むかし話
サナと真田はソファに座っていた。
2人ともソファの背もたれに倒れ込んで天井を見ている。真田は風呂から上がるとどっと疲れが吹き出した。サナはやっと心が落ち着いたのか、ずっと大人しくしている。真田はその様子をみてホッとする。2人が揃うと、まるで初めて乗るジェットコースターのようにいつも驚きと刺激を与えてくれる、と真田は思った。
「ねぇ、しんちゃん。昔話していい?」
サナが天井をみたまま真田に話しかける。真田は。ああ、と相槌を打つ。
「去年の12月だったかな…なんで、サナを指名してくれたの?」
「ん?ああ、マキね。」真田は思い出すように答える。すこし恥ずかしいような照れくさいような感情もでるが、真田は少し考えたあと、
「さっちゃんがフリーの俺の席に来た時、なに話したか覚えてるか?」
と、逆に聞いた。サナは、すこし笑うとごめんと言った。覚えてはいないらしい。
「ははは、だよな。最初からさっちゃんはバカ話しをいっぱい振ってきたんだ。俺はおまえに、モテるだろう?って聞いたんだ。そしたらお前は、お兄さんこそモテるでしょ?って返してきたんだ。でも、その後にさっちゃんは俺に(でも寂しそうだね)って言って、とても心配してくれたんだ。」
「あ!それ言ったの覚えてる。その後メールでも書いたよね?」
「そうそう。俺は感情を表に出すのが嫌だから、いつも心にしまっちゃうんだ。だからあの時、実はびっくりしたんだ。自分の心を見透かされたって。」
「しんちゃんは分かりやすいけどな…」
サナはそう言うとクスって笑う。おまえだけだと、真田も笑って言う。
「その時は言わなかったけど、あの頃俺はいつも一人になると、ある女の子のことが頭に浮かんでいた」
「…戸田…さんね?」
サナは冷静に言う。戸田は真田の2つ前の彼女だ。真田はその戸田のことがすっと好きだったと昔言っていた。
「そう。俺はその話しを誰にもしたことがなかった。だから余計苦しんでいたかもな。でもサナに会ったとき、いつかこいつなら話せるんじゃないかって思ったんだ。だから俺は初めて指名っていうもんをしたんだ。」
「そうだったんだ…。はじめ分からなかったもん。なんでこの人、私を指名したのかなって、思ってた。」
サナも思い出すように言う。
「最初はメールしても中々返事帰ってこないし、全然私に興味ないだろって思ってた!」
「ははは、それはお互い様だろ」
真田は、笑いながら言う。だねっとサナも笑う。
「正直いうと…しんちゃん面白かったけど、お客さんとして面倒だったな」
「あれま。どうして?」
「全然、私のこと女として好きになってくんないんだもん。営業がしづらかった。覚えてる?一度、久しぶりに会いたいよ〜ってメールしたら、三点倒立してる写真くれたら行ってやるって返ってきたの。殺意がわいた!」
真田は思わず笑ってしまった。だがこちらは残念ながら真田の方が覚えていなかった。
「あ、でもね、ある日…しんちゃんがヘルプの娘と楽しそうに話してる時、すごくイライラしたことがあったの。」
「あ、それ覚えてる!ヘルプの娘の爪を見てたときだろ」
「そうそう!手を繋いでるみたいにイチャイチャしてるからさぁ…」
真田は思わず苦笑いしてしまう。
「でも、そういうドライな関係だったから今良かったかもね…あの日、あ。バレンタインの日ね。私、本当は常連さんみんなにメールしてたの…」
「おっとー。そうなんだ…」
「でね。最初にきてくれたお客さんに日記のこと話そうって決めてたの。そしたら、しんちゃんが一番にきてくれた。なんだかんだで、ホッとしたかも」
「あの日記かぁ」
真田は今思えば日記に感謝しなきゃと思った。あれがなければサナとこんなに仲良くなることはなかっただろう。
「私ね。最初、日記のとおりに本当に行動してたんだよ。しんちゃんのことだけじゃなく食べるもんとか行くとこまで。でも、ある日ね、思ったの。しんちゃんと仲良くなると日記のことなんてどうでもいいなって。だから最近は全然見てないの。今は、しんちゃんがいればいいの。もちろんこの先ね、別れ離れになって会えなくなるのはわかってる。でも…青い目で金髪のダーリンと出会うまでは、しんちゃんと一緒にいたいの」
サナはくすっと笑う。真田も金髪かよって笑う。
「そうか…」真田はすこし寂しい気持ちになった。サナはそれを察したのか真田に抱きついた。
「バカ。いちいち本気にしない!」
サナはそのままキスをする。
「しんちゃん、寝よう。今日はずっと寝よう」
サナは再び真田を強く抱きしめた。
「それって…ずっと寝れないってことっすよね」
「おじたん!頑張って!!」




