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第5話 新馬戦(メイクデビュー)後編

こんにちはこんばんは

田原武馬です。ウェディングリリー5話目です!

今回リリーの新馬戦、後編です。

まだの方は前回を先に読んでいただけますと幸いです。

それではどうぞ。

 ガシャン!

 ゲートが開いたコンマ一秒、シュンヤは手綱を僅(わず)かに緩め、リリーの腹部を軽く蹴り合図を出す。

 その瞬間、グィン!とウェディングリリーが飛び出す。抜群のスタートセンスだ。

 シュンヤは心の中で感嘆の声を漏らす。


「スタートしました!!おおっと!二頭、ほぼ同時に飛び出した!7番レーヌドール9番ウェディングリリー、ロケットスタート!どちらがいくか!?」アナウンサーの声が遥か後ろに聞こえる。


「いいぞ!リリー!」

 上手くスタートを決めたウェディングリリーだったが、全く同時にレーヌドールが飛び出して行くのが見えた。


 星は、レーヌドールを下げることはせず、ウェディングリリーの内側をぴたりと並走している。

 二つ目のコーナーを過ぎたころだった。

 ッツ……!!

 シュンヤは思わず息をのむ。

 スタート直後からずっと並ばれている影響で、ウェディングリリーが平静を失っているのだ。

 「私の前に立とうとしないで!!」

 リリーがレーヌドールに噛みつかんばかりの勢いで首を振っている。

 手綱がぐいぐいと引かれ、ほとんど立ち上がるような形にならなければバランスが取れない。

 四か月前、鳥飼が危惧していたリリーの負けず嫌い。それが今、最悪の形となって顔を出したのだ。

 横目に見ると、星は口の端を釣り上げている。これがあなたの狙いか。シュンヤは心の中で叫ぶ。


「9番ウェディングリリー依然先頭。しかしちょっと頭が高いか。断然一番人気、7番のレーヌドールは少し下げました。五、六馬身ほど間が開きまして2番のタイニーハウス、並んで8番フェルガナ、外につけたか10番ゴールデンブラー……」アナウンサーの声が響く。


「リリー!落ち着け!落ち着け!」

 必死で抑えようと手綱を引っ張るがリリーにシュンヤの声は届かない。

 そうしている間に、向正面(むこうじょうめん)の中間点にさしかかった。二番手のレーヌドールとは大きく差が開いてしまった。

 先頭を走るウェディングリリーだが、暴走気味になってしまったこともあり、レース中にかなりのスタミナを消費してしまっている。

 (一度、僕自身が冷静になれ。馬を制御し、導くのがジョッキーの仕事だ)

 残り800mを示すハロン棒が、視界の端に見えた。

 シュンヤはスゥーと息を吸い込むと、手綱を握り直した。軽く力を入れ、リリーの首の辺りをポンと叩いてやる。

「あら?誰もいないわ?」

「リリー、落ち着いたかい?」

「ええ、シュンヤ。私どうしちゃったのかしら」

「気にすることはないさ。とってもいいスタートだったよ」

「こうなったら行けるところまで行くしかないな」

 シュンヤは視界を覆うゴーグルを外しながら、独り言のように呟いた。


◇◇◇


 シュンヤ達が残り800mのハロン棒を通過した時、星とレーヌドールは依然、リリーから五馬身離れた二番手にいた。

 手綱越しにレーヌドールから、いつでも行けると伝わってくる。

 レーヌはスタートと同時にリリーと並走したが、暴れるリリーを意に介さず自分のペースで走った事により十分な余力を残している。

 自分達の揺らがぬ勝利を確信し、星は思わず目を細める。

(ウェディングリリー、久我君、彼らはかわいそうだが最初の暴走でもう終わりだ。あとは最後の直線でどう料理するかだね)

 星は純白の馬体をゴーグルの奥に見据え、追い出しのタイミングをうかがっていた……


◇◇◇


 ドドッドドッドドッ

 先頭を行くウェディングリリーの足音が腹の奥に心地よく響く。

 リリーは現在第三コーナーを内ラチ沿いに気持ちよく走っている。

「先頭のこの景色、風、最高ね。私、シュンヤとずーーーっとこうしていたいわ」

「そうだねリリー。僕もだよ。だけど……」

 リリーの地を蹴る心地よいリズムの中に、他の音が割って入ってきた。

 ドッドッドッドッド

 後ろをチラっと確認すると金色のシルエットが迫ってきているのが見えた。

 レーヌドールが既に進出を開始して来たのだ。

 シュンヤは手綱を引っ張りながらリリーに叫ぶ。

「リリー我慢だ!僕がいいと言うまで全力は出しちゃダメだ!信じて!」

「わ、わかったわ!」

 残り400m、レーヌドールは既に三馬身後ろに迫ってきている。

「シュンヤ!もう来てるわよ!」

 リリーは首を傾け、後ろを見てウズウズしている。

 残り300m、金色のたてがみの輝きが見える距離まで迫ってきている。

 ドカッドカッドカッドカッ

 レーヌドールは筋肉に血管を浮かべ、地面を抉るように走っている。

「久我くん、悪いけど、今度も僕の勝ちだ!」

 星の声がすぐ後ろから聞こえる。

 残り200m。


「今だ!リリー!!」


 シュンヤは手綱を緩め、前に押し出した。

リリーの身体が、筋肉が震えた。


 瞬間、弾ける。


 そのままリリーは白い弾丸となり、すぐ後ろに迫(せま)っていた星とレーヌドールを置き去りにする。

「まだあれだけのスタミナが残っていたか!!」

星の叫びも遠く後ろに聞こえる。

 リリーのトモに鞭を二発いれる。更に後ろを突き放す。

「9番ウェディングリリーこのまま逃げ切るか!後続との差をぐんぐん広げる!その差は四馬身!五馬身!止まらない!」

「最高だよリリー!」

「あなたと一緒だからよ!シュンヤ!」


 風が吹いた。音が消える。このままどこまでも行けそうだ。


 そう思った瞬間、

 ウェディングリリーと久我シュンヤはゴール板を駆け抜けていた。


「白毛のウェディングリリーだ!見事デビュー戦を勝利で飾りました!」

 アナウンサーの声が耳に届き、シュンヤは我に返った。

「やった!リリー!やったよ!」

「まだまだこれからよ!シュンヤ!」

 二人で喜んでいると星が後ろから声をかけてきた。

「やられたよ、あんなすごい足があるなんて」

「勝義さん。レーヌドール、本当に強かったです。凱旋門賞絶対に目指してくださいね」

「あなた強かったわよ!私の次にだけどね!」

 リリーがレーヌドールにそう言うと、

「カツヨシとフランスで勝つんだカラ。次は負けないカラ」

 声が聞こえた。

 星にも聞こえたようで、驚いた顔をしたが苦笑しながら引き上げて行った。

 スタンドに引き上げた際、鳥飼と大護が迎えてくれた。

「シュンヤ、リリー、やったな!!」

 鳥飼は満面の笑みだ。

「よくやった。だが最初の暴走に関しては後でしっかり反省会だな」

 大護の言葉に今度はシュンヤが苦笑する番だった。


 口取り(勝利後の記念撮影)の際シュンヤは改めてリリーに礼を伝えた。

「リリー、ありがとう」

「もちろんよ!私のシュンヤ、次も勝ちましょうね!」

 そう言い、ブフフフンと得意げに鼻を鳴らすリリーを見て、シュンヤも笑顔を浮かべるのであった。


◇◇◇


 三ヶ月後、十月二十四日


「逃げる逃げる!大楽勝!ウェディングリリー、アルテミスステークス制覇!鞍上の久我シュンヤ騎手は重賞初勝利となります!!」


 ウェディングリリーは、新馬戦の後

アルテミスステークス(G3)を無傷で勝利した。

 これにより、正式に

阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)に挑戦する事が決定した。

最後まで読んでくださりありがとうございました。


簡単競馬解説

ラチ:コースの内周、外周に敷かれた白色の危険防止の柵。しなる素材で作られ、衝撃を吸収する仕組みになっている。


ハロン棒:競馬場で距離を測るため一定間隔で置かれているプラスチック製の棒。先には大きいプレートがついている。そこに2や4、6、8などの数字が書かれている。(2=残り200m地点)1、3、5、7など奇数も存在する。

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