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 僕はその足で友成くんと待ち合わせしている隣町のコンビニに向かう。

 ちょっとだけ遠回りになるけど、公園のほうを通っていく。

 彼女、いるかな。

 横目でちらちらと公園の中を見ながらゆっくりと歩いていく。視界の隅に風に揺らぐ金色の髪が見えた。

 今日はジャングルジムに登っている。何やってるんだろう。よく見えない。けど、あんまりジロジロと見てたら怪しまれるし。 気が付いたのは一ヵ月ぐらい前だった。登下校でいつもこの公園の横を通ると、いつも彼女がいた。

 腰まである波打つようなキレイな金髪。

 碧色の大きな瞳。

 いつも笑みを絶やさないピンク色の唇。

 ピッチリとした白いTシャツの上からジージャンを羽織り、同色のショートパンツ姿が彼女の体を健康美に見せてくれる。だけど、あの格好ってけっこう男から見れば刺激的すぎる気もするんだけど、男の人がからんでいるのを見たことがない。きっと彼女の高貴なオーラに俗物たちは近付くことができないんだ。僕もその俗物のひとりなんだけど。

 どこの人なんだろうか。外見からして日本人じゃないことだけは確かだ。

 気になりながらも僕はいつもと同じく素通りしていった。





 コンビニに行くと、すでに友成くんは来ていた。ブルーのチェックのシャツが外からすぐ目についた。友成くんは雑誌コーナーで車の雑誌を立ち読みしていた。

「ごめん、遅くなっちゃった」

 店に入ると、僕は友成くんの所へ行く。

 身長は友成くんのほうが高いけど、彼もやせ型でこれといって特徴のない顔立ちをしている。

「いいよ。俺も今来たとこだから」

 友成くんは見ていた雑誌を元に戻す。

 友成くんは両親の離婚が原因で一気に成績が落ちたせいでクラスのみんなからも先生からも相手にされなくなっていた。

 僕たちが通う中学は私立の進学校で、成績の悪い者は先生から生徒扱いされなくなる。

 友成くんはお母さんにやめたいと何度も言ったらしいんだけどやめさせてくれないらしく、高校もそのまま続けて行かせる気でいるらしい。そのため友成くんのお母さんは高い学費を稼ぐためにホステスになったと聞いた。けど、母親のその想いは友成くんにとっては重荷でしかなかったらしい。その辺の境遇がよく似ていた。母さんは僕に能力以上のものを求めてくる。子供の意志などそっちのけで。

 友成くんの席が僕の後ろだったせいもあって、お互いのことを話していくうちに僕たちは意気投合した。

 今まで友達と呼べる存在のいなかった僕にはとてもうれしいことだった。

 世間知らずだった僕を、友成くんはいろんなとこへ連れていってくれた。ゲームセンターや映画、ファーストフードのお店。すべてが僕にとっては新鮮だった。

「朝メシ食った?」

 友成くんが聞いてくる。

「まだなんだ」

「じゃあ、ここで何か買ってく?」

「そうしたいんだけど、さっき母さんとケンカして飛び出してきたからサイフも何も持ってきてないんだよ」

「え、そうなのか?」

 ちょっとガッカリしたという反応だった。

「まいったなぁ。俺も今日はまだおふくろが帰ってきてないから金もらってないんだ」

「それなら仕方ないよ。あきらめよう」

 そう言ってコンビニを出ようとした時、友成くんがいきなり僕の左腕をぐっと後ろに引っ張った。

 そして、友成くんは僕にそっと耳打ちする。

「あきらめることなんかないさ。盗ればいいんだから」

「えっ?」

 僕は自分の耳を疑った。盗るって、ようするに万引きするってこと?

「よくないよ、そういうのって」

「何言ってんだよ。腹減ってんだろう」

 そりゃあ確かにお腹は空いてるけど、やっぱり盗むのはよくないことだよ。

「簡単なんだぜ。大丈夫だって。バレやしないよ」

 パンパンと僕の背中を叩いて、友成くんはパンとかが置いてあるほうへ歩いていく。

 店員さんは今はレジに男の人がひとりだけ。お客は僕らの他に二、三人。

 友成くんは平然とした顔でパンを選んでいる。レジの目の前なのに、すぐに見つかっちゃうよ。


 ドキ……ドキ……ドキ……ドキ……ドキ……。

 ドキドキドキドキドキ。


 見ている僕は心臓が破裂しそうだった。         

 お客のひとりがレジに行ったと同時に、友成くんはパンを二個シャツの中に素早く入れこんだ。

 や、やってしまった。

 とてつもない不安と恐怖が僕の心を支配していく。きっと僕の顔はすごく引きつっているんだと思う。僕は顔を店員さんに見られないように外を向き、手近な雑誌を手に取る。

 と、ふいに肩を叩かれる。

 どっきん!

「な、簡単だっただろう」

 友成くんだった。

 はぁ〜、心臓が止まるかと思った。

 僕はキョロキョロと視線を泳がしながら雑誌を戻す。

「筒井もやってみろよ」

「い、いいよ。僕にはそんな度胸ないし」

「ちぇ。いくじないな」

 友成くんは僕を蔑むように見ると、スッと何事もなかったかのようにコンビニを出ていく。友成くん少し変わったような気がする。友成くんもどちらかというと臆病なほうだったのに。お母さんとうまくいってないのかな。

「!」

 友成くんが出た後に、すぐにコンビニの店員さんが出ていく。僕は心配になって後を追う。

 友成くんは店員さんに呼び止められた。

 やっぱり見られてたんだ。

 僕は膝がガクガク震えて友成くんの所へ歩いていくことができなかった。

 店員さんは友成くんのシャツをズボンから引っ張りだす。当然さっき盗んだパンが二個落ちる。

「どういうことかな、これは」

 背高のっぽの細長い顔をした店員さんは、怒りも露にして友成くんを見下ろしている。

「中学生か? 高校生か? こんなことしちゃいけないことぐらいもうわかる年だろう!」

 問答無用と言わんばかりに店員さんは怒鳴っている。

「ご、ごめんなさい」

 友成くんは自分の犯した過ちに気付いたのか、ぼろぼろと涙を流して何回も謝る。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「謝ってすむことじゃないだろう! 警察を呼ぶからな。こっちへ来なさい!」

「ごめんなさいっ! ぼく……彼に命令されて仕方なくやったんです!」

 友成くんが僕を指差した。

 えっ……?

「言うこときかなきゃ殴るって。だから、ぼく……。お願いですから、警察だけは許して下さい! お母さんに心配かけたくないんです!」

 友成くんは店員さんにすがりついて懇願する。店員さんの視線が僕に移る。

 うそだ。僕はそんなこと言ってない。

「ったく、最近の子供はおとなしい顔して何考えてんだ!」

 憤怒の形相で店員さんが僕のほうへ歩いてくる。そのすきをついて、友成くんは走って逃げていく。

 そんな……。

「どこの学校だ? 名前は?」

 ちがう。僕は何もやってない!

 叫びたくても声がでなかった。

 店員さんが僕をつかまえようとだんだん近付いてくる。

 僕は何も悪いことしてないのに、どうしてそんな怖い目で僕を見るんだよ。

 体の震えが止まらない。

 店員さんの手が僕に伸びてくる。

 いやだっ! 

 こっちへ来るな!

「こら、待てっ!」

 気が付いたら、僕の足は動いていた。店員さんの呼び止める声に怯えながら、僕は懸命に走った。




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