山ちゃん 池袋に出現
池袋ふくろう交番の磯谷巡査長は、先日の騒動について考えていた。
そう、磯谷たちが職質した50歳くらいのおじさんが、いきなり2人組の男たちにもっていかれたあの騒動だ。あいつらはいったい何者なんだろうか…。同僚の斎藤は相手が何者かわかったようだったがその件について一切、口を閉ざしていた。
斎藤巡査長は、今日も丸メガネと丸い体格で、窮屈そうに椅子に座って報告書らしきものを書いている。いっそ、脅してきこうかとも磯谷は思ったが流石にそれは高校生ではないので抑えていた。また、あの騒動以降、斎藤はあまり磯谷と話すことすら嫌がっているように見える。
あの日のことをもう一度思い出してみる。あの人相の悪い2人組は、確かに警察バッジを持っていた。警察関係なのは間違えないが、あの時、斎藤はあからさまにあの2人に対して謙っているように見えた。
磯谷もそうだが、斎藤もこれまで本庁の人にさえ、そんなに気を使ってるかといえばそうとも限らない。刑事ドラマとかで本庁の人間が、所轄の刑事や警官をアゴでつかっているようなシーンをよく見るが、あれは誇張しすぎだ。
とすると、斎藤はあの2人に弱みでも握られているのだろうか…
「こんにちは、ご苦労さまです」
磯谷はいきなり声をかけられた。まったく気配を感じなかったのは驚きだが顔を上げるとそこには、スーツ姿でコートを脇にかかえた男が立っていた。なかなかいいスーツをきている。その男は、黒縁のメガネをかけていて、一見優しそうな顔をしていた。歳は30代中盤あたりだろうか…
「失礼ですが…」
磯谷はそう返した。ごくろうさまということは同業だろうか…
「わたし、山本といいます。」と、バッジを見せる。確かに同業だったが、階級は確認できなかった。山本と名乗った男はすばやくバッジをしまったからだ。
「警部補はどちらの方ですか?」
山本は、そういうと交番の中を覗いた。磯谷は若干、失礼なやつだなと思ったがとりあえず、上司である伏見警部補を呼んだ。
伏見は、奥の方からのそのそと出てきた。細身だが体は引き締まったいるが今年45歳になろうとしているベテランだ。
磯谷は丁寧に、警視庁の山本さんがあいにきたと告げると伏見警部補は、どうもと軽く頭をさげて山本をみる。山本は警察バッジをみせつつ伏見警部補に話しかけた
「いやぁ、お忙しところすいませんね、ちょっと一人巡査をおかりしたいのだが…いいですか?」
「え?そんなことは聞いてないが…」
「一時間ほどですみますので…」
「と言われてもねぇ…上からの指示がないと。というか貴方はなにもの?」
「そうですか…」
山本は、伏見の問いを完全にシカトして電話をかけた。そして、二言三言はなすと電話を伏見に渡す。
「伏見警部補。ごくろうさん、その男に一人かしてやれ!」
相手の声は、伏見が良く知る刑事副部長の声だった。




