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夜 電話と父

いろいろと、何かを張り巡らしてみる。唯の説明不足とも言う…。


『やあ…春くん。元気にしてるかい』


目を閉じたまま通話ボタンを押した春。その耳に聞こえてきたのは、無自覚に聴く者の警戒心を解いてしまうような不思議な魅力を帯びた声だった。


「うん…、父さんこそ急にどうしました?」


対して春は、存外親しみを込めて電話の主を父と呼んだ。


『昨日の夜、なっちゃんから、春くんが社会復帰を目論んでいると報告を受けてね。鈍感というか、ボケているというかここまで気がつかないと逆に清々しいくらいに…、ああ、なっちゃんは可愛いなー』


「夏はあれでいいのですよ、逆にそのおかげでボクは動きやすいですから」


二人の会話はしばらく、春の双子の妹に終始する。

鈍感だの低血圧だの、そこがいい可愛いと、親と兄の欲目で語れる妹は美化されているようである。

最終的に、夏はドジっ子であるという結論を生み出し、不毛な親子対話は幕を下ろした。


『それで、首尾はどうだい?

例の彼女、ニュースで見たけど、発見されたんだろう?君の言うとうり、半年前の写真と似ても似つかない姿になっているようだけどね』


「ええ、こちらでは昨日でちょうど半年ですが、向こうでは四年は経っていたはずですからね…。成長期の女の子です四年も経てば人が変わりますよ。

まあ僕のほうとしては、最後に見た彼女と先程知り合いからいただいた今の彼女の写真、記憶に齟齬がなくて安心していますけどね」


『ふふ…、春くんの初めての人だと聞いたときはどうしてやろうかといろいろ考えたけど、今の春くんが納得しているなら、私は私の出来るだけの事をするだけだ』


「父さん…ありがと」


『おや、春くんにもデレ期が来たのかな?』


「そして……、ごめんね」


電話の向こうからニヤニヤとした雰囲気が漂ってくる。

しかし、対する少年の真剣さを受け止めたのか、その感じはすぐに消え、父としてのあるべき感情だけが伝わってくる。


『何、気にするな春くん。

好きにやりなさい。父さんは応援しているし、春くんがやろうとしていることを止めはしない』


その言葉には人生の師としての重みと、家族としての暖かさが確かに同居しているのがわかる。


『例え、世界全てが敵になっても、ボクは僕のやるべきことを成し遂げると決めたんだ…―――。

あの日、春くんが私にそう語った日から、とうに決心はついていた。

この席は十年前から君だけのものだ…、必要になったのだろう、いずれ役だてるために、そう考えたからこそ春くんはこの場所を作ったのだろう?』


全てを受け止める肯定と、促すための質問。

その優しさを噛み締めて少年は頷いた。


「…うん」


『最初から、この場所を私のものだと思ったことは無い。全ては春くん、君のために用意した。

後は、命令を下すだけだよ』


もしかしたら、家族として会話するのはこれが最後になるかもしれない。

二人の間には不確かな、それでいて確固とした予感があるのかもしれない。

しかし、その全てを振り切って、殺風景な部屋に響いた少年の声は、確固としたもので―――。




『―――わかった、今この時をもって、全権を春くんに移譲する』


少し淋しげな父の言葉。

それは少年にとっても同じ、本当の意味で昨日までの日常との決別を意味する言葉。

もう後戻りのできない険しい道を走り始めるスタートの合図だった。

次は、ヒロインの方に行こうかなー?

誤字脱字ツッコミ等どうぞ

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