鍵はちゃんとしめましょう!
サナは、常連さん数人のお相手をしたあと12時に仕事を終えた。
一応、真田に仕事を終わった旨をメールする。特に用はないのだが、最近はいつの間にか日課になっていた。真田からはいつも「おつかれ」と労いの言葉とともに、現状何をしてる、あーだこーだとメールが入ってくる。真田と会うようになってからあまりアフターには行かなくなった。お客さんも何かを察してかあまり誘われなくなっていた。
12時に終われればなんとか終電に間に合うので、急いで身支度を整え池袋の駅に急ぐ。店から駅へ早足で向かう。(ふう…)サナは、なんとなく気持ちが落ちていた。理由はわからない。だがこういう日はたまにある。電車に乗るとサナは久しぶりに真田に長文メールを送った。
「なんか、私ってなんだろうね。ダメな人間だよね。お客さんに嘘ばっかついて、後悔して、本当のこといって、後悔して。いつも失敗ばっかして遠回りして。夢はあるのに何もしてなくて。いつも不安なのに強がって。人に頼ってばっかなのに自分でできた気になって。いなくなると何もできなくて。こんな人間、だれも本気で好きになんかならないよね。私は孤独なんだ。これからもずっと、孤独なんだ」
サナは、すこし迷ったが送信ボタンを押す。我ながらメンヘレだとは思うが、言葉が勝手に溢れ出してきて止まらないのだ。
真田からはいつもすぐに返信がある。
「自分のことをダメな人間だと、わかってる人間はダメじゃない。
貴女はすぐ自分だけを孤独。孤独というがそういう意味では。人間はみんな孤独だ。友達がやたら多い奴は、それだけ一人一人の繋がりがうすい。だが本当に信頼できるやつが一人でもいる奴は孤独とはいわない。
そーれーと、お前を好きな奴に送るメールとしてはこのメールはほんと失礼なメールだ!!」
サナはクスっと笑う。真田らしい言い回しだ。
「それは失礼しまいした。ていうか、うまいこといいますね」
と、返す。とってもわかりにくいが真田にしては珍しく愛が伝わるメールだった。サナは満足して、スマホをバッグにしまうと電車はちょうど、高田馬場についた。
多くの乗客とともに電車から降りる。早稲田口を出て緩やかな坂道をゆっくり登っていくと、飲み屋、カラオケ、チェーン店の光で道は明るかった。
マンションの前についた。横のコンビニ寄ろうかとも思ったが、なんとなく行く気がおきない。(今日は家にあるものでご飯つくって寝よう…)そう思いマンションのエントランスに向かう。
サナは、マンションの入り口に入ると家の鍵をとり出し、エントランスにある鍵穴に刺してまわす。すると、入り口の扉が開く。更にエレベーターにも鍵穴がりそこにも鍵を入れまわす。そうしないとエレベーターは動かない。セキュリティ満載のマンションだ。
11階につき、ようやっと自分の部屋にたどり着いた。
(ふう…)サナは、リビングにはいりバッグをソファに投げた。
(今日も疲れたな…)リビングに寝転がる。今日は真田がいないので思いっきり伸びをして、だらけようとサナは思った。天井を見ていると、いろいろなことが頭の中で回っている。今日はなんでこんなに落ちているんだろうと思った。
真田のこともTOTOのことも仕事も中途ハンパだ。これは、今日あたり夢にユキが出てきて罵倒されるかなとサナは思った。でも、なんか今はこのままでいい気がする。そんなことを思っているとサナはいつの間にか寝てしまっていた。
ピンポーーーン!!
突然のチャイムにサナは飛び起きた。時計をみると深夜2時半前だった。(誰だろう…っていうか!!)サナはびっくりしたが、恐る恐る玄関に近づく。このマンションは1階のエントランスの専用電話で各部屋の住人を呼び出して開けてもらわないと入れないしエレベーターも動かない。この扉の向こうの人間はどうやってここまで来たのだろうか…
サナは更に玄関まできてビビる。鍵がかかってない!!あわてて玄関まで走り、とりあえず手の届くのキーチェーンを掛けた瞬間にドアノブが回った。
ガン!!!
ドアがチェーンで止まり大きな音がした。
サナは恐怖で、足がすくみ玄関に座り込む。
「だ、だれ…」声を出そうにも声がでない。サナは床を掃いながらリビングに戻る。ふたたび、ピンポーンと呼び鈴がなった。とっさに真田の悪戯かとも思ったが彼も鍵を持っていない以上、この階に来れない。だいたいあの変に真面目で律儀な男が連絡なしに来るはずもない
ドンドンドン!!!
ドアを叩く音がする。サナは耳を塞ぎ部屋で蹲った。
「マキちゃん…マキちゃん…」
遠くでサナの源氏名を連呼する声が微かにきこえる…
サナは最後の勇気を振り絞って、バッグに手をのばす。手がふるえてバッグからいろいろなものが溢れおりた。床に散らばった化粧道具や髪留め、財布…
真田から貰った財布!!
サナはスマホをやっとのことで手荷物と震える手で画面を指でなぞる。
ピンポーン1ピンポーン!!ピンポーン!!!
サナはその音にびっくりして耳をふさぐ。スマホがガンと音をたてまた床に落ちた。彼女は恐怖で手に力がはいらない。
なんとか正気を保ち、サナはふたたびスマホを手に取り、画面を操作する。いつもはすぐできるのに。サナは何度も操作を繰り返す。
なんとか、真田の電話番号を押すことができた。
「しんちゃん…しんちゃん…早く出て…)
ガチャ!3コール目で真田はでた。
「しんちゃん!しんちゃん!」サナは今で溜まっていた不安が噴出すように大声をあげ、助けを呼んだ。




