橘とケイ
橘は、その週の土日は久しぶりに家族と過ごしていた。
3年前、横浜の小机という場所に中古だが家を購入し、妻と5歳になる息子と暮らしている。子供もお父さんと遊びたい盛りで、今週は思いっきり相手をしてる。
子供はほんとにいい。生きる意味になるし、なにより自分の分身が新しい人生を送るようで、見ていてほんとに楽しかった。
日曜日の夜、息子が寝たことを確認すると橘は、リビングに戻った。妻はテレビで、今度施行される「マイナンバー制度」の討論番組を見ていた。
「これに反対する人って、隠し事が多い人よね、きっと」
「ははは、そういうんもあるけど。でもサイバー攻撃されて、個人情報がごっそりもってかれるなんて言う人もおるからの」
「でも、わたしにもってかれて困る情報ってあるかな」
妻はいたって呑気だった。橘はこのマイナンバー制度に関して非常にきな臭いものを感じている一人だが、そんなものを妻を討論してたら朝までかかってしまう。
「ちょっと、仕事してくるね」
橘はそういうと、自分の家内にある仕事部屋へむかった。
橘の仕事部屋は3畳ほどのスペースで、机、椅子、パソコン、プリンタとしかない。もちろん机の上には資料の本が散乱しているが…
まずパソコンを立ち上げメールをチェックする。仕事の依頼のメールがずらりと並ぶ。ひとつひとつ精査し、自分でやるもの、協力会社になげるものに分けて処理していく。明日はなかなか忙しそうだな…と橘は思った。
と、携帯をみるとメールがきていた。山本と一緒に行ったクラブの「ケイ」というホステスからだった。
「先日はありがとう。久しぶりに普通に話せる人にあったのですごく楽しかったです。で、メールしちゃいました。ご迷惑でなければいいですけど。そういえば、その時にお話しいただいたお寿司やさんってなんてお店でしたっけ?」
メールが来ていたのは、金曜日の夜だった。家族と過ごす時に、橘はあまり携帯自体を見ることが少ない。仕事のメールばかりだからなのだが、今回は久しぶりの家族の時間なので余計見ていなかった。
「遅くなってすいません。こちらこそありがとうございました。お寿司やさんは確かみどり寿司だったと思います」
橘はさくっと打ってメールを返す。ここまで時間が経っていると返事はこないだろうくらいに思っていた。だが予想に反して返事はすぐにきた。
「やっと、返事きたぁ!ありがとう。嫌われたかと思って心配だったんです。みどり寿司ですか。今度いってみます。ところで橘さんはおいしいお店とかよく知ってるんですか?」
橘は思わず笑みがでた。なんだかんだで、女の子からメールが積極的にくるのは嬉しい。営業メールなのはわかってはいるが…すこし真田の気持ちがわかる。だがもちろん真田はすっかりその枠からは飛び出してはいるが…
結局、橘とケイのメールは朝方まで続いた。




