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「謝ってください!」
震える声で必死に叫んでいた。
自然に足は動き、超美青年と貴久の前に割って入っていた。
「誰ですか、君は? 見たところ中学生のようですが」
やはり初対面の人間には高校一年生には見られなかったらしい。
「僕と彼との間にいきなり入ってきて失礼だとは思わないのですか?」
「し、失礼なのはあなたの方です。あなたは確かにお金持ちかもしれませんが、人には言っていいことと悪いことがあるんです! 他人を愚弄するようなことばかり言って……勇海センパイに失礼じゃないですか。ちゃんと謝ってください」
息を荒げて一気にまくしたてて言う。
その場にいた全員はぼう然としていた。
「あっははははははは」
超美青年は高らかな笑い声を上げた。それに合わせて並の美青年たちも笑い声を上げた。しばし、高らかな笑い声の合唱が続いた。
「聞きましたか、皆さん。この人は僕に非があるから謝れと言うのですよ。僕はただ真実を言っただけだと言うののに」
「その通りです。賢悟さまは決してお悪くはございません」
並の美青年Aが代表して言うと、その他並の美青年の声をそろえて同意する。
ある意味、この光景は不気味なものがあった。しかし、尋史は退かなかった。
「いいえ、あなたは間違ってます。どうしても謝れないというなら、僕と勝負してください!もしあなたが負けたら勇海センパイに謝っていただきます」
尋史は自分が無謀で理不尽なことを言っていることはわかっていた。しかし、止まらなかった。
膝がガクガクと震えているのがわかっていても、口からは自分とは思えない発言が次々と出ていたのだった。
「よろしいでしょう」
あっさりと受けてくれた。
「その代わり、僕が勝ったらどうするつもりですか?」
「え……?」
尋史は言葉に詰まった。さすがにそこまで考えていなかったのだ。
「考えてなかったんですか?」
超美青年−−賢悟は鼻で笑う。
「俺が土下座して謝ってやるよ」
尋史の頭の上から声が降り注いだ。
もちろん、貴久の声だ。
「それなら文句ねぇだろう?」
「いいでしょう。それで何で勝負するつもりですか? テニスですか? それとも乗馬ですか?」
「あ、あやとりです!」
それしか思いつかなかった。
「あやとり? あやとりで何を競うんですか?」
「技です。たくさん技ができた方が勝ちとなります」
「そんな子供の遊びで勝負する気ですか? 僕には考えれませんね」
十人中十人が間違いなく、賢悟と同じこと言って小バカにしただろう。
「負けるとわかっている勝負は受けられないってわけか?」
「なっ」
貴久の挑発的な言葉に、賢悟は激昂した。しかし、すぐに冷静さを取り戻す。
「よろしいでしょう。では、明後日。場所は僕の家でよろしいでしょうか?」
「わかった」
「では、その時に」
颯爽と身を翻して賢悟はとりまきを引き連れて去っていった。そして、野次馬たちもチャイムの音を聞いて慌てて校内に入っていく。
「片桐ーっ!」
麻美が涙を流しながら飛びついてきた。
「あたし、感激しちゃったよ! 片桐がそんなにハッキリキッパリとしゃべったの初めて見たよ。男らしかったぞー」
「そ、そうかな……」
尋史は全身の力が萎えていくのを感じた。張り詰めていた糸がぶっつりと切れたマリオネットのようにペタリと座り込む。
僕、何てことしちゃったんだろう?
まだ頭の中がちゃんと整理されていなかった。ただ勝負に負けたら貴久は土下座をして謝らなければならないことだけはしっかりと覚えている。
「あ、あの」
尋史は、まるで何事もなかったかのように校内に入っていこうとする貴久を呼び止めた。
「すみませんでした、勇海センパイ。僕」
「お前もあのバカといっしょだな」
貴久は振り返らずそう言った。
もちろん、あのバカとは洋輔のことである。
「バカとは何よ!」
「いいんだよ、斎木さん」
「片桐、バカにされてんのに何ニコニコ笑ってんのよ?」
「何でもないよ」
尋史は何となくうれしかった。
だが、麻美と仲良く遅刻したという事実だけは変えることできなかった。




