新馬戦(メイクデビュー)前編
こんにちはこんばんは。
田原武馬です。ウェディングリリー4話目です。
続けて読んでくださっている方がいらっしゃいましたらありがとうございます。ではどうぞ。
登場人馬 プロフィール
◆久我シュンヤ(19)
新進気鋭の若手ジョッキー。
栗東の大護 厩舎所属。
ウェディングリリーと手綱を通して会話をする事ができる。
◆大護竜一郎(56)
栗東の競走馬調教師。
シュンヤを幼い頃から知っている。
厳しくも優しい一面を持つ。
◆鳥飼創太(28)
大護厩舎所属の厩務員
ウェディングリリーのお世話を担当している。
いつもひょうひょうとしている。頼れる厩舎の先輩。
◆星勝義(48)
ジョッキーとして三十年のキャリアを持つベテラン。
最多G1勝利や歴代最多勝利など数多くの記録を保持している。いつも笑顔を浮かべている。
◆ウェディングリリー
競走馬 白毛
主戦騎手 久我シュンヤ
栗東の大護厩舎所属。
お転婆だが芯の強いメスの二歳馬。
シュンヤのことが大好き。
◆レーヌドール
競走馬 尾花栗毛
主戦騎手 星勝義
栗東の豊彦厩舎所属。
牝馬ながらムキムキマッチョ。メスの二歳馬
六月になった。
リリーがいない約二ヶ月の間、シュンヤはメキメキ腕をあげ、若手ながら十五勝をあげていた。飛ぶ鳥を落とす勢いといった所である。
そして、ウェディングリリーが外厩施設から大護厩舎に戻ってきた。
「リリー、おかえり!」
馬房についたばかりのリリーにシュンヤが声をかける。
「リリー、なんかちょっと凛々しくなった?」
ぶるるる……リリーは当然よ。と言わんばかりに鼻を鳴らす。
その時、リリーの後ろから鳥飼が顔を覗かせた。
「シュンヤ!どうだいリリーは!とも (腰、尻、太もも)がパンと張っていい感じだ!こりゃデビュー勝ちは間違いないな!」
「当たり前ですよ!なんたって僕のリリーですからね!」
「それはレースの時だけな!今はオレのリリーだ。だよな〜」
鳥飼がリリーの首すじを軽く撫でる。
リリーはシュンヤ以外の人間にも気を許すようになり、リラックスしている様子だ。
喜ばしい事なのだが、少しだけモヤモヤしてしまう。
「あほ。お前らのじゃなくてオーナーさんのだよ」
いつの間にか、シュンヤの後ろに大護が立っていた。
「さっき佐伯オーナーがいらしてな。決まったよ。デビュー日。7月12日、函館5Rの芝1800mだ」
「そして今年の大目標は12月に行われるG1、
阪神ジュベナイルフィリーズだ」
「いいですね!先生!僕とリリーは負けませんよ!」
やっと決まった新馬戦、それにG1という大きな目標。シュンヤの胸の内はワクワクでいっぱいだった。
「シュンヤ、リリーの体調管理はオレに任せろ!レース当日ピッカピカにして送り出してやるからな!」
鳥飼も張り切っている。
「はい!お願いします!」
◇◇◇
レース当日、7月12日
梅雨もあけ、夏の始まりを思わせるような陽光が差している。
シュンヤは、函館競馬場で1R、3Rと騎乗し、共に二着であった。
そのどちらも一着だったのはこの道三十年のベテラン、
星勝義だった。いつも笑顔を絶やさず、保持する記録は数え切れない。ファンに愛され、競馬に愛された実力者だ。
そんな彼が検量を引き上げ、休憩室に向かうシュンヤに声をかけてきた。
「久我くん、さっきはどうも。あの差だったから負けたかと思ったよ」
「勝義さん、悔しいですけど、次は負けません」
「次、君と一緒に乗るのは新馬戦だね。僕の騎乗馬はレーヌドール。牝馬だけど、この子はフランスのG1、凱旋門賞を目指せる馬だと思っているんだ。
君の乗る白毛の子、次走は勝てるとおもうよ」
星はいつもの笑顔のまま言った。
「いえ…僕とリリー、ウェディングリリーが勝ちます。絶対にです!」
星はシュンヤの気合いに一瞬、目を丸くした。
が、すぐにいつものにこやかな顔に戻った。
「フフ、楽しみにしてるよ。よろしくね」
「はい!!」
時計は十一時三十分になり、5Rに出走する十人のジョッキーがパドック (楕円形をした馬の下見所)に整列している。
みな、色とりどりの勝負服、白のジョッキーパンツ、黒色の光沢感のあるブーツに身を包んでいる。
それぞれヘルメット、ゴーグルを装着し、手には60cm程の鞭を持っている。
あるものたちは談笑し、あるものは軽いストレッチをしている。
歴戦のベテラン達が並ぶ中、シュンヤは緊張の面持ちで立っている。胴、袖共に青色。胴の斜めにたすきのように黄色が走っている。二の腕あたりが白色の一本輪。佐伯オーナーの勝負服だ。
それぞれパドックに向かって一礼をし、騎乗馬に駆けていく。
陽光の下で真っ白に輝くリリーの馬体は遠目にも目立ち、より一層シュンヤの緊張を高める。
鳥飼に足を上げてもらい、ヒョイとリリーに飛び乗る。
「私のシュンヤ、リラックスなさい。勝つのは私たちよ」
「うん。それは疑ってないんだ。君とデビューできると思うと緊張しちゃって」
鳥飼が馬上のシュンヤを見上げ、ひょうひょうとした態度で言う。
「大丈夫さ。デビュー戦だけが競走馬の全てじゃない。リラックスして楽しんで来な!」
「鳥飼さん……リリーも、ありがとうございます」
緊張が解けた事によって視界も拡がる。
パドックの後方に設置された電光掲示板に目をやる。
そこには7番レーヌドールが、単勝オッズ1.9倍の圧倒的一番人気に支持されているのが見えた。9番ウェディングリリーは次いでの二番人気、3.3倍だ。今に見ていろ。
「リリー、鳥飼さん、絶対勝とう!」
「おう!」
「ええ、当然よ!」
パドックでの周回も終わり、十頭の馬が馬場入りのため、舗装された道をぞろぞろ進んでいく。
それに伴い、シュンヤの心拍数も上がっていくが、今はその緊張も心地いい。
芝コース前で、鳥飼がリリーを引いていたリードロープを外した。
「楽しんで行ってこい!だが一番は、無事に帰ってこい!」
「はい!」
芝コースの上でリリーを軽く走らせ、先に行っていた馬の後ろにつけ並足でついていく。これは返し馬と呼ばれる。レース本番前、パドックからコース、発走地点まで向かうウォーミングアップである。
やがて、スタートゲートの近くの待機場についた。ここまで来たら腹を括るしかない。リリーを信じろ。シュンヤは何度も頭の中でそう繰り返していた。
「やぁ久我君。この子がレーヌドールだよ」
星がシュンヤとリリーの横についていた。
そのレーヌドールはひと目見ても良い馬だとわかった。
輝く栗色の馬体に、美しい金色のたてがみ、尻尾を蓄えている。
肩周りや、ともの筋肉が発達して、とてもデビュー前の二歳とは思えない立派な体型をしている。
たくましい首とは対照的に、その顔は鼻先にかけて細身だ。目は綺麗なアーモンド型をしている。
「良い馬ですね。でも、僕たちは負けませんよ。絶対に」
「ああ、期待しているよ。行こうか、レーヌ」
星はそう言い残すとレーヌドールを促し、ゲートに入って行った。
「リリー、君を信じているよ。僕たちが一番だってこと、みんなに見せてやろう」
「当たり前でしょ?私もシュンヤを信じるわ」
係に誘導され、シュンヤとリリーも最後にゲートに収まった。
「二人とも、頑張れ……!」
そのころ、鳥飼は馬場の脇でスクリーンビジョンを見ながらアナウンサーの声を聞いていた。
「本日の函館競馬、第5R 新馬戦函館。
芝の1800m、十頭立てです」
静寂の一瞬。
「行こう、リリー!」
ガコン!という音と共に一斉にゲートが開いた。
アナウンサーが吠える。
「スタートしました!!おおっと!二頭、ほぼ同時に飛び出した!7番レーヌドール9番ウェディングリリー、ロケットスタート!どちらがいくか!?」
僕たちの新馬戦が、始まった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
新馬戦、一話で終わらせようと思ってたんですけど、人と馬の日常も描きたくって前、後編になっちゃいました。次回もお楽しみに!
簡単競馬解説:競走馬の毛色
全部で8種類あります。鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛、栗毛、栃栗毛、芦毛、白毛
レーヌドールは尾花栗毛ですが、これは栗毛の馬体に金色のたてがみ、尻尾が生えていたらそう呼ばれます。競走馬としての登録は栗毛になります。
ウェディングリリーの白毛は、発現の条件が解明されていない、とても希少で貴重な毛色です。




