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帰宅部だって立派な部活だ!  作者: 儚夢
1.『帰宅部』結成!
8/77

ダウト

「はぁ~やっと終わったわ」

 月夜がそう言って大きく伸びをして、宿題のプリント(不正解)を満足そうにクリアファイルにしまう。凄い……何であの答えでここまで満足出来るんだろうか。

「お前らがそこまで英語が苦手だとは思ってなかった……」

 俺が呆れてそう言うと、月夜が「はぁ?」と呆れたように言った。いや、呆れてるのは俺なんだけど! 何でお前が呆れてるんだよ!

「私、英語は得意なんだけど」

「ダウトぉ!」

 あれで得意だったら他の教科はどうなるんだよ!?

「座布団?」

「何でトランプゲームの『ダウト』のルーツ知ってるんだよっ!?」

 まさか月夜がダウトのルーツを知っているとは思っていなかった……。まさかコイツ、意外にもトランプ通だったのか?

 ちなみにトランプゲームのダウトは昔、『ダウト』を聞き間違えて『座布団』に聞こえたから座布団の上でゲームをすることが多いらしい。

「ダウト? ルーツ?」

 素で聞き間違えたのかよ!

「……ダウト、やりたい」

 俺と月夜がボケ(?)&ツッコミ合戦を繰り広げていると、勉強道具を全て鞄にしまった雪雛がそう言って鞄からトランプを取り出した。何で持って来てるんだ。

「ん? まぁ、俺はいいけど……ルール知ってるのか?」

「……私は知ってる。月夜は?」

「ダウト? ……知らないわ」

 ルールを知らない月夜の為に、雪雛が簡単にルールを説明してあげている。俺も一応の確認の為に耳を傾けていた。



 ・最初の人が"A"と宣言しながらカードを伏せたまま場に出す(主にスペードのAを持っている人から始めることが多い。ちなみにAでなくても良い)。

 ・後は"2""3""4"~"Jジャック""Qクイーン""Kキング"といったように、順番に宣言しながら、自分のカードを場に出す("K"まで行ったらまた"A"に戻る)。

 ・その場に出すカードは宣言通りのものでなくても良いが、"ダウト"と宣告された場合にそのカードが嘘のカードだったら、場に出ているカードは全て嘘をついた人が引き取らなければならない。

 ・ダウト宣告を行って、そのカードが宣言通りのものだった場合は、ダウト宣告者が場に出ている全てのカードを引き取る。

 ・参加者のうち、誰か一人の手札が無くなったらゲーム終了。その時点での残りの手札の枚数で順位を決定する。



「ふぅん……要するに宣言通り、正直にカードを出せばいいんでしょ?」

「まぁ、それが出来るならそれがいいな」

「分かったわ。やりましょう」

 月夜のその言葉をきっかけに、雪雛が均等になるようにカードを配る。ダウトか……久し振りにやるな。手札をオープンして見ると、何と"10"が四枚揃っていた。

「えっと……スペードの"A"だから、私からね」

 ここは月夜からのゲームスタートだ。表情一つで勝敗が左右されるゲーム……このゲームにはポーカーフェイスが必須だ。ちなみに、順番は月夜→雪雛→俺……となっている。

「……"2"」

「"3"だ」

 俺の手札に"3"が無かった為、ここは適当に"10"を出しておいた。ダウト宣告は――無い。

「"4"ね」

「……ダウト」

 月夜が"4"と言ってカードを出した瞬間に、雪雛がダウト宣告をする。月夜は見事なポーカーフェイスだったのにこの速さ……さては"4"を四枚持っているな。

「な、何で分かるのよ……」

 雪雛が、月夜の出したカードを捲って数字を確認している。月夜が出したのはダイヤの"5"。これで場に出されていた四枚のカードが月夜の手札に加えられた。五十二枚のカードを使っているので、今の手札の内訳は、俺:17枚 月夜:19枚 雪雛:16枚となっている。

「次こそは……! "5"」

「"6"だ」

 手札に有った"6"を素直に出す。

「だ、ダウトっ!」

 すると、月夜が力一杯に叫んで俺が出したカードを捲る。

「はぅ……」

 ――途端に落胆。場に出ていたカード二枚を自分の手札に加える。

「"7"……」

 すっかり大人しくなった月夜が力無さ気にカードを場に出す。……それにしても、何でさっきダウト宣告をしたんだ? もしかして、"6"が三枚有ったからか? それなら"6"には注意しなくちゃ。

「……"8"」

「"9"だ」

「"10"」

「……"J"」

 そうして順調に勝負が進み――

「……"10"」

「ダウトだ」

「……っ!」

 ――雪雛のターンに回って来た"10"でダウト宣告をする。最初俺が"10"を四枚持っていて、序盤で捨て駒として出した"10"は今、月夜が持っているはずだ。そしてさっき月夜は"10"を宣言してカードを出していた。雪雛が"10"を持っているはずが無い。

 悔しさに顔を歪めて、雪雛が場のカード十七枚を手札に加える。現在は俺:十二枚 月夜:十三枚 雪雛:二十七枚となり、圧倒的に雪雛の不利な状況になってしまっている。

「ねえ、これって罰ゲームとか無いの?」

 雪雛が手札に十七枚のカードを加えているのを見て、月夜が言う。……まさかコイツ、圧倒的に有利な立場にいるからか! 何て卑怯な女なんだ!

「……じゃあ、負けた人は……二人を家まで送る?」

「まあ……ゲームとしては妥当っちゃ妥当か」

 今、圧倒的に不利な雪雛が提案したんだから自分はそれでも構わないということなんだろう。

「ふふん♪私は別に何でもいいわよっ」

「……"J"」

 再び雪雛から始まるゲーム。負けたら俺の帰宅時間が遅くなるという、超最高級の罰ゲーム……負けられないっ!


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「何で……こうなるのよっ……!」

 あれから雪雛の怒涛のダウトの嵐があり、快進撃を繰り広げた俺達の『ダウト』。何だろう……トランプ界の鬼を見た気がする。

「……じゃあ罰ゲームは月夜ね」

 カードを片付けながら、雪雛が嬉しそうな笑みを浮かべる。まあ、雪雛の家って俺達よりも近いから罰ゲームなんて受けたら大変だよな。

「それじゃあ、帰るか」

 今日も一時間の活動強制時間が経ったので、俺達はもう自由だ。鞄を担いで部室から出る。

「はぁ……」

 沈んだ様子の月夜を雪雛が引っ張っている。こうして見ると顔とかは全然似てないのに姉妹みたいに見えてしまうから不思議だ。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「……それじゃあ、また明日ね」

 下校を始めて、数分歩いたところで雪雛が別れの挨拶を告げる。いいなぁ、こんなに家が近くて。歩いて五分とか憧れる以外の何者でもないわ。

「そんじゃあな」

「またね」

 立派な庭や玄関を見て、豪華だなぁ……と、昨日と同じ感想を抱く。本当にこの家の庭は何回見ても驚けるくらいに華やかだ。そして小走りで玄関まで走る雪雛も、何とも華やかだった。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「それにしても、まさかあの状況で雪雛が逆転するとはなあ」

 月夜と二人で歩く道に広がるのは、もちろん『ダウト』の話。とは言っても雪雛が凄いって話ばかりだけれど。

「……くぅ~悔しいわ。いつか絶対リベンジしてやるっ」

 月夜が悔しげに地団太を踏む。全く、こういうところは子供みたいで可愛いのに、何でああも暴言がマシンガン並に乱射されるんだろうな。

「まあ、そう落ち込むなよ」

「落ち込んでなんてないわよ」

 本当に、こういう素直じゃないところも子供っぽくて可愛い。

「……ん」

 そして昨日俺達が別れて帰った十字路が見えて来る。普段ならここで「また明日」なんて言って別れるんだろうけど、今日は違う。『ダウト』で最下位になってしまった月夜は、俺を家まで送るという罰ゲームが付いている。

 何か、女子に家まで送ってもらうなんて随分恥ずかしい話だけどな。

「アンタの家って、遠い?」

「いいや、すぐそこだよ」

 月夜が帰りの時間を心配したのか、不安げな瞳でそう訊いて来る。

 ……歩くこと約二分、あっと言う間に俺の家に着いた。

「ほら、ここだよ」

「……へぇ」

 俺の家を見た途端、月夜が複雑な表情で「へぇ」と声を漏らした。……何だろう? 何か変なもんでも有ったのかな? いや、でもどっからどう見てもただの一軒家なんだけどな。

「それじゃ、また明日ね……瀬戸」

「ん? ……ああ……いや、折角だから家まで送るよ。俺も送ってもらったしな」

 きっと家が近いんだろうな~……と、甘い考えでの発言ではあったが気を利かせたつもりだ。

「いいわよ別に。私の家って結構遠いから」

「いや、でも――」

「いいのよ、アンタは大人しく帰んなさい」

 俺の背中をぐいぐい押して家に帰らせようとする月夜。……う~ん、でも……何だかなあ。

「……じゃあせめてさっきの十字路までは送らせてくれ」

 妥協してそう言うと、月夜は渋々といった感じでOKしてくれた。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 十字路から俺の家までがあっと言う間だったんだから、俺の家から十字路までももちろんあっと言う間だった。実際に二分くらいだしな。

「それじゃあ、ありがとな」

「ううん、私こそ……ここまで送ってくれてありがとう」

 『ここまで』に妙なアクセントを加えられたとは思いたくない。

「それじゃ、また明日」

「……うん、また明日ね」

 何だ? 随分元気が無いみたいだけど……。

 少し気になったが、月夜の帰宅時間を考慮して問い詰めるのはやめておいた。また明日もこんな調子なら明日訊けばいいしな。



「――瀬戸も、優しいところあるじゃない」



 ――後ろから聞こえた呟きは、風に流されて俺の耳には届かなかった。



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