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周りには遅刻よりも好奇心を選んだ野次馬たちが取り囲んでいた。
麻美に誘導されて、尋史は野次馬たちの前に躍り出る。
肩にかかるソフトウェーブヘアの青年が、その中で一際目立っていた。切れ長細面の超美青年に属するタイプだ。女生徒たちが黄色い声を上げるもの当然のことだった。
そんな中で、
「あーいうタイプって、絶対性格悪いんだよね」
麻美は冷静に人間ウォッチングをしていた。 超美青年の後ろには、並の美青年が五人ほど控えていた。とりまきというやつだろう。
「お久しぶりですね」
超美青年が口を開いた。そのハスキーな声に女生徒たちはますます黄色い声を上げたのだが、その言葉を掛けられた人物を知ると一瞬にして押し黙ってしまう。
超美青年の視線は貴久に向けられていたのだった。しかし、貴久は気付いていないのか無視している。
「昨日フランス留学から帰ってきたばかりなのですが、まず一番にあなたにごあいさつしておこうと思いましてね」
口調がかなり嫌味っぽかった。やはり麻美の人間ウォッチング通りの性格らしい。
「まさかあなたのような人がこんな一般人が通う高校に通っていらつしゃるとは思いもしませんでしたよ」
垂れてくる前髪をしなやかな指でかき上げる。ますます嫌味っぽかった。
「何よ、あいつ。すっごいムカツクっ!」
自分の通う高校をバカにされたような気がしたのだろう。麻美はあらかさまにこめかみに怒りマークを何個も浮かび上がらせて中指を立てていた。
しかし、貴久の方はまだ無視している。
「そんなあたなたの姿を見たら、お父さまの草葉の陰でさぞお嘆きのことでしょうね」
超美青年はめげずに貴久を挑発するような言葉を繰り返していた。
「でも、『負け犬』の子供にはそれがお似合いかもしれませんけどね」
美青年はくっくっと含み笑いをもらす。
親をバカにされて平気でいられる子供はいるだろうか。
それまで平静を装っていた貴久は怒りに体を震わせ、拳を強く握りしめていた。いつ殴りかかってもおかしくない状況だった。
そして、尋史も同じ気持ちだった。




