TOTOとユキ
真田とサナは、池袋の焼肉屋にいた。
サナは、あの場所が池袋であったことに大きく驚愕していた。真田の腰と足にチカラが戻って、広い通りに出てドンキとふくろう交番を見たときの驚いた顔は傑作だった。
結局2人のカンは当たっていて、TOTOというバーは池袋駅ふくろう交番近くのマックの4階にあったのだ。もちろん一筋なわではそこにたどり着けないことは確かだが…。サナの話をきくと、あのバーの正確な入り口は地下であることがわかった。どういう経緯かはわからなかったが、おそらく知る人ぞ知る秘密のバーということだろう。それ自体が大掛かりで危ない香りがプンプンだったが…
サナはひととおり焼肉を食べ終えると、今日あった詳しい出来事を話し始めた。バーに入ってからの話だ。
「いやぁほんと今日はビビったよ。なにがすごいって、すごいキラキラしたバーだったの。なんか見たこともないほど綺麗で、セレブって感じがしてた。」
サナはその場面では本当に感動したという。仕事柄様々なバーにいってはいるがその場所は規格外だったらしい。表現力が乏しいのか真田にはその様子がさっぱりわからなかったが、すごいバーということだけはわかった。それは、真田がおしいちゃんタクシー運転手に聞いた話と符合する。
真田は黙って、サナの話を聞くことにした。
サナがエレベーターを出て、バーに案内された時そのすごさに圧倒された。金であしらわれた様々な調度品、重厚な木目の部分以外は全てがキラキラと輝いている印象だった。バー自体は暗めだが、店員がいるスペースだけは光が溢れていて、その光で様々なものが光っているという感じだった。
TOTOはバーの店員スペースに入ると、
「ほほほ、長旅お疲れ様じゃったの。まずは、なにかお作りしましょう」
と言い、氷を削り始めた。シャカシャカと氷を削るいい音がする。サナはそんなTOTOの前のカウンター席に腰をおろした。
「TOTOさんはバーテンダーさんなの?」
「もちろんですとも。ここは私の店ですからな。ほほほ」
その答えはサナにとって意外だった。もっとオーナーとか闇のボスとか偉い人かと思っていたのにーと告げると
「ほほほ、こんな爺にそんなもの必要ありませんぞ」
とはぐらかされる。サナはとりあえず、ウィスキーの水割りを頼む。本当はこの店の雰囲気ならロックなのかもしれないが、こんなとこで酔い潰れたらなにをされるかわかったものではない。
TOTOは慣れた手つきで、作り始めた。そのスムーズな手の運びが本物のバーテンダーであることを実証している。
「どうぞ」
TOTOはサナのコースターに。静かに水割りをおいた。コップも氷も一級品だとサナは思った。一口飲んでみたが、すごく美味しい。
TOTOは透明なガラスでできたボトルを静かにサナの前にだす。
「ジョニーウォーカー ブルー キングジョージ5世 というウィスキーです。」
なんかすごいウィスキーってことは、名前で想像がついた。だがもちろんサナには美味しいウィスキーという印象しか残らないが。
サナはそのウィスキーのことはともかく聞きたいことが山ほどあった。だが、聞きたいことが多すぎて頭がまとまらない。TOTOはそれを見かねて話し始めた。
「ほほほ、とりあえず最初からお話ししましょう。まずはこのBARですかな。ここは完全会員制のBARでな、一般のお客様は立ち入ることも…いや今となっては存在することさえ知らぬものも多い。ここに来てくださるお客様は、政治家、財界関係者、上場企業の社長クラスだけじゃな。」
TOTOは少しドヤ顔をしていたので、サナはなんだか面白くてクスクス笑ってしまった。そのサナをTOTOは同じように笑顔で返す。
「じゃが、ここのBARはもう一つの顔をもっている。それは、先ほど話した政治家、財界関係者、上場企業の社長たちのさらに上の方々のためじゃ。いやむしろそちらのほうが、このBARの存在意義かもしれんがの…」
サナは頭が「???」になった。政治家や社長の上?天皇陛下とか言うのだろうかと思った。だが、サナのかすかな記憶では天皇陛下は国の象徴で権力的なものは持っていないはずだと思った。
「で、ここからが本題ですぞ。」
「待って!」
サナはTOTOの話を止めた。本題というのはおそらく自分との契約だろうと思うが、その前にサナは聞きたいことがあった。
「TOTOさん、ユキって娘は知ってる?いやむしろ覚えてるって言ったほうがいいのかな?」
サナの質問にもTOTOは驚かなかった。むしろ待っていたように、うんうんと首を縦に振った。
「覚えてますぞ。このBARで契約した娘は数しれずですが、あの娘のことは鮮明に覚えております」
TOTOのその言葉にサナは顔が熱くなるのを感じた。お酒のせいではない、ついにユキという娘の話をきける。真田にも言ってはいないが、サナは日記のユキに共感するだけでなく憧れももっていた。そのユキに実際会った人が目の前にいるというだけで嬉しかった。
「ほほほ、ユキは、自由奔放で常識にとらわれず常に自分で答えを求めようとした娘じゃったの。だから彼女の結末は、ここにきた多くの娘たちとは違うものになったんじゃが、それが良かったのか悪かったのかは意見が別れるとこじゃの。それに…あの娘は唯一、わしを実際のおじいちゃんのように慕ってくれた。ここに何度も飲みに来たし、実際外でもあっていたからの…」
それはサナには衝撃だった。ユキの日記にもそんなことは書かれていないかったはずだ。TOTOは懐かしみながら話を続ける。
「優しかったのじゃ、あの娘は。ほれ、このネクタイもユキがわしの誕生日に買ってくれたものじゃ。蝶ネクタイなんぞ、その時初めてつけたわい。もちろん喧嘩もしたし、よく怒鳴りあったりもしたもんじゃ」
サナは、目の前のTOTOがわからなくなった.
一見、やさしいがもっと冷徹で怖い人かと思っていたからだ。今日だって、はっきりいえばプチ誘拐といわれてもおかしくはない。それなのに意外と感情的な部分もあるのかと感心した。
「途中までは、わしとユキに計画は完璧だった。ほかの娘たちももちろんそうだが、ユキにだけは特に幸せになってほしかったんじゃ。なので慎重に慎重にことを進めた。だが、その時に…ある男が現れてそれは台無しになったんじゃ…」
サナはその男が、さなやんであることがすぐにわかった。どういうことだろうとも思った。日記では、むしろユキがさなやんを騙しているような構図だったが…
「結局、その男とユキは行方不明になってしまった。もうワシの手の届かぬところへの…無事ではおるまい。」
その時サナが見たTOTOの顔は先ほどと違い寂しそうだった…




