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国内救助隊  作者: 伊部 九郎
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第9話 搭乗試験

 烈の大号令のもと、鳥石井ホールディングス傘下の建設系企業がレインズのチームに全力をあげて協力した結果、3か月後には鳥石井アイランドの主要施設の設計が完了したので、即座に建設が開始された。

 レインズのチーム5人は、引き続き鳥石井家の屋敷に用意された施設で、主要機体と救助用機材、救助用の医療関連装備、鳥石井アイランド周辺のカモフラージュ装置などの細部設計を続けた。

 彼らは、少しでも早く完成させようと睡眠時間を削って対応していたが、皆、予算を気にせずに自分たちがやりたかったことができるという喜びから、ハードワークを苦痛と感じている様子はなく、実に楽しそうに作業に没頭していた。

 レインズは、週に1、2度は、建設状況の確認と細部の指示のために鳥石井アイランドを訪れていた。以前からある石油採掘施設の屋上にヘリポートがあったので、移動はヘリコプターで行っていたが、それでも結構な時間がかかったため、それがレインズの良い睡眠時間になっていた。


 基地の建設には、鳥石井建設の関連企業の作業員がメインで多数投入されたのはもちろんだが、時間短縮のために他のグループ会社からも体力自慢の人間が多数投入された。また、食事や医療担当のスタッフ、清掃係、雑用係も多数投入されたので、その人数は数千人単位になり、かなりの活況を呈していた。


 大量の人数を投入したおかげで、各施設の建設を同時進行で進めることができたため、開始から1年後には主要施設はほぼ完成するに至った。


 そしてこの日、鳥石井家の6人とレインズは、完成した基地の指令室に集まっていた。


「ほほう、パっと見は広めの書斎みたいに見えるんだな」

 烈は感慨深げに言った。

「はい。外部から訪問者が来たときに、指令室然としたものがあると不思議がられますからね」

「なるほどな」

「そこの机が司令官である鳥石井さんの席ですが、細かい備品はまだ準備できていません。部屋の内装や照明に関してもそうですね。鳥石井さんの席のうしろにあるのは、救助活動の様子を映し出すモニタで、最大8分割で表示できるようになっていますから、主要機材や各救助機材に取り付けられたカメラからの映像を色々な角度から映し出すことができます。そして、その左にある兄弟みんなの肖像画のうち、まこちゃんとハッちゃんとゴウどんのが1号と2号への搭乗口になってます」

 兄弟の肖像画は、この部屋が仕事用であるように偽装するためかスーツ姿で、しかも髪を切る前の様子だった。

挿絵(By みてみん)


「なるほど、なるほど。いいんじゃないか」

 烈は、息子たちの肖像画が気に入ったのか、部屋の様子が気に入ったのか、実に満足そうだった。


「それで、搭乗システムは完成してるんで、まこちゃんとハッちゃんとゴウどんには、ちょっとその装置を試してもらいたいんだけど」

 レインズが言った。

「お!できたのか!やるやる~」

 誠、奔、剛は嬉しそうに言った。

「えー?3号のはー?」

 新が不満そうに言った。

「3号の機体がまだ完成してないからもう少し待って。鳥石井さんの机の前に四角い枠があるでしょ?そこに設置する予定だから。まずはなんといっても、救助隊の目となる5号の建設を急ぐ必要があったから、その資材を輸送するロケットの製造を優先したんだよ。そのおかげで、すでに3回ほど輸送飛行が終わってて、5号の建造は順調に進んでるよ」

「そっかー。わかったー」

 新は納得したような返事をしたが、明らかに不満そうな様子だった。


 三人は、兄弟全員の縦長の全身肖像画が並べて飾ってある場所の前に立った。一番右が、誠で、そこから兄弟の年齢順に、丞、奔、剛と並んでいて、一番左が新だった。

「それじゃ、まず、まこちゃん。自分の肖像画に背中を付けて、両足を揃えて立ってくれる。肖像画が搭乗用のドアになってて、前に立つと横に回転して登場システムへ移動できるようになってるから。あ、立つと両手の位置に肖像画から棒が出て来るから、振り落とされないようにそれを掴んでね」

「おおー、なるほどー。わかった」

 誠は、そう言ってからレインズに言われた通りに肖像画に背を付けて立った。

 その途端、誠の手の位置に直径3センチほどの棒が飛び出して来たので誠はそれを掴んだ。すると、足元の床ごと肖像画が180度水平に回転し、誠は壁の向こうに消えた。新しく現れた壁にも誠の肖像画が描かれていたが、それは、短いビキニパンツを履いただけのほぼ全裸で、ボディビルダーのように両肘を横に張って胸の筋肉を盛り上げたポーズを取っているものだった。

挿絵(By みてみん)


「え!?なにこの裸の絵は!」

 レインズは、驚きの声を上げた。

「あ、レインズは知らなかったのか。兄弟全員で話をして、出動中の人間だけ肖像画がない状態になってるのは不自然だし、かといって表と裏の絵が同じじゃつまらないし、この格好ならぱっと見で誰が出動してるかわかるしで、これでいこうってことなったんだよ」

 奔が得意そうな顔でレインズに説明した。

「えー!?意図はわかるけど、どういう趣味なのよ」

「まあ、みんな、会社の業績から頭脳面ばかり褒められるけど、何気に体力自慢でもあるからね。それが示したかったってことだよ」

「でも、出動してる間にこの部屋にいるのは救助隊のメンバーだけでしょ。身内にだけに見せてどうすんの」

「いいんだよ!みんなこれが気に入ってるんだから!」

「まったく、もう。それと、出動中はずっと裸の肖像画ってことは、宇宙ステーションの5号が出来上がったらジョーくんのはずっと裸ってことだよね」

「あー、そうなるなあ。わははははは!」

「えーーーー!?」

 レインズはげんなりした顔をした。


「あー、そういうことかー」

 そこで、壁の向こうから誠の声が聞こえてきた。


 誠はの目の前には、左右に手すりの付いた1メートル四方程度のゴンドラがあった。その床には、長円形に窪んだ部分が二つあり、以前に見た救助用スーツのズボン部分を装着する装置のようだった。その前には、両肩の位置に一つずつ穴の開いた2メートルほどの高さの直方体のコンテナがあった。

「なるほど、これに乗るとスーツを装着してくれるんだな。待ってたら勝手に全部やってくれるかと思ったよ」

「あー、ごめん、説明が足りなかったね。最終的には、自動でせり出すようにする予定なんだけど、まだその部分だけできてないんで、今回だけは1歩だけ前に出てから肩の高さにある穴に両手を突っ込んでくれる?」


 それを聞いた誠は、前方左右の手すりをつかんでゴンドラに乗りみ、目の前にある二つの穴に両手を突っ込んだ。

 その途端、ゴンドラは前方に移動し始め、徐々に加速していったが、移動しながら床からスーツが上がって来て下半身をピッタリと覆った。

 同時に、両手を突っ込んだコンテナから、スルスルとスーツが体の方にせり出してきて、4秒ほどでびったりと上半身全体を覆い、最後に装置の腰の位置からベルトが出てきて腰の後ろでカチリと留まった。


 その直後、後ろから操縦席の椅子が移動してきたかと思うと、誠をそれに座らせると同時にスーツの装着装置が前方に離れていき、次に、上からコクピットのキャノピーが下りてきて、それが頭の上まで来ると椅子ごとゆっくりと右に回転しながら下がり始めた。

 誠が下を見ると、そこには1号が駐機されていて、誠は、椅子とキャノピーごと1号のコクピットに収まった。


 数分後、誠は指令室に戻って来た。

「うん、なかなかいいんじゃないかな。シーケンスとしてはこれでいいと思うよ。ただ、コンテナの移動スピードはもう少し上げても大丈夫かな。特に振り落とされそうな感じもなかったし」

 誠は、満足そうな顔でレインズに向かって言った。

「了解。少し調整しよう。細かいところは、また後で聞くよ。じゃあ、次はハッちゃんよろしく。まこちゃんと同じように自分の肖像画の前に立ってくれる?」

「おっけー」

 そう言って、奔は、言われたとおり、自分の肖像画に背中を付けるように立った。

 その途端、肖像画が真ん中あたりの高さのところを軸にして後ろに倒れ、肖像画とそれがはめ込まれているパネルごと空いた穴の中に滑り落ちて行き、直後に肖像画が上下180度反転した状態になり、誠と同じように裸で違うボディビルのポーズをとった肖像画になった。


「頭から落ちる滑り台になってるんだー」

 レインズが奔の裸の肖像画にげんなりした表情をすると同時に、壁の向こうから奔の声が聞こえて来た。しかし、すぐに、

「でも、これって角度がちょっと、いや、待って、落ちる、落ちるよ、うわあああああぁぁぁぁぁ・・・・・・・」

 という絶叫がして、下の方に遠ざかって行った。

 誠と剛は驚いてレインズの顔を見たが、レインズは涼しい顔をしていた。


 数分後、奔が肩で大きく息をしながら誠よりも短い時間で指令室に走って戻って来た。

「ばかやろー!角度が急すぎてとんでもないスピードだったぞ!殺す気かー!」

 奔は怒った顔でレインズに怒鳴った。

「死んでないじゃない。意外と度胸ないねー」

 レインズはとぼけた顔で言った。

「あんな角度とスピードで頭から滑り落ちたら、誰だって生きた心地しないだろ!せめて、足からにしろよ!足からに!」

「そう?わかったよ」

 そう言うとレインズは、ポケットからかリモコンを取り出し、いくつかボタンを押した。

「これで足からになったから、もう一回やってみて」

「ホントか?」

 疑い深そうにそう言いながら、奔は先ほどと同じように自分の肖像画に背を付けて立った。

 その途端、先ほどと同じように肖像画が後ろに倒れれて、頭から壁の穴に吸い込まれていった。

「うそつきー!変わってないじゃーん・・・・・って、ああ、ここで反転するのか」

 と、またしても奔の声が壁の中から聞こえて来た。そして、

「ああ、ちゃんと今度は足から滑り・・・滑り・・・・ぎやああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」

 という絶叫が、先ほどと同じように下の方に遠ざかって行った。


 数分後、奔がよろよろと指令室に戻って来た。

「足からでも、あの角度とスピードは無理!もっと、角度を緩くして、緩く!」

「もう、しょうがないなあ。ちょっと我慢すればすむことじゃない。緩くするってことは、迂回させたルートにするってことだから、出動が遅くなるんだけどなあ」

「ちょっとじゃないよ、ちょっとじゃ!そんなに言うなら自分でやってみろよ!」

「えー?・・・まあ、いいけど」

 そう言うとレインズは、リモコンを机の上に置くと奔の肖像画に背を付けて立った。

 その途端、同じように肖像画が倒れ、レインズは頭から吸い込まれていった。

「うん、想定通りの動きだな。ここで180度ターンして、滑り落ちて行くと。おお、なかなか気持ちいい・・・気持ち・・・・・ぎやああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 今度は、レインズの絶叫が下の方に遠ざかって行った。


 数分後、レインズは肩で息をしながらよろよろと指令室に戻って来た。

「すみません、すみません。僕が悪かったです。直します、直します」

 そう言って、レインズは奔にペコペコと頭を下げた。


「えー?直しちゃうのー?面白そうだけどなあ。俺も2号に乗るときは同じシステムなんでしょ?俺のはそのままでいいよー」

 と、ここで剛がレインズに向かって言った。

「ゴウどんは試してないからそんなこと言えるんだよ!やってみ!めっさ怖いから!」

 奔が怒ったような顔で言った。

「えーとね、ゴウどんも出動するときは確かにここから2号に乗るけど、スペースの関係でまこちゃんと似た感じの横回転で壁の向こうに入って立ったまま降りていくシステムになってるんだよね」

「ええー!それつまんないじゃん!・・・・・あ、じゃあ、ハッちゃんのと交換してよ」

「それって、実際にやってみてから言った方がいいと思うぞ」

 奔が相変わらず怒ったような顔で言った。

「そう?じゃあ、やってみよう。俺、ジェットコースター大好きだからね~。絶対楽しい気がするよ」

 そう言いながら、剛は奔の肖像画パネルの前に背を付けて立った。

 その途端、先ほどと同じようにパネルが後ろに倒れて、剛は頭から壁の向こうに吸い込まれていった。

「おおー!こうなってんのかー・・・ここで180度回転して、っと。おお、下へすべり始めた・・・・・・・って、確かに角度が・・・・ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・」

 という甲高い声が壁の向こうから聞こえてきた。

「ほうら、やっぱり」

 したり顔で奔が言ったが、その直後、

「・・・・・ぃぃぃぃぃーーーーやっほーーーーーーーーー!」

 という、剛のノリノリな声が聞こえてきて下方に遠ざかって行った。

「・・・・・違った」

 奔がガッカリした顔で言った。


 結局、奔と剛は搭乗装置を交換することになったので、肖像画の並びが年齢順じゃなくなったが、誰もそのことは気にしていないようだった。


すみません、今後、かなり投稿のペースが悪くなると思います。

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