第19話 プリティーパワー
「アゾート、呪文聞こえた?」
ネオンが俺に聞いてくる。
「あ、ああ、聞こえた。おそらく全て聞き取れたと思う」
「全部っ!? 火属性魔法でもほんの一部しかわからなかったのに、光属性魔法は全部わかったの?」
ネオンは信じられない様子で、俺に何度も念を押した、
「ねえ、呪文が聞き取れたってどういうこと?」
サーシャ先輩がネオンに聞いている。
「火属性魔法みたいに、高速詠唱ができる呪文がわかったんだ」
「「えーーっ!」」
みんなが驚きの声をあげる。
「アゾート。私もあの高速詠唱ができるようになるの?」
俺に向けられる、マールの期待に満ちたキラキラした目。
それを見て、俺は思わず目を逸らす。
この呪文、できれば俺は詠唱したくない。
今のはなかったことにできないか。
俺は葛藤するが、マールの期待に満ちた目が俺の逃げ道をどんどん塞いでいく。
・・・とうとう俺は腹をくくった。
「わかった。じゃあ俺の言うとおりに詠唱してくれ」
そして俺は、光属性魔法ライトニングの詠唱呪文を唱えた。
【ぱぷりか ぽぷりか ぴかるんるん ミラクルライトで きらめき ときめき チャームアップ:光属性魔法パルスレーザー】
「これが本来の詠唱呪文だ。では俺に続いて」
「うん、やってみるね!」
【ぱぷりか ぽぷりか ぴかるんるん ミラクルライトで きらめき ときめき チャームアップ】
マールの発音は完璧な日本語(これを日本語と言うのなら)にはほど遠いものの、詠唱を進めるにつれて彼女の指先に強大な魔力が集まってきた。
ズズズズズ・・・・・
低周波のうなりをあげながら魔法陣が徐々に巨大化していき、さっきとは明らかにパワーが違っていた。
そして詠唱呪文の最後に魔法名を宣告し、その魔法が発動した。
【光属性初級魔法パルスレーザー】
パーーーーーーーン!
瞬間、ひときわ大きな破裂音を伴って枯れ木の上半分が吹き飛ばされて炎上。
残った下半分もメラメラと炎上を始めた。
「なんなんだ、この破壊力はっ!」
「本当にこれが照明用の魔法、ライトニングと同じ魔法なのか?」
「これが完全詠唱の魔法の威力・・・」
周りのみんなは驚愕して言葉を失っていたが、俺は尊厳を失っていた。
確かに威力は凄まじい。
実験は大成功だ。
だがこの呪文はさすがに痛い。
いや、魔法の呪文としてはある意味王道中の王道。
決して間違ってはいないが、一言で言えば世界観が違う。
俺は大喜びしているマールを見て、とても気の毒になった。
だって考えても見ろよ。
マールはもう16歳だ。
16歳といえば見た目はもう大人なのに、魔法少女の変身シーンのような詠唱呪文を唱えなければ魔法が発動しないのだ。
しかも、この辱めは一生続く。
例え母親になっても老婆になっても、ライトニングを使うたびにこの呪文を唱えなければならないのだ。
まさに生き地獄。
不幸中の幸いなのは、マールが日本語を知らないこと。
知らぬが仏とはこのことだ。
だが全てを理解する俺は、気の毒でとても顔向けができない。
「アゾート、もう一回練習させて!」
キラキラした目で無邪気にお願いするマール。
だが、何かをごっそり持っていかれた俺には、マールの願いに応える胆力をもう持ち合わせていなかった。
「今日はちょっと・・・そ、そうだ! ひょっとしたら別の魔法の呪文もわかるかも。今度はキュアを試さないか!」
「あ、それもそうだね。やってみる、やってみる!」
マールを上手く誤魔化せたと思った俺は、だがこの後すぐに後悔することになる。
・・・だめだ、このキュアも酷い。
なんなんだよ、この光属性魔法というやつは。
「どうだった? ねえ早く呪文を教えて」
マールがまるで幼女のようにあどけない顔で俺におねだりをする。
「ねえねえ、早くぅ」
期待に満ちたマールの笑顔に、俺はもう逃れることができなくなった。
くそっ!
・・・そして俺は覚悟を決めた。
「俺はもう精神力が限界だ。今日はこれが最後だから、絶対聞き逃さないようにな。じゃあ行くぞ」
「応っっっ!」
【キュア キュア キュアリン メディ メディ メディシン プリティーパワーで ナイチンゲールになあれ♥️:光属性初級魔法キュア】
「はいどうぞ」
【キュア キュア キュアリン メディ メディ メディシン プリティーパワーで ナイチンゲールになあれ♥️:光属性初級魔法キュア】
その魔法が発動した瞬間、俺たちの頭上に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
そして心が洗われるような清らかな光が降り注ぐと、俺たちの身体を優しく包み込んで癒しのパワーを与えてくれた。
「ななな何なんだ、このキュアは!」
「ああ・・・心の中まで癒されていく」
「マールが女神さまに見える・・・」
「これが完全詠唱版キュア・・・このカタコト日本語をもっと磨けば、マール1人で治癒部隊1個小隊に匹敵する治癒力が発揮できるようになるはず。だが俺の擦り減った魂まではさすがに癒せなかったか・・・ガクッ」
その帰り道、トボトボと歩く俺の前を、みんなが楽しそうにワイワイはしゃぐ。
「私の水魔法と風魔法もお願い」
「そうだアゾート。マールだけずるいぞ。水だ水、水をよこせっ!」
サーシャ先輩とダンのおねだりが鬱陶しい。
「アゾートは私にだけ特別なのよね。うふふっ」
マールが嬉しそうに鼻唄をうたって、ダンとサーシャ先輩をうらやましがらせている。
だがそんなマールに、一番ダメージを受けていたのはネオンだった。
明らかに不機嫌そうな顔で俺の隣に近付くと、思いっきり俺の足を踏み抜いた。
「ふんっ!」
「痛てええええっ!」
「じゃあ、また明日ね」
マールとサーシャ先輩を見送って男子寮へ帰ろうとした時、女子寮へむかう一組の男女が目に入った。
何とそれは、セレーネと生徒会長サルファー・ボロンブラークだった。
ダンも二人に気付き、俺の耳元で囁いた。
「おいアゾート、あれって」
「どうしてこの二人が一緒に・・・」
俺の心は不安な気持ちで一杯になった。




