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Subjects Runes【完全完結版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第1部アージェント王国編 第1章 超速爆炎の新入生

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第2話 身分と魔力の世界

 ハーディンたちの姿が見えなくなるまで、俺たちは食堂から距離を取った。しばらくして戻ると、さっきまで満席だったテーブルにも空きができている。


 ようやく、まともに食事ができそうだ。


「……はあ」


 椅子に腰を下ろした瞬間、ようやく力が抜けた。


「しかし初日からこれかよ」


 ダンが苦々しく吐き捨てる。


「あのハーディンって奴もそうだけど、上の連中は本当に感じ悪いな」


「……ああ」


 俺も頷く。


 さっきの一件はただの小競り合いじゃない。


(確実に、目をつけられた)


 しかも相手は中級貴族。俺たちより遥かに立場的は上。


「……しばらくは目立つ行動は避けた方がいいな」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 ――が。


 ちらりとネオンを見るが、こいつは何事もなかったかのように椅子に座っていた。


(……本当に分かってるのか?)


「アゾート」


 マールが少しだけ小さな声で言った。


「さっきは、助けてくれてありがとう」


「気にするな」


 短く答える。


 だが視線は、彼女の手首に向いていた。


 さっき掴まれていた場所が、うっすら赤くなっている。


(……くそ!)


「でも、またあいつらに会ったら――」


 マールが笑みを浮かべる。少し無理をしている笑顔だったが。


「それより、午後の見学に遅れちゃう。早く食べよ?」


 その言葉に、ダンが大きく頷く。


「だな。腹減って死にそうだ」


 胸の奥のざらつきは消えなかったが、無理やり空気を戻すように俺たちは食事を始めた。




 

 午後は施設見学。


 ボロンブラーク騎士学園は、魔法研究の設備が充実していることで知られている。


(……ここが俺の本命)


 俺がこの学園を選んだ理由の一つだ。


 最初に案内されたのは図書館。膨大な魔導書と、魔法考古学の文献が並んでいる。


(ここなら……見つかるかもしれない)


 俺には探しているものがある。まだ誰にも言っていないが、俺には目的があった。


「すげえな……」


 ダンが素直に感嘆の声を漏らす。


「全部読めるのか、これ」


「許可があればな」


 そう答えつつも、視線は棚の奥へ向いていた。


 ――その時。


「…………」


 妙な視線を感じる。


 振り向くが、誰もいない。


(……気のせいか?)


 いや、違う。


 さっきからずっと、誰かに見られている。


 理由は分からないが――


(今日、目をつけられたのは確かだ)


 嫌な予感が、じわじわと広がっていく。


「次は魔法訓練棟です」


 案内役の声が響き、俺たちは再び歩き出した。


 だがその間も、背中のざわつきは消えなかった。





 施設見学を終えた俺たちが次に向かったのは、部室棟だった。


 最後は部活見学らしい。


「みんな、入りたい部活は決まってるのか?」


 俺が訊ねると、ダンとマールは顔を見合わせる。


「いや、特には」


「まだ考え中かなー」


 初日だし、そんなものだろう。


 だから俺は、あらかじめ決めていたことを口にした。


「俺とネオンは、ダンジョン部に入るつもりだ」


「「ダンジョン部?」」


 二人の声が揃った。


「ダンジョンって、あの……冒険者が潜る洞窟のことか?」


「そうだ」


 ダンが少し眉をひそめる。


「貴族がわざわざ行くような場所じゃないだろ」


 その反応はもっともだ。


 この学園の生徒は基本的に貴族。危険を冒して金を稼ぐ必要なんてない。


 だから、ダンジョンに潜る生徒はほとんどいない――普通なら。


「でも、ダンジョンには古代の遺物が眠ってることもある」


 ぽつりと続ける。


「それに実戦経験も積める。学園の訓練より役に立つかもしれない」


 ダンが腕を組む。


「……確かに、面白そうではあるな」


 マールも少し身を乗り出してきた。


「でも危なくないの?」


「危ないに決まってるだろ」


 即答した。だからこそ価値がある――それに。


「先輩に誘われてるんだ」


「先輩?」


 ダンが首をかしげる。


「ああ。一つ上の」


 言いかけて、少しだけ言葉を切った。


 思い出す……あの人のことを。


(……会うのは久しぶりだな)


「知り合いがいるなら安心か」


 ダンが笑う。


「それに、どうせなら普通じゃないことやった方が楽しそうだ」


「賛成ー!」


 マールも元気よく手を上げた。


「私、ちょっとワクワクしてきたかも!」



        ◇



 部室棟の三階。俺たちはダンジョン部の部室の前に立っていた。


 軽くノックして中に入ると、黒髪ロングに眼鏡の女子生徒が顔を上げた。


「見学ね。私は二年のサーシャ・ベッセル。よろしく」


 淡々とした口調だが、手際よく俺たちを中へ通す。部室は思ったより広く、地図や装備が整然と並んでいた。


(……ガチだな、ここ)


 遊び半分の部活じゃない。


「当部では全員がギルド登録をして、実際にクエストやダンジョンに挑みます」


 サーシャの説明は簡潔だった。冒険の危険性も、初心者が守るべきルールも、すべて淡々と説明して行く。


 ――その時、ガチャりと扉が開いた。


「来たわね」


 サーシャが振り向くと、三人の部員が入ってきた。


 中央に立つ男は、いかにも強そうな雰囲気をまとっている。


「部長のウォルフだ。来週、新入生歓迎でダンジョンに行く。参加するなら覚悟しとけ」


 短いが、それだけで分かる。


 この人は強い。


「二年のキースだ。前も後ろもやる。まずは属性を教えてくれ」


 流れるように自己紹介が進み、俺たちも名前と魔法属性を答える。


            魔法属性

 ダン・アーク     水

 マール・ポアソン   光

 アゾート・フェルーム 火、土

 ネオン・フェルーム  火、土


「フェルーム……それって」


 サーシャの声が、わずかに変わる。そして。


「自己紹介がまだでしたね」


 最後の一人が、一歩前に出た。


 長い白銀の髪。赤い瞳。


 その姿を見た瞬間、空気が変わった。


「二年のセレーネ・フェルームです。ダンジョン部へようこそ」


 柔らかな笑み。


 だが、その奥にあるものは――圧だ。


(……相変わらずだな)


 立っているだけで周りの空気を支配する、フェルーム本家の長女。


 そして――次期フェルーム家当主だ。


 俺たちフェルーム家は、騎士爵ながら強力な火属性魔力を持つ武闘派集団。その当主は一族最強の魔力を持つ者しかなれない。


 それもあって、セレーネは上位貴族を押しのけて学年トップクラスの実力を誇っており、容姿にも恵まれ男女ともにファンが多いと聞く。


「セレン姉様、久しぶり」


 ネオンは姉のことをセレン姉様と呼ぶ。俺もセレーネに軽く目くばせをした。


「……姉様って」


 ダンとマールが同時に固まるが、当然の反応だ。


「アゾートもネオンも、入学おめでとう」


 セレーネは微笑んだまま、俺を見る。


 だがネオンを見る目が鋭い。


「……ずいぶん面白いことをしてるみたいね、ネオン」


「うっ……」


 サーシャもネオンを見て、不思議そうな顔をする。


「あなたアゾートの弟なのに、セレーネそっくりね」


「ギクッ!」


「一族だからそういうこともあるか。それで入部するの?」


「「もちろんです」」


「俺も入部しようと思います」


「私もお世話になります」


 俺たちに続いて、ダンとマールも入部が決まった。




 その帰り際。


 セレーネがそっと近づいてきた。


「ねえネオン。男子で入学して本当に大丈夫なの?」


「問題ないよ」


 ネオンが即答する。


「……まさか男子寮に入るつもり?」


「アゾートは、この私が守ってあげる」


「はあ?」


 一瞬、空気が止まった。


「何も安心できないんだけど!」


 セレーネの語気が強くなる。


「もしアゾートに手を出したら――」


「二人とも声が大きい……帰るぞネオン」


 慌てて割って入るが、周りに聞かれたらまずい。


 セレーネに軽く手を振って、ダンたちを追いかけた。


「おい、何を話してたんだよ……」


 ダンが俺に尋ねるが、


「気にするな」


 そう答えつつ、前を向く。


 まだ、二人には言ってないが――


(そのうちバレるか)


 フェルーム家次期当主、セレーネ。


 そして。


 ――俺の婚約者だ。

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