第10話 2号の初飛行
救助活動のメインとなるアルバトロス2号が最初に出来上がったので、今日は、鳥石井家の全員とレインズが見学のため鳥石井アイランドに集合していた。
「さ、この通路を出たら2号の格納庫ですよ」
レインズは、そう言いながら目の前にある大きな扉に向かって歩いて行った。
その途端、ピッ!という電子音とともに扉が左右に開いた。
「この扉は、みなさんの会社と同じく顔認証で開くようになってます」
「りょうか~い」
そのあと、鳥石井家の面々が入り口に近づくたびにピッ!という電子音が鳴った。
扉抜けると、目の前に左後ろから見る位置で2号が駐機していた。
「おおー!でけー!」
鳥石井家の全員は、キラキラとした目を見開いて2号を注視した。
「こんなにデカいとはねー!」
奔が驚いたような声で言った。
「救助機材を搭載すると、やはり、このくらいの大きさは必要だからね。これでも、ジャンボジェット機よりは少し小さいんだけどね」
「胴体の幅があるからもっと大きく見えるな・・・・って、あれ?なんか尻尾が無くなってない?」
「それなんだけど、飛行中の細かい姿勢調整のためには噴射ノズルが後ろに伸びてた方が良かったんだけど、計算してみたところステルス性が大きく損なわれるのが分かったんでエンジンの噴射口は機体上部後端に移動しちゃったんだよ」
「あー、そうなのか~。なんか残念だなあ」
他の5人も、腕を組んでうんうんと頷いている。
「でも、秘匿性重視でステルス機能優先だから仕方ないよ」
「まあねえ、うーん」
「もう、しょうがないだろ。さあ、乗り込もうぜ」
と、誠が言った。
「そうだね。それより中が楽しみだし」
7人は、開いている格納庫の後部ランプからぞろぞろと2号に乗り込んでいった。
鳥石井家の一行が2号のからっぽの格納庫の中を珍しそうにキョロキョロと見回しながらゆっくり歩いて格納庫の前端まで行くと、そこには、四隅を四角いパイプで覆われたゴンドラのようなものがあった。
「さあ、皆さん乗って。これで、コクピットに移動しますよ」
「え?これってエレベーター?飛行機の中にそんなものがあるの?」
新が驚いて言った。
「ここからのコクピットの位置は、建物3階分ぐらいの高さになるからね」
「そうかー」
エレベーターで上に上がると、目の前にコクピットへの扉があったので、全員そこから中に入った。
「あらー、飛行機のコクピットとは思えないぐらい広いねえ。まるで、ジャンボジェット機の2階席のようだ」
丞が感心して言った。
「この機体は横幅があるし、救助内容によっては4、5人追加で搭乗することもあるだろうから、座席を確保する意味でも広くしたんだよ。念のため、補助席も入れて7人搭乗できるようにはしてあるよ」
「なるほどー」
「じゃあ、さっそく初飛行に行こうか」
レインズは、さも当然といった顔で言った。
「え!?もう、飛べるの?」
奔が、目をキラキラさせながら聞いた。
「一応完成して整備も万全だし、半分だけど燃料も積んであるからね。いつでも飛べるよ。操縦方法はシミュレーターでマスター済みでしょ?」
「うん。そこは大丈夫。他の機体なら不安になるところだけど、レインズの設計だから問題ないだろう。それじゃ、行くか」
「ああ、何事も迅速にだ」
烈が重々しいながらも、少し嬉しそうなトーンを含んで言った。
「わかったよパパー」
そう言うと、鳥石井家の兄弟は、奔が中央最前列の操縦席に座り、残りが空いてる席に座ってシートベルトを締めた。烈とレインズは、操縦席のやや後方左右の前方が良く見える席に座った。
「事前にシミュレーターで訓練はしたけど、実機だとやっぱり緊張するなあ」
そう言いながら、奔はエンジンを始動すると、液晶モニタを切り替えながら各種のチェックを始めた。
「うん、大丈夫そうだな。それじゃみんな、行くよー!」
「おおー!」
鳥石井兄弟の4人は、満面の笑顔で右こぶしを高くつき上げた。
烈もワクワクしているような表情をしていた。
奔が目の前のタッチパネルの「Take Off」をタッチすると、2号はゆっくりと前進を始めた。
「ほほう。スロットルは自動なんだな」
烈が感心して言った。
「はい。今は、一般のジェット旅客機でもほとんど自動ですね。発進のシーケンスがいつも同じである2号の場合は余計に自動が適切ですね」
機体がある程度前進すると、目の前の壁が下がっていき、その先に四角くて長いトンネルが現れた。
「みんな、ここが滑走路ですぐにフル加速するからね。飛び出し口の扉は滑走中に開くようになってるよ」
「おおー!」
レインズがそう言った途端、機体は急加速してトンネルの中をものすごいスピードで進み始めた。皆は、Gで体が背もたれに押し付けられたので、シートの手すりを握って耐えていた。
加速を初めて数秒後に、かなり前方の上側が徐々に明るくなっていった。
「おおー!あれが発進口の扉かー」
奔が言った。
そのさらに数秒後、機体は発進口のスロープに到達し、ロシアやフランスの空母のようにスキージャンプ台を勢いよく上って飛び立っていった。
「おおー!飛び上がったよー!感動するねー!」
奔が感慨深げに言った。
「ひいーーーやっほーーーーー!」
剛は、相変わらず奇声を上げていた。
発進後、かなりの角度で上昇を開始すると、そのまましばらく上昇を続けていたが、ある高度になったら自動で水平飛行に移行した。奔が画面を見ると「3000m」と表示されていた。
「すごいな、ここまで自動なのか」
「俺、まだ操縦桿触ってないよ」
烈の言葉に奔が笑いながら答えた。
「本来は、速度が出せるようにもっと高いところまで登るんですが、今日は初飛行なのでとりあえず3千メートルで水平飛行になるように設定しておきました」
「なるほど。いいんじゃないか」
烈が満足げな顔で言った。
「じゃあ、ハッちゃん、自由に操縦していいよ」
「よっしゃー!」
奔は、ジョイスティック型の操縦桿を握ると、まず、左にゆっくりと旋回した。
次に、さっきより少しきつい角度で右に旋回した。
それから、徐々に細かい操舵をしながら、上昇、下降、旋回を繰り返した。
そして、そのたびに剛が、「ひょー!」とか「いえー!」とか一人で歓声を上げていた。
「う・・・気持ち悪くなってきた・・・ちょっとハッちゃん、やり過ぎ。もっとゆっくり旋回してよ。みんなだってそうだろうし・・・」
レインズはそう言って、他の鳥石井家の面々を見たが、皆、平気な様子で楽しそうな顔をしていた。
(しまった!この人たちは何気に体力自慢だった!)
「楽しいからこのままでいいよー♪」
剛がそう言って、すぐに飛行機の旋回に合わせて「ひゅー!」と叫んだ。
「えーと、じゃあ、ゴウどんがうるさいからもっと静かに飛んでくれる」
「あー、確かに。わかった」
その言葉には納得したらしい奔がそう答えると、飛行機の機動がゆっくりしたものになった。
レインズがなにげに剛に視線をやると、ふくれっ面をして睨んでいた。
「えー!面白かったのにー」
剛は不服そうだった。
「あ、そうだ!レインズ、この機体には垂直離着陸用の偏向ノズルがついてるんだよね?」
「そうだよ」
「じゃあ、前にハリヤー攻撃機が飛行中に急激に偏向ノズルの角度を変えることで追尾してくる機体の後方に瞬時に回り込むのをテレビで観たけど、この機体も同じことしてみていい?」
「だめだよー!」
奔の問いかけに、レインズが慌てたように言った。
「戦闘機や攻撃機じゃないんだから、そんな急機動は想定してないよ。機体が壊れちゃうよ」
「ええー?そうなのー?つまんないねえ」
「この機体はずうたいもデカいしね。そんなことしたら空中分解しちゃう可能性だってあるよ。1号なら小さいし、速度に合わせて機体も強化してあるからできると思うけど」
「え!そうなの!?じゃあ、今度やってみよう!」
誠が嬉しそうに言った。
「あー!まこちゃんだけズルい!」
奔は不満そうだった。
しばらくそのまま操縦していた奔が嬉しそうに言った。
「だいたい感じはつかめたけど、この機体、加速もいいし、操縦桿のレスポンスも抜群!それでいて、安定性もすごくいい。最高だな―!」
「まあ、このくらいは当然かな」
レインズが無表情で言った。
「さすがレインズ!天才過ぎ!」
鳥石井家の全員が声を揃えて言った。
「あれ?予報より低気圧の接近が早いね。天気が悪くなってきたからろそろ引き上げよう」
タブレットで天気予報サイトを見ていたレインズが言った。
「了解」
と、言いながら海の様子を見下ろした誠が、驚いた声を上げた。
「ちょっと待った!タンカーが座礁してるみたいだぞ!」
「なに?」
そう言うと、剛、丞、レインズは窓に寄っていった。
「ホントだ!」
「ハッちゃん、ちょっと2時方向にゆっくり旋回して」
誠が緊迫した声で言った。
「了解」
奔は、2号を減速させると、言われたとおりに旋回した。
「見えた。あれは、確かに座礁してるな」
「誠、丞、ゴンドラで船に降りて様子を見て来てくれ。状況によっては乗員を救助する必要があるだろう」
「了解だよ、パパ―」
烈の指示に誠と丞が答えてコクピットを出て行った。
奔は、タンカーの真上に来ると前翼を展開して2号をホバリングさせた。
それから、格納庫下部のハッチを開いてクレーンで大型の収容コンテナを吊り下げた。そこには、誠と丞が乗っていた。
「おい!大丈夫か?」
二人はタンカーに降り立つと、近くにいた乗員の男に後ろから声をかけた。
「え?なんだあんたたちは!どこから現れた!?」
振り返った乗員の男は、見慣れない二人組とその背後に大きな四角いゴンドラのようなものがあるのを見て驚いた。
誠は、無言で上を指さした。指さされた方を見上げた乗員は、超大型の機体が空中に静止しているのを見て驚愕の表情を浮かべた。
「我々は救助活動を行う組織だが、上空を通りかかったらこの船が座礁しているように見えたから降りてきた」
「本当か?それは助かる。その通り座礁して動けなくなってたんだ。電波状態が悪いのか無線も繋がらず、会社と連絡もとれないんで全員救命ボートで脱出しようかと思ってたんだが、海が荒れてきて迷ってたところだったんだよ」
「乗員は何人だ?」
「24人だ」
「負傷者はいないか」
「大丈夫だ」
「全員立ったままならなんとかこのコンテナに乗れるな。陸まで運ぶから全員集めてくれ」
「わかった!」
その男はそう言うと、ブリッジの方へ走って言った。
「まこちゃん、レインズが救助隊の機体の機密を保護するために5キロ四方に妨害電波を流してるって言ってたから、無線が通じないのはそのせいじゃないのかな」
「あ、言ってた言ってた。そうかあ、なんか悪いことしたなあ」
二人はちょっと申し訳ないような気持ちになった。
しばらく待っていると、船内放送でも流したのか、他の乗組員が船上のバラバラの方角から集まってきた。
「こっちだ!沈没するわけじゃないから、あわててケガをしないように」
誠が上げた手を振りながら、その船員たちに向かって大声で言った。
全員をコンテナに乗せると2号はゆっくりと上昇した。機密保護上、機内に外部者は入れないことにしているので、そのまま陸へと移動していった。
「すげー!飛んでる!俺、飛行機乗ったことないからこういうの初めて!感激ー!」
若い乗員が、うれしそうな顔でコンテナから下を覗き込んだ。
「おい、あんまり身を乗り出すな。落ちるぞ」
丞が注意した。
「あ、雨が降ってきた」
別の乗員が言った。
「まあ、上に機体があるから濡れることはないと思うが、風邪をひいちゃいかんな」
誠は、そう言いながらゴンドラの支柱にあるスイッチを押した。すると、透明なキャンバスがするするとゴンドラの上部とサイドを覆っていった。
「おおー!スゴいなこれ!」
と、乗員たちは驚きの顔で感心した。
そのまま海岸線まで移動すると、崖の上の草むらに全員を降した。
「じゃあ、消防署にはあんたらがここにいることを連絡しといたから」
誠は乗員たちに言った。
誠と丞が救助活動をしている間、2号のコクピットでは、レインズが開発した妨害音波でも妨害されない特別の電波を使って基地に連絡し、そこから消防署に詳細を伝えていた。
「ありがとう!助かったよ!」
「ホントにありがとう!」
「感謝感謝だよ」
乗員たちが誠と奔に言った。
「ホントにありがとう!生まれて初めて空を飛べて感激したよ!」
身を乗り出していた若い乗員が言った。
「そこかよ!」
誠と丞は同時にツッこんだ。
「いや~、人助けっていいな~」
「うんうん、ホントにそうだね!」
2号に収容されていくゴンドラの中で、誠と奔が感慨深げに言った。
今まで人に恨まれることはあっても感謝されることなどなかった二人にとって、多数の人から感謝の言葉をもらうのは初めてのことだったので、かなり感動していた。
こうして、アルバトロス2号の初飛行は、予定にない救助活動をおまけにつけて無事終了したのであった。




