03 近
「私、大学四年なんだけど。同じ?」
「一年」
見えなかった。二十歳は、数年前に越えていると思っていた。
ずっと、息が短い。一秒も喋りが続いていない。
「塞ぎがちな性格?」
「はい」
「夢とかってある?」
「人並みに」
調子が崩れる。ずっと男子のペースだ。どんどん、飲み込まれてゆく。
カーカー、カーカーと、声が聞こえた。カラスか。近くの芝生に、カラスが三匹見えた。
暗黒の世界が、そこまで来ている気がした。暗い暗いお空だ。マーブル模様のような、不思議な空だ。
合わせるのが嫌い。合わせたら、震える。私はそんな、自分のペースで行きたいタイプだ。
それなのに、男子に合わせても、震えはしなかった。合わせている感じも、ほとんどしなかった。不思議だった。
ボソッとしか喋らない。文字数が、決められているみたいに。独特だ。
五文字単語以内で、縛ってるタイプだ。そうに違いない。それしかない。
それに、曖昧な言葉ばかりだ。回答が、ふわりとしている。具体例が何もない。
低い場所を、カラスが飛んでいる。風が、渦を巻いているのが分かる。
この男子の負のパワーは、私の陽のパワーよりも強い。
ひし形が、連なっているタイプの地面。いつもは、普通に見ている。
でも、今はそれが思考を縛ってゆく。きっちりきっちり、させようとしてくる。
男子は、自分の心に、目を向けているようだ。雑多な世界が、見えないように。