12・両親の愛情
続きです。
宜しくお願い致します。
「……!」
…僕は気が付いた。いや、目が覚めたって言うのが正しいのかな?
「…ここは?」
多分だけど、僕のベッドの上みたい。
「…えっと…朝…なの?…」
木窓の隙間から光が入って来ているから、多分朝だと思う。
僕は館の僕とリスター兄様共同の部屋の、僕のベッドに寝かされていた。そう言えば昨日の記憶が曖昧なんだよね。
隣のベッドを見てみると、リスター兄様が寝ているから間違いは無い。
「ふあー…」
僕は大きな欠伸をしてからのそのそとベッドから起き出して、手が届か無いので椅子に乗って木窓を開けてみた。未だ太陽は昇りきっていないけど、東に太陽らしき光が見えている。日暮れだったら太陽は西に有る筈だから、間違い無い筈。
「エル、おはよう」
リスター兄様がベッドの上で伸びをしながら挨拶をしてきた。
「おはようございます、兄様」
「エルは早起きだね。昨日は色々な事が有ったけど、よく眠れた?」
僕は振り向いて挨拶をしたけれど、兄様の表情は何処と無く心配そうだ。確かに沢山心配をかけてしまったから、仕方が無いよね。
「はい、よく眠れました。」
「昨日もご飯を食べ終わると同時に寝てしまうから、本当にビックリしたよ。身体に痛い所とか気になる所は無いの?」
どうやら昨日は寝落ちしてしまったみたいだね。…なんで僕がこんな言葉を知っているかって?それは僕の師匠のウリケルさんに、色々な事情が有ったからなんだ。それはウリケルさんが異世界からの転生者って事だからなんだけど、異世界とか転生者って今まで聞いた事が無い言葉だよね。
普通?の五歳児がそんな言葉を聞く機会なんて、先ず普通は無いよね。でも僕は≪理の実≫を吸収した事でウリケルさんの知識や記憶を受け継いでいるから、何と無くだけどこの言葉の意味を知っている。それに、僕の考え方も普通の五歳児じゃ無いよね。ウリケルさんの影響だから、仕方が無いのかな?
異世界とは今僕達が住んでいるこの世界とは全く違う世界の事で、数え切れない、それこそ星の数だけ異世界は存在しているらしい。その中の一つの異世界、この世界と違い科学技術が発達した異世界からウリケルさんはこの世界に来たんだって。
そして転生って言うのは、一度死んでしまったけど別の世界で別人として産まれる事なんだけど、でもその時に、前の人生の記憶や経験を引き継ぐって事みたい。
宗教の中には輪廻転生って言われる考え方が有る宗教や教えも有るそうだけど、宗教の考えとはまた違う転生の解釈の仕方らしい。
…そう言えば兄様とお話し中だった。
「…大丈夫なのかな?とは思います?…」
逆に寝過ぎて身体が鈍っているから、今日は身体を動かしたいけど、どうなのかな?
「病み上がりだがら無理はしないでね!」
「はい、ありがとうございます、兄様」
僕とリスター兄様は身支度を整えると、朝食を摂る為に食堂へと向かった。
「エルーッ、昨日の事は錯覚でも幻覚でも見間違いでも無かったのね。私のエルは本当に目覚めてくれたのよね!」
僕とリスター兄様が食堂に入ると母様が僕に抱き付いて来た。食堂に入る直前にリスター兄様が僕を先に行かせた理由は、これだったんだね。リスター兄様は油断が出来ないよね。僕が言うのも可笑しいけれど、本当に八歳の子供なのか疑問だよ。
「母様、苦しいです。僕はここに居ます」
母様の激しい頬擦りで、僕の頬っぺたが面白いくらい変形している。リスター兄様とウリケルさんが笑いながら僕達を見ている。
「エル、おはよう」
僕が母様に捕まっていると姉様の声が聞こえて、母様と反対の頬っぺたも姉様に頬擦りされてしまった。
毎日こんなに激しい頬擦りをされていたら、その内僕の頬っぺたは磨り減って無くなってしまうかもしれない…ふとそんな恐ろしい考えが頭を過った…。そんな事は無いよね…?
「ゴホン、ゴホン」
僕が母様と姉様に捕まっていたら、わざとらしい咳払いが聞こえた。この声は父様だね。僕が視線で確認すると食卓の椅子に腰かけた父様は、呆れた様な困った様な顔をしていた。ドルベルグ兄様とエリクセン兄様は我関せずって感じで、黙って座って居る。お手伝いのミケルナさんは食事のお皿を並べながら、ニコニコと僕達を見守っている。
「ゴホン、ゴホン」
もう一度父様が咳払いすると流石に不味いと思ったのか、姉様は名残惜しそうだったけど僕から離れていった。いつの間にかリスター兄様も、食事の席に着いていた。
「エリーナ、もう良いだろう。エルもお腹を空かせているだろうから、朝食にしよう」
「…はい、貴方」
母様は僕と離れたく無いのか僕の手を引いて行き母様が席に着くと、その膝の上に抱っこされる形で座らされた。
「…あの…母様?」
いくら家族とは言っても、これは流石に恥ずかしいよ。特に姉様の視線が…。
「エリーナ、それはいくら何でもやり過ぎだろう。お前も食べ難いだろうし、エルも食べ難いのではないか?」
父様流石です。この家で母様に物申せるのは、父様だけです。
「…エルは母様の膝の上は嫌?」
母様の少し窶れた悲しそうな表情にに潤んだ瞳…これで断ったら僕が悪者になっちゃうの?
「…母様、僕は一人で食べられるので…」
まさか僕が目覚めてから、母様がこんなにも僕をあまやかすなんて…何で?
「母様は気にしないから、今はエルと一緒に居たいの」
…こんな事言われたら断り難いよね。断ってしまった時の母様の反応が怖いです。僕の横ではウリケルさんが笑っているし…姉様は僕と母様を羨ましそうに見ているし…晒し者にされた気分だよ…。
母様の膝の上だったけど、何とか朝食を残さず食べる事が出来た。これもウリケルさんの修行の成果かな?拘束?された状況でもバランスを上手く取りながら、お皿を持ったりスプーンを口に運んだり…朝食を摂るだけなのに疲れてしまったよ。
朝食を摂り終えると何時もなら、皆で仕事に向かうのだけど今日は違った。僕は父様に食堂に残る様に言われた。多分僕が倒れた時の状況を、父様が聞き取りをするんだろうね。僕が倒れた時に近くに居たと思うリスター兄様は呼ばれて無いから、僕が倒れた後に聞き取りをしたのだと思う。
辺境の小さな村には、衛兵や警備兵や警邏隊と言った犯罪などを取り締まる組織や、捕まえた犯罪者を裁いたり喧嘩などの争い事を仲裁するための組織も無い。だから小さな村では領主の家臣や村人達で作られた自警団が、取り締まりをする事になる。
特に領主は裁判官を勤める事が多い。でもこんな辺境のど田舎だと犯罪と言っても酔っ払った村人同士の喧嘩くらいで、その度に父様は領主として仲裁をしている。ドルベルグ兄様も次期領主として、同席しているみたい。だから一応事故扱い?になるからその為の事情聴取なのかな?
「エル、リスターにも確認を取ったが、お前が倒れた時の様子を聞かせてくれ」
父様の真面目な表情を見ると、悪い事をしていないのに少し緊張するよね。いや、父様が何時もふざけているって事じゃ無くて、一対一での状況がって事がだよ。
「…はい、父様」
僕が倒れた時の状況を、父様に話した。と言っても僕もそこまではっきりとは覚えてはいないので、大分大まかにそして細かい所ははしょった内容だったけどね。本当はその時の事はウリケルさんに聞いていて知っていたのだけれど、もし家族に僕が倒れた時の事を聞かれた時にはこう言おうって、ウリケルさんと決めていたからその時決めた内容を話した。
父様は僕の話を遮らずに聞いてくれた。って言っても、五歳児の説明を父様に理解出来たのかは解らない。僕を見つめて、僕が話し終わるまで静かに聞いていた。そう言えば父様と二人きりになるって、今まで有ったっけ?…多分数える程しか無かった気がする。
母様と上の二人の兄様と姉様とは話しているのは見た事は有るけれど、僕は初めて父様とこんなに長く話した気がする。内容は別としてね。
「そうか、解った。それで身体に痛い所とかは無いのか?」
父様にも心配をかけてしまった。
「はい、父様。痛い所は有りません」
だから僕は素直に頷いた。本当にどこも悪い所なんて無いからね!
「それなら良いが、今日は無理をしなくて良いから、家で休んで居なさい」
まさかの外出禁止?それはいくらなんでも父様酷いです。
「…家から出ては駄目ですか?」
おねだりじゃ無いけど…いや、おねだりなのかな?
「昨日まで寝ていたんだ、何が有るか解らないから今日は家に居なさい」
やっぱり父様も凄く心配していたんだね。父様と話す事は殆ど無いけど、父様からも愛されて居るのがとても良く解りました。
「…はい、父様」
心配してくれている父様にこれ以上心配をかけたく無いから、素直に頷いた。すると父様は僕の目の前に来ると、僕の頭を一撫でして食堂から出ていった。大きくて固くゴツゴツした手だったけど、温かく優しい手だった。
でも僕は父様に今日は外出禁止にされてしまった。
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