第十三話 追跡
でも、なんで俺、こんなことをしてるんだろうな?
まあ、王女様はどう見ても悪い奴らに攫われているのだろうし、コレは善行だ。
それに、王女を助けたら王様から褒美も期待できるかな。
うん、そういうことにしておこう。
「痛った!」
今、ドスッと俺の右ケツになんか刺さったぞ?
くそっ、矢か?
慌てて移動にフェイントをかけ、第二射を避けた。
屋根に登っている革鎧の男が下にいたが、アイツか。男がボウガンを持っている。にゃろう。
『――雪の精霊よ、集まりて、凍てつく針となれ! アイスニードル!』
氷の針をお返しにぶつけてやったが、避けきれないと覚ったその男はボウガンを盾にして防いだ。
しかし、これで凍り付いたボウガンはもはや使えない。
本当はサクッと殺してやりたかったが、そこまでの呪文は今、思いつかなかった。死の呪文だと、失敗もあるし、下手に魔力を消費すると飛べなくなるからな。
「おっと」
今度はナイフが飛んできた。
ボウガンが使えなくなった男が投げているが、そう何本も持っていないだろうし、もう射程距離からは離れた。
「うん?」
体がふらついた。
なんでだ?
ケツを刺されて、集中力が乱れたか?
いや、どうもじんじんと熱を持ってるし、悪寒もする。
ああくそ、これ、毒か!
さっきの矢か。えげつないな。
しかも俺、毒消し、持ってないぞ!
どうする?
今すぐ下に降りるか?
下で追いかけてきているラントスに頼めば、毒の方は彼が何とかしてくれるだろう。
だが、それだと王女は確実に逃してしまうことになる。俺の無茶を護衛役のラントスが許すはずも無いからな。
なら――道具屋、道具屋と。
あった!
俺は急降下して道具屋の入り口に突っ込む。
『店主、毒消しを一つくれ』
「は、はい」
酷くびっくりした様子の店主だったが、ちゃんと毒消しのポーションを一つ出してくれた。
プロだな。
俺だったら「ひゃあ、お化け!」と言って屈み込んでしまうところだろう。
代金がいくらか分からないので、銀貨を一枚放り投げ、飛行しながら念力魔法で蓋を外して飲む。
これで効いてくれればいいが。
『――雪の精霊よ、集まりて、凍てつく針となれ! アイスニードル!』
「いちち」
ついでに自分のケツに凍結魔法を掛けて、毒が回るのを抑えておく。
あとでママンに回復魔法、掛けてもらおう。ケツが半分、後遺症で無くなったらやだなぁ。膝なら格好が付くが、「昔、男にケツを刺されてしまってな……」なんて言う冒険者、誤解されそうだ。
さあ、馬車だ。
御者がこの事件の共犯者なのか、それとも何も知らない一般人なのか……。
ま、どう考えても前者だろう。
何も知らない御者が止まって荷物を確かめたりしたら、王女の拉致はその時点で失敗だからな。
犯人達がそんな賭けみたいな事をするはずが無い。
となれば、御者をサクッと……
――いや、事故ったらマズいな。ここで俺が魔法を撃って馬車が横転して王女様が死んだりしたら、どうなる?
俺が王女殺人の罪で死罪確定しちゃうんじゃないの?
ヒュウ、危ない。
よく考えて行動しないとな。
「あうっ」
いきなり体がしびれた。
くそっ、電撃の魔法か?
まだ仲間がいるのかよ。
裏通りに黒いローブの男がいるが、飛ばしてきたのはアイツだな。
うへえ、また来た。
ギリギリで電撃を避けたが、おうふ、このGはちょっと耐えられん。
ここはバリアを張った方がいいな。
『――マナよ、我が呼びかけに応えて、敵の魔術を退ける盾となれ! マジックバリア!』
ブラン先生に教わった魔法防壁の呪文。
初級なのでせいぜいダメージ二割減少ということだったが、無いよりはマシだ。
それと、攻撃は最大の防御だからな。
『やられたら百倍返し』
これがアイゼンウルフ家の家訓だ。
『――四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもってその息吹を借りん。ファイア!』
幾度となく練習した炎の基本呪文。
独自にカスタマイズして、弾速と威力を向上させている。
炎の玉は大きいほど威力が出る――なんて皆さん、思ってませんか?
チッチッチッ、そうじゃ無いんだな。
威力は魔力の密度に比例する。
つまり、空気抵抗を減らして、炎の玉を小さくした方が威力が上がるのだ。
ま、これ【魔法知識 Lv5】のスキルによる知識なんだけども。
「ぐっ! おのれ!」
くそ、敵の魔法使いに命中したけど、しぶといな、コイツ。
「むおっ!?」
急に目の前が真っ白になり、ああくそっ、どこをどう飛んでるのか、よく分からなくなった。
煙だ。
ここは……飛び続けて、この煙から脱出するか?
でも、下手に地面に向かって飛んでたら、即死しそうだ。
方向感覚まで狂わせる呪文だったら、凶悪だしな。
ああくそ、高度を調べる呪文、覚えとけば良かった。今度、覚えておこう。
とにかく、どうせこれ下の魔法使いがやったことだろうし、ここはディスペルの呪文だな。
『――陣を払い、流れを戻さん。打ち破れ、ディスペル!』
うっし、視界が戻った。
「レイ様、ここはお任せを!」
おお、ラントスが下の魔法使いをやっつけてくれた。ナイス。
さーて、馬車は?
おおう?
……どこ行った?
あれぇ……?
下を見回すが、馬車がいない。
さっき、この道をまっすぐ行っていたから、この辺に……いねえ。
くそっ、どこだ?
『ラントス! 馬車はどっちだ?』
「分かりません! ずっとレイ様を見て追いかけていたので」
参ったな。撒かれてしまったか。
「くしょ!」
ここは……探索魔法かな。
『――我が呼びかけに応じよ、探し物はいずこや、ディテクト!』
反応無し。
うわぁ。
仕方ない、みんなと合流するか。
『ラントス、戻るぞ』
「分かりました」
最初に馬車を見かけた地点、シルフィが戦士と戦っていたところまで戻ったが、倒れた戦士がいた。
シルフィは無事で、何とか勝利したようだ。
怪我をしていたようだが、ちょうどママンがいて回復魔法を掛けていた。
『ママ』
「ああ、レイ! 良かった! 心配させないで」
目に涙を浮かべたサラは、どうやら本気で身を案じてくれていたらしい。
ちょっと悪いことをした。
『ごめん。回復魔法、お願いしたいんだけど』
「いいわよ」
俺のケツに刺さった矢を見てもサラは特に驚いたりせず、それをいきなり引っこ抜いた。
「いっあー!」
「それくらい、我慢しなさい、男の子でしょ」
いやいやいや、そう言うレベルの問題では。
「――女神ミルスよ、我が願いを聞き入れ給え。気高き癒やしよ!」
暖かな光が俺のケツを包み、痛みが消えていく。ふう、助かった。
「はい、これでいいわよ」
『ありがとう、ママ』
「ふふ、どう致しまして。それで、ラントス、エリオットはどこ?」
「えっ? いえ、私がレイ様を追いかけたときは、まだここに。リーナ、どうだ?」
「それが、いつのまにかいなくなっていて……一緒では無かったのですか?」
エリオットの姿が無い。
まずいな。まさか、兄貴も王女を追いかけてたのか?




