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「オレ抜きでどうしてそういうこと勝手に決めんだよ?」
あやとり同好会のもっぱらの活動場所である図書室に洋輔の声は轟いた。
あやとり同好会緊急会議中の昼休憩のことである。
「お前、朝練参加してただろうが」
「そ、それは……。朝練に参加したら報酬として二千円くれるって、野球部のキャプテンに頼まれたんだからしょうがねぇだろう」
洋輔は各運動部からいくらかの報酬をもらってヘルパーとしてお金を稼いでいたのだ。おせっかいな洋輔が無償でやらないことに尋史は疑問を抱いていたが、今はそんなことを聞ける状況ではなかった。
「にしても、あのアホ賢悟がフランスから帰ってきてたとはな。まだ懲りてねぇのか、あいつは」
洋輔は悔しそうに歯噛みした。
「すみません、僕とんでもないことしてしまったみたいで」
今になって事の重大さを痛感する尋史だった。
「いいっていいって。オレがあの場にいたら間違いなくあいつを殴り飛ばしてたからな」
「あの、斎木センパイもその人のことご存じなのですか?」
「あぁ、まぁな」
洋輔はそれ以上は何も答えてくれなかった。いつもの洋輔ならこちらが聞かなくとも余計なことまでベラベラとしゃべりだすというのに。
「片桐」
「は、はい」
初めて貴久に名前を呼ばれた。
「この件に関してお前は何も関係ない。もうここに来るな」
「え?」
それはあやとり同好会のメンバーから外されるということを意味していた。
「で、でも、こうなったのは僕のせいです」
「うぬぼれんな!」
貴久の声に、尋史は体をビクつかせた。
「お前がいたって何の役にも立たねぇんだよ」
「そんな……」
尋史は洋輔を見た。彼ならきっと助け船を出してくれると思ったからだ。しかし、洋輔は何も言ってはくれなかった。それどころか、目すら合わせてこようとしない。
尋史は胸に小さな痛みを覚えた。
自分だけが何も知らない。そして、何も教えてくれようとはしない。洋輔たちにとって自分はその程度の存在にしかすぎないのかもしれない。そうなのだ、尋史は洋輔たちと知り合ってまだ一週間しか経っていないのだ。そんな自分にすべてを話してくれるはずがなかった。
洋輔のやさしさを勘違いしていたのだ。
「わかりました。短い間でしたけど、お世話になりました」
深々と頭を下げると、尋史はうつむいたまま足早にその場から去った。涙を見られたくなかった。




