケルさんなんだけど英雄とか賢者って呼ばれる様になる迄には色々と有ったみたいで、時々その時の出来事なんかの話を聞かせて貰っているのだけど…ウリケルさんって結構運が悪いって言うか、おっちょこちょいって言うか、無鉄砲って言うか…意外とノリで行動してしまう事が有るんだ。豪快なのか慎重なのかそれも微妙なんだよね…。
「出来れば肉を傷めない様に、一撃で…」
「………」
「ブギー、ブギー、ブギー…」
伝説の英雄や賢者として物語の中では滅茶苦茶美化されているけれど、実際には何も考えずに取ってしまった行動が何となく上手く行ってしまった結果が、僕達が良く聞いていた賢者ウリケルの物語なんだって…。
確かに当時の事を知っている人が生きている訳が無いから真実なんて聞けっこ無いし、例え真実が伝わっていたとしても英雄譚を美談として伝えるために真実は人の目に触れない所とかに封印なりされているだろうしね。
「身体の上には木が載っているから、狙うのなら頭かな?」
「………」
「ブギー、ブギー、ブギー…」
僕が憧れていた賢者ウリケルは破天荒でかなり変わった人だったけど、僕は幻滅していないし残念とも思っていないよ。だって完璧な人って存在しないってウリケルさんが言っていたからね。人には必ず欠点が有る筈だし人前でそれを見せる事は無くても、一人きりになって気が抜けている時にはどうしてもその欠点が出てくる可能性も有るからね。
「頭も狙い難いですね…」
「………」
「ブギー、ブギー、ブギー…」
そう、オークは木下から脱け出そうと必死になっている。だってそれはそうだよね。後は止めを刺して美味しく頂きますって思って居た獲物がまさか止めの一撃を避けて、しかも状況が逆転してしまって自分に向かって止めの剣を構えて居たらそれは焦るよね。でも、身体の上には木が載っているから、身体は狙う事が出来ない。となると狙うのは頭しか無いよね…。でも、いくらウリケルさん製の小剣が業物だからって、オークの頭蓋骨って切れるのかな?
そしてこの世は弱肉強食?の世界なんだ、弱い者は強い者に美味しく頂かれる…それがこの世の理?だったっけ?
「オークさん僕が美味しく食べてあげるから、ご免なさい!」
「………」
「ブギー、ブギー、ブギー…」
僕は必死に踠くオークの頭を狙うのも止めて、首に向かって止めの一撃を突き入れた。動いて居る頭を狙うよりも、その付け根の首はあまり動いていなかったからね。コッケ鳥の時よりも小剣越しに手に伝わって来る肉と骨を断つ生々しい感触と、人に近しい二足歩行の生き物を殺してしまった罪悪感。
「エイッ!」
「………」
「ブッ…ピィ………」
首に突き入れた小剣を抜くと傷口から溢れ出す赤い血が流れ出し、地面を濡らしていく。大量の血を見るのも初めてだったけど、精神力を強化しているお陰か、そこまで罪悪感や気持ちの悪さは無かった。でも、気持ちの良い物では無いよね、命を奪う行為というのは…。
「…血が…沢山…出てる…」
「………」
「…ピー…ピー…ピー…」
僕が小剣を首に突き刺した時には元気に?暴れていたオークも傷口から多くの血が流れ出すのと合わせる様に命も流れ出したかの様に次第に動きが緩慢になっていき、次第にその動きは小さな物になっていった。
「さすがに、もう襲って来ないですよね?」
「………」
「………」
そして、小さく数度痙攣をすると、オークはついに動かなくなっていた。
「し、死んだ、の、か、な…?…はー、こ、怖かった…」
「………」
今回はオークが向かって来たから僕が迎え撃った形になるのだけど、そう言えばコッケ鳥も向こうから向かって来たよね。彼等からしたら本来僕は獲物でしか無いのだから仕方が無いと言えばそれまでなんだけど、でもそのお陰で肉が手に入ったから結果的には良かったのかも知れないし…それに実戦の訓練にはなったのかな?
「安心したからなのかな?…足に力が入りません…」
「………」
恐怖から解放されたからなのかな?僕はその場に尻餅を付いて座り込んでしまって、当分立ち上がれそうに無かった。今になってオークと対峙した時の、あの驚きと恐ろしさを改めて思い出してしまっていた。そして何より、オークを倒した事で安心してしまったのも有るよね?
「…まさか、オークが出て来るとは…」
「………」
村の大人達が大勢で囲んで狩る事で何とか少しの怪我人を出すだけで狩れるオークを、僕が一人で倒してしまった。確かに沢山の魔法を自分に掛けて居たから、村の大人達での狩りとは条件が全く違うけど僕一人で勝ってしまった。コッケ鳥を狩った時にも思ったけど、魔法とそしてウリケルさんが造った小剣や服は反則なのかも知れない。
「それなりに村からは離れたとは思いますけど…」
「………」
かと言って魔法と小剣とウリケルさんが造った服が無ければ…いや、その内のどれかが無くても僕はオークどころかコッケ鳥に負けて美味しく頂かれていた可能性が高いよね。それにこんなに良い装備が無ければ、そもそもウリケルさんが森に入って修行をするとか言い出さないよね?だよね?きっとそうだよね!!
「…とても…疲れました…」
「………」
いくら精神力を強化していたからと言っても、チビって…いや、漏らしてしまう程の恐怖と緊張を味わってしまったので今日はもう何もしたく無い。いくらウリケルさんとの仮想現実って言う異空間?での修行でウリケルさんとの対人戦や、立体映像って言っていたかな?実際の魔獣や魔物姿と行動パターンを再現した偽物の魔獣や魔物と戦った事は有ったけれど、本物の魔獣や魔物は迫力や存在感が有り過ぎてシュミレーションって言う修行とは全くの別次元って言うのが僕の感想だった。
「…少し休憩…し…ま…す…」
「………」
やっぱり命のやり取りって幼児には早すぎるよね…ってか無理だよね。いくら魔法や特別な装備で身を固めたと言っても…それはさぁ、僕の魔力量が多くて魔法で色々強化はしていたけど、今までの短い人生では今のところ経験する事が無かった事…将来的には経験しなければ生きては行けなかったかも知れないけど…それを一度に幾つも経験してしまうと、やっぱり幼児の僕には精神的にも肉体的にも限界が来てしまっていた。
「…すーすーすー…」
「………」
馬と鹿?虎と馬?じゃ無かった何だったっけ?あっ…そうだ!虎馬!トラウマだったっけ?そう、それ!この経験が僕のトラウマにならなければ良いけど…でも、今は、おやすみなさい…。
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