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Subjects Runes【完全完結版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第2章 真夏のチェスゲーム

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第35話 セレーネへの罠

「それでは約束通り、騎士クラスの魔法訓練棟使用禁止を撤回をしてもらおう」


 シュミット先生がシャウプ先生に詰め寄る。


「フン。まぁ約束ですし今回は撤回して差し上げます。ただし今日あなたたちがしでかしたことは問題にいたしますから」


「何が問題なのでしょう」


「決まっているでしょう。下級貴族が上位貴族に歯向かったことです。下位の貴族は上位の貴族をたてて試合に勝たないのが王国貴族としてのマナー。大人しく命令を聞いていればいいものを、ほんと生意気な」


「あなたの下らない考えは聞くに耐えない。ハワード・シーリングが提出した要望書を早くこちらに渡しなさい」


「シュミット先生、あなた覚えておくことね。この事はフリュオリーネ様を通じて、王都でも問題にしますから」


 シュミット先生がそう言うとシャウプ先生は要望書を投げ捨て、早足に去っていった。


「全く困ったお人だ。それにしても派手にやってくれたなアゾート」


 二人の先生のやり取りをジッと聞いていた俺に、シュミット先生が呆れ顔で言った。


 改めて後ろを振り返ると、試合会場では気絶した生徒たちが次々と医務室に運ばれている。


 上級クラスはユーリとパーラを除いて全滅し、騎士クラスもモテない同盟の3人が意識を失っている。


「我ながらこれは酷いですね」


 俺はハーディンたちに対してはとことんやるつもりだったが、ダーシュたちをまさかここまで圧倒できるとは思ってなかった。


 正直言うと、相手のエースを討ち取っての判定勝ちでもOKぐらいに考えていたが、クラスメイトの成長が俺の想定をはるかに越えていた。


「お前の高速詠唱やマールの新魔法のことなど聞きたいことは山ほどあるが、今日は早く帰って体を休めておけ。俺はこれから要望撤回の書類をまとめて校長の決裁をもらってくるよ」


「いろいろとありがとうございました、先生」


 俺やクラスメイトたちが口々に礼を言うと、シュミット先生は少し照れたように足早に校舎に戻っていった。




 一方俺たちの試合を見ていた他のクラスの奴らは、試合の興奮いまだ覚めやまずで騒然としたままだった。


「お前らやるじゃないか!」


 カインが俺の肩を組んで、髪の毛をくしゃくしゃにした。


「俺も出たかったぜ。なんで俺だけA組なんだよ」


「お前ネオンのモテぶりを見て、A組でよかったっていつも言ってるだろ」


「それはそれ、これはこれ。何か無性に戦いたくなってきた。今から剣術訓練棟に行くからお前も付き合えよ」


「嫌だよ! もう疲れたし俺は帰る。ダンとでもやってろ」


 俺が断るとすぐさまダンに絡んでいくカイン。それを横目で見ながら俺はみんなに別れを告げてネオンとともに寮に帰った。


 さすがに疲れたのか、その夜は泥のように眠った。



           ◇



 中間テスト4日目(闘技大会3日目)、今日はいよいよ2年生の魔法団体戦。


 今日も学園は朝から大盛り上がりだ。


「フリュオリーネ様とセレーネ様の対決楽しみね。どっちが強いんだろ」


「トーナメント表を見たけど、決勝まで勝ち進まないと当たらないみたいだ。セレーネといえども、上級クラスの魔法戦で決勝まで勝ち上がるのはさすがに厳しいんじゃないか」


「そんなことないよ。昨日の試合を見たけどセレーネ様の強さは圧倒的だと思う。上級クラスでも彼女に勝てる人はそうはいないよ」


「まぁセレーネが騎士クラスの代表として上級クラスのトーナメントを勝ち上がっていくだけでも、見ててスカッとするけどな」


「そうよね。私たちの代わりに、あの偉そうな上級クラスのやつらをやっつけて欲しいわよね」


 このように会場のあちらこちらで、セレーネは話題の的だった。


 上級クラスへ恨みを晴らしたい騎士クラスの生徒たちは、セレーネに多大な期待をかけた。


 逆に言えばセレーネはとても大きなプレッシャーを感じながら、今日の日を迎えていたのだ。


 絶対に勝たなければいけない。


 無様な負けは許されない。


 みんなの期待を裏切るわけにはいかない。


 責任感の強いセレーネは周りの期待を全て受け止めてしまい、少し冷静さを失なっていた。


 そして試合前に突然シャウプ先生に呼び出されたセレーネは、この時一つの判断ミスをおかしてしまう。


 それがこの後、王都をも巻き込む大事件に発展するなど、この時は誰も知らなかった。






「私が魔法団体戦に参加できなくなった理由を、ちゃんと説明してください」


 私は闘技大会運営事務局の責任者であるシャウプ先生に詰め寄った。


「下級貴族は身の程をわきまえろと言ったまでです。魔法団体戦というのは本来上級クラスの種目であり、下級貴族はこれまでお情けで参加を許されてきました。しかし昨日の1年騎士クラスの蛮行を見るに、学園としてはここで綱紀を粛正する必要があると判断いたしました」


「蛮行というのは昨日のクラス対抗総力戦のことでしょうか。だとしたら正々堂々としたとても素晴らしい試合だったと聞いています。それに下級貴族だって魔力は持ってますし、上級クラスの魔法団体戦に参加する資格は十分あります。これまでも代々の先輩方が参加して立派な成績を残されていますし、侮辱はやめてください」


「いちいち口答えをするな! なんて生意気なの。あなた達下級貴族は私たち上位貴族の命令を聞いていればいいの。何度同じことを言えばわかるのよ。昨日のアゾートといいあなたといい、フェルーム家にはバカで無礼者が揃っているようね」


「酷い・・・」


 私のことだけだなくアゾートまで悪く言われて、私は悔しくて仕方がなかった。


 一緒について来てくれたクラスメイトも必死に説得してくれているが、シャウプ先生は私たちの言葉に聞く耳を持とうとしなかった。


 運営スタッフの中には私のことを同情的に見てくれて人がいるものの、シャウプ先生には逆らえずどうすることもできないようだ。


 そんなシャウプ先生は、私にある条件を持ち出してきた。


「そこまで言うならセレーネ、あなただけ参加を認めます。他の騎士たち魔力を持たないので参加は認めませんが、代わりに上級クラスの生徒をあなたの護衛騎士につけてあげます。それでいかがかしら?」


「みんなだって一緒に戦ってきた仲間なのに、どうして参加できないのでしょうか」


「魔法の習熟度を見るテストなのだから、あなた一人で十分でしょ。本来参加が許されない下級貴族の参加を特別に認めてあげたのだから、それで譲歩なさい」


 あまりに酷い条件にこんな大会もう参加しなくていいと思ったけれど、私に期待してくれた騎士クラスのみんながどれほど落胆するかを想像すると、とてもそんな判断は下せなかった。


「わかりました。それで結構です」


「そう。では人選はこちらでしておくから、もう試合会場に戻っていいわよ」


 とぼとぼと試合会場へ向かうセレーネの後ろ姿を、シャウプ先生は罠にかかった獲物をみる目で見ていた。


「バカな子・・・クスッ」



          ◇



 試合会場には既に多くの観客が詰めかけており、俺はネオンやダン、カイン、マールとともに観客席の中段あたりに陣取った。


 今はまだ試合開始前で、スタッフがバタバタと動きまわっている。


 運営事務局のあたりに生徒が集まって何やら話し合いをしているが、ここからじゃよく見えない。


 揉め事かな?


 試合が始まるまではやることもないので、ダンたちと雑談しながら待つことにした。



 さて2年魔法団体戦のルールは、次のとおりだ。


・この試合では魔法攻撃による戦闘のみを評価する。

・1人の魔導師に5人の護衛騎士が配下につき、護衛騎士は魔導師の護衛か、相手魔導師の妨害を行う。

・騎士の物理攻撃は認められるがその分魔導師の評価点は下がってしまい、魔法攻撃で決着を付けなければさらに評価点は下がる。

・護衛騎士が魔法を使うと反則負けとする。


 今回は上級クラス15組と騎士クラス優勝者の、全16組のでトーナメント戦を戦う。


 決勝まで4試合あるがセレーネとフリュオリーネは決勝までは当たらない。


 セレーネが決勝まで勝ち上がるためには3試合あるが、下手をするとフリュオリーネの取り巻きどもと3回対戦する可能性もある。


 俺は待機している選手たちの方に目を移した。


 フリュオリーネは遠目からでもひと際目立っていて、長い金髪に緩やかな縦ロールをした目が少しきつめの超絶美少女。高価で華やかな装備を身に着けた「姫騎士」といった様相だ。


 フリュオリーネの周りには、いかにも御令嬢という感じの華やかな姫騎士が取り囲んでおり、その全員が大きな扇子を広げて何やらコソコソと話をしている。


 そんな中ようやく準備が整ったのか、審判を務める先生の手が上がった。


 さあ、いよいよ試合開始だ。

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