第八話 将来の夢
将来、なりたいもの。
くそっ、俺は今までエリオットみたいに真剣に考えたことは無かったな。
社長や漫画家や総理大臣などと、なれたら面白いかも、という程度の憧れだ。
そのために計画を立てて努力して、現実的な選択肢を選んでいく……などということは一度もしていない。
大学で就職活動もやったが、適当に興味がある会社の一次面接を受けた程度だ。
志望動機も適当にしか言えないので二次面接まで進んだことは一度もない。
「ううん……」
この世界は魔法があり、ダンジョンがあり、冒険者という職業がある。だが、何も考えずに魔法使いを目指したり、冒険者を目指したり、そんなんじゃ駄目だな。
「まあ、そう難しく考えなくて良いですよ。レイ君は次男ですからある程度、自由に選べると思います。好きなこと……といっても、君の年齢だとまずは世界を知ることが先かもしれませんね」
世界を知る、か。
【常識 Lv3】のスキルを持っているので、全然知らないわけでもないんだが……。
ま、それは本を読むなり旅をするなり他人から話を聞くとしてだ、金儲けの技術はとっとと会得しておいた方が良さそうだ。
ってか、そのスキルを神様からもらっておけば良かった。あのときは時間切れになったから仕方ないんだけども。
『先生、金を楽に稼げる職業って何だと思いますか?』
俺のスキルの【常識】では『貴族』『凄腕の冒険者』『法律家』『高位神官』『貴族の家庭教師』などがパッと思いつくのだが、こちらの現地で生活している魔術士にも聞いてみるべきだろう。一般的で無い裏技なんてものも知っているかも。
「お金ですか。生憎と私はあまりお金には縁が無いのでその方面の知識は乏しいのですが、細工師などはどうでしょう?」
『いや、あれは材料費が高く付く上に、ギルドの縛りもあって丁稚から何年も下積みしないといけないし、領主のお抱えだと引っ越しができないんですよ』
高度な技術者は重用されるが、よその領地や国に引き抜かれないように、人と会う自由まで制限されている。囲い込みというか、ほとんど家畜だよな。
フリーランスならどうか分からないが、職人系はこの世界ではいまいちだ。
「ああ、そういえば、そのような話も聞いたことがありました。レイ君は物知りですね」
やはりブラン先生には魔術や学び方だけ教わった方がいいな。金儲けの技術については、他の人物を探した方が良さそう。餅は餅屋だ。ロリはロリコンに、金は商人かな?
『じゃあ、ひとまず冒険者や法律家や神官を第一志望ということで』
なりたい職業を決めるには本格的なリサーチが必要だ。今はいくつかの可能性だけキープしておくとしよう。
この世界に十三歳のハローワークみたいな本、ないかなあ?
「分かりました。冒険者ならやはり魔術は覚えておいて損は無いでしょう。エリオット君もレイ君も属性をいくつか持っていて呪文が使えるわけですから、魔法使いとして必要なことを教えます。
それから領主と法律家ですが、どちらも法学が必要でしょうね。文字や法律の基本的な考え方程度でしたら私でも教えられるので、まずはそこからということで。
神官については、私は専門外ですし、神殿に通うか、むしろあなた方のお母さんに教えを請うた方が良いでしょう。サラ夫人はヴィルヘルム神殿の正式な司祭でもあられます」
ふむ、ママンは司祭だったか。某ゲームの知識から神聖魔法と魔術が両方使えるのが司祭と思っていたが、職業上の司祭だったようだ。
時々、外に出かけているが、うちは共働きだったんだな。
でも、俺のステータスにもジョブ司祭って出てるんだが。まあいいか。
神殿に通うとしよう。
どうせあの鬼母、俺に神聖魔法なんて教えちゃくれねえぜ?
「はい、先生、よろしくお願いします」
エリオットが礼儀正しく頭を下げる。俺もここはエリオットに習って浮遊したまま前傾姿勢を取った。赤ん坊の体ではお辞儀はちょっと無理。
「ええ。こちらこそよろしくお願いします」
ブラン先生も頭を下げて、低姿勢な人だ。あと、子供相手なのに、大人向けの対応だよな。子供慣れしてないのかね。
ま、エリオットはそれで全然不満は無いようだし、話にもついて行けるようだ。もちろん俺も大人向けの対応をされた方がありがたい。
あばばばばぁーと赤ん坊扱いされると、殺意すら湧くからな。
その日の夕方。
「「 あばばばばぁー 」」
バカ夫婦がそろって俺を挑発してくるし。
無視だ、無視。
同じネタばっかりで、若手芸人コンビかよ。
「レイ~、ママとパパよぉー」
「エリオットの時は喜んでくれたのに、コイツ、笑いのツボのレベルがやけに高いな。いつもムスッとしてるし」
「パパ、ママ。駄目だよ。レイは言葉も分かるし、賢いんだよ。そんな子供扱いはやめてあげてよ」
なんて良い兄貴なんだろう。エリオット、お前だけが俺の理解者だ。
「でも、まだ子供よ。というか、赤ん坊なんだから」
「そうだ。赤ん坊は赤ん坊らしくしてるのが一番だ。まあ、うるさく泣くよりは黙ってた方がいいがな」
ダメ親だな。子供の言い分を聞かず親の理想を押しつけるなんて。教育では下の下だ。将来、俺とエリオットがグレても知らねえぞ。
「それで、エリオット、魔法使いの先生はどうだ?」
元ヤンっぽい茶髪で筋肉ムキムキのパパンが聞いてきた。我が家ではこいつが一番グレてる気がする。
「うん! とっても良い先生だよ。教え方も上手いし、今日はファイアの魔法を教えてもらったよ!」
エリオットはやたらブラン先生が気に入っちゃったなぁ。まあ、教え方は悪くないとは思うが……。
どうも、あの卑屈で陰鬱な顔を見てると、裏に何か隠し事があるような気がしてならない。
「そうかそうか。でも、剣の素振りもちゃんとやるんだぞ?」
「分かってるよ、パパ」
剣の素振りかあ。朝と夕食前にエリオットはグレンと一緒に庭で剣の素振りをやっている。エリオットはさすがにまだ木の棒だが。
俺も一緒にやってみたい気もするが、さすがに赤ん坊のこの腕では無理だ。棒を握ることすら難しい。筋肉バカのグレンも俺に対しては「早く大きくなれよ」と頭を撫でるだけで、棒を持たせようとはしていない。
『兄さん』
俺はエリオットに例の話を聞くように促す。
「ああ。ねえ、パパ、ママ、お金を稼ぐ方法って、何かないかな?」
俺が念話で直接聞いてもいいのだが、まともに取り合ってくれそうにないし。
領主が欠けた皿を大事に使っているのを見ると、なんかこう……貴族としてのプライドが刺激されるというかねぇ。せめて、エリオが自分で戦わなくて良いように、強い騎士が雇えるくらいの金は稼ぎたいじゃないか。
そのあたりはブラン先生が帰った後で、兄貴と相談をしている。
「ええ? どうしてそんなことを聞くの?」
「今日、先生と将来は何になりたいかをお話したんだよ。僕は領主になりたいって答えたけど、お金もいるでしょ?」
「ああ……」
「エリオ、そんなことはお前はまだ気にしなくて良いぞ。ま、冒険者になれば一攫千金だ」
ニヤッと笑ったグレンだが、ギャンブラーだよなぁ。
「ホント?」
「ああ、もちろん! 最下層のドラゴンを倒してでっかい宝玉でも見つけてみろ。一生、遊んで暮らせる金が手に入るぞ、ウハウハだ」
「うーん、でも、パパって凄腕の冒険者だけど、そんなお金持ちじゃないよね?」
「お、おう、まあ、色々あるからな色々。まあ、そこは運だ、運」
「僕、そういう運任せじゃなくて、確実なのが良いな」
「確実と言ってもなあ。オレも知らねえな。サラはどうだ?」
「そうねえ、商人なんてどうかしら?」
やはり商人か。画期的なビジネスモデルを生み出せれば無一文からでも大金持ちになれそうだが、よく考えたら普通は元手がないと不利だな。物を売るにしても金を払って売り物を仕入れなきゃいけない。
『どう? レイ』
『ダメ。商人は元手のお金がいるよ、兄さん』
『そうかあ』
「奥様、旦那様ー、夕食の支度ができました!」
リズが呼びに来た。
「おっ、じゃ、飯にするか」
「そうね。じゃ、レイ、良い子にしててね」
食事の時間はちょっと寂しい。
俺はおっぱいが主食なので、みんなとは一緒に食べられないのだ。
早く大人にならないかな。
本日19時にもう一話投稿予定です。




