エレノアの噂
サブタイトルがちぐはぐですが・・・
※1/13、ディランの身分が間違っていたので訂正しました。
「ハロルド君。最近素敵なことがあったらしいな」
にやにやとだらしなく笑いながら、ホールデンが話しかけてくる。
こいつのせいで、とハロルドは恨めしく思いながらも、努めて冷静な表情を心掛けた。
「家庭内で追いかけ回されて大変な迷惑を被った覚えならありますが」
「ええ。本当に?」
まあいいや、とホールデンはあっさり引いた。さすがに教師なので、引き際は心得ている。大抵ハロルドを苛つかせ、集中を乱すだけ乱すと課題を言い置いて去っていくのだ。
それをため息一つついて見送っていると、今度は背後から肩を叩く者がいた。
「ガーラント家の令嬢はたいそう魅力的らしいな」
くすくすと笑って言ったのは、デール伯爵家のディランだ。
「何故、そうなる」
憮然としたハロルドに、余裕の笑みで続ける。
「ホールデンがああして構っているんだ、見込みのある教え子なんだろ。それにこの前ファレルが、アイリーン王女がお前の姉を気に入っているって話してたし」
ハロルドはファレルの名に顔をしかめた。直接自分に言ってこなかったところに、意図を感じたのだ。
「会ってみたいよなあ」
やはり、とハロルドは呆れた。
「ねえ、遊びに行っていいか?」
「駄目だ」
なんでーとごねてついてくるディランは、到底ハロルドより年上とは思えない。おまけに侯爵家の子息という気品や威厳も感じられず、ハロルドはこの軟派な雰囲気が苦手だった。それでも最初は格上の相手として丁寧に対応していたが、思わずぞんざいな扱いをしてしまったときに、ディランが言ったのだ。「なんだ、普通にしゃべれるんじゃないか」と。それから何かにつけて構われている。
猫をかぶれば当たり障りない態度がとれるハロルドなので、付き合いのある生徒はそれなりに多い。
元々子爵家に連れ子として入った身、うるさい連中を黙らせるだけの学力や対人関係がいるから、猫は必須だとハロルドは思っている。家でも学校でも、それは変わらない。今の自分の立場など、誰かの気まぐれ程度でも簡単に吹き飛ぶものだ・・・そう思うので、ハロルドは気を抜かない。
例外は父と、エレノアと、ディランなどほんの数人の友人だけだ。それだって大抵使用人や教師の目があるから、ほとんどの場面でハロルドは優等生の顔を貼り付けていることになる。
「あ、やっぱりお姉様に俺のような色男を会わせるのは心配か?」
ハロルドの眉間がぴくりと動く。しかしここは魔法学の教室、複数の目がある。そのため彼はくるりと身体を回し、向き合ったディランの身体でそれを隠した。若干身体が近いが、それは致し方なしとする。
「おお、凄い皺。ホールデン先生の分まで凶悪な顔するの止めてくれよ」
そう小声で言いながら楽しそうな顔をするディランに、ハロルドは言った。
「エレノアには婚約者がいるからお前に会おうが会うまいが関係ない。来るなと言うのは、単に面倒だからだ」
「なにさ、面倒って」
「お前が来ると猫が被りにくい」
エレノアや父は、基本的に直接ハロルドの調子を崩しにかかることはない。しかしディランは進んでそれをやりたがる。だから入学からかれこれ4年は経つが、ガーラント家に来させたことはない。
ハロルドはそこで顔を上げた。そしてディランの顔を見て訝しげに眉をひそめた。
「何だよ」
「いや、お前ってたまにかわいいよな」
その直後、にやけ顔のディランに、ハロルドが机の下で蹴りをいれた。




