第18話 新魔法・パルスレーザー
放課後、マールの新魔法のテストのため魔法訓練棟に来ていた。
学園には魔法防御シールドが展開されているため、実際の試し打ちは学園の外でないとできないのだが、魔術具が動作しなければ無駄足となってしまうため、ここで最低限の動作確認をするためだ。
ちなみにカインは魔法が使えないため「クエストでもしてくるわ」といって不参加。今はカインを除くいつもの4人だ。
セレーネの魔術具の調子も見たかったので誘おうとしたのだが、なぜか探しても見つからなかった。
ていうか部活のイベントがない日は、放課後の学園で彼女をあまり見かけたことがない。
いつもどこにいるんだろう。
「マール、いつもと同じようにライトニングを発動してみてくれ。ただし魔法陣をかなり弄って別の魔法になったので、魔法名は『パルスレーザー』で頼む」
「わかった」
マールが詠唱を始める。
火属性魔法と違い、光属性魔法はライトニングにしてもキュアにしても、リズミカルでどこか楽しげな呪文だ。
マールが詠唱しているからそう聞こえるのか、光属性だから明るい感じの呪文なのか。
そういえば闇魔法の詠唱はどこか暗い感じだったしな。
本当はどんな呪文か知りたい。
早く聞き取れるようにならないかな。
【・・・◎▼】パルスレーザー
マールの指先に魔法陣が展開され、魔法発動の瞬間にそれが霧散する。
「成功だ!」
魔法防御シールドにより自動的に消失させられた。つまり魔法が実際に発動する瞬間だった証拠であり、魔術具が作動したということだ。
「次は街の外に行って、実際に撃ってみよう」
俺達が訓練棟を出ようとしたその時、部屋に別の生徒たちが入ってきた。
ハーディンだ。
その後ろにも上級クラスの生徒が大勢付いてきており、きっと魔法の訓練をするためにここにやってきたに違いない。
「ふん、お前たちか。ここで何をしてるんだ」
ハーディンはこの前俺たちにやられたことをもう忘れたのか、人を見下すような目で俺たちを見ている。
だがコイツに何も教えてやる必要がないので、適当に返事をする。
「魔法の訓練だが、何か」
「下級の猿のくせに。魔法もろくに使えないのに時間の無駄だ、どけ」
あまりの言いように俺たちが睨み付けていると、後ろにいた男子生徒の一人がハーディンにたずねた。制服のラインから上級貴族の上級生のようだ。
「この者たちは?」
「この前お話しした、我ら上位貴族に対する立場をわきまえぬ無礼者たちです」
「ああ、こいつらか」
その上級生は蔑むような表情で俺たちを見た。
「今日からお前らはここを使用禁止だ」
「何だと!」
特権階級をかさに着た不遜な態度に、ダンが思わず叫んだ。
「なるほど確かに無礼者だ。学園だからといい気になっているようだが、階級が上のものに対する言葉使いがまるでなってない。こいつらをつまみ出せ」
そう言うと、その男子学生の取り巻きたちが俺たちを取り囲んで力ずくで部屋から追い出し、扉をしめてしまった。
部屋の中からハーディンが、
「お前たちにはここの使用許可が下りないように学校に伝えておく。目障りだから二度と来るな」
「上級クラスのやつら、いつも俺たちのことバカにしやがって許せねえな」
「釈然としないが、ここで争っても仕方がない」
「どうせ訓練棟を出るところだったけど、なんか腹が立つよね」
俺たちが納得いかない表情で学園を出ようとすると、サーシャ先輩が声をかけて来た。
「みんな、どうかしたの?」
さっきのハーディンたちとのトラブルを話すと、
「その上級生はたぶん3年生のハワード・シーリングね。シーリング伯爵家の令息なんだけど、生粋の貴族主義者で何でも家柄で判断するのよ。まあよくいるタイプね」
「・・・あれがよくいるタイプなんですか」
「上級クラスはあんなのばっかり。私と部長が珍しい方なのよ」
「部長も上級クラスでしたか」
「そう。ああ見えて一応子爵家の令息。それよりみんなでどこ行くの?」
「街の外でマールの新魔法を試しに行くところです」
「誕生日会の時に渡してたやつね。私も一緒にいっていい?」
「もちろんです」
ボロンブラーク伯爵家の居城のあるこの街は周囲を高い城壁で囲まれていて、東西南北に一つずつ城門がある。
主に使われるのは街道へとつながる東門だが、今日は北門へと向かう。
街道沿いだと人がたくさんいるため危なくて魔法の練習ができないが、山岳地帯へとつながる北門から出ると先は荒野のような地形になっていて、人が少ないので安心して魔法をぶっぱなせるからだ。
街の中心から北に歩いていくと、老朽化して崩れそうな建物が目立ち始める。人々の服装もどこかみすぼらしい。
「この辺りはスラム街ね。治安が悪いからあまり近付かない方がいいエリアよ」
物乞いの子供たちが俺たちの方にすりより、物欲しそうな目で見つめている。
大人たちは俺たちが貴族の子弟であることを理解しており、決して近づこうとはしないが、子供たちの様子はしっかり見ていておこぼれに預かれないか虎視眈々と狙っている。
「ボロンブラーク領はまだマシな方ね。王国の他の領地はもっと酷い状態よ。領主や貴族たちが贅沢三昧するほど領民は飢え、餓死したり盗賊に襲われたり、奴隷にされたりとにかく悲惨よ」
実家であるフェルーム騎士領も領民は飢えている。度重なる内戦で領地は荒廃し、戦費負担や徴兵に苦しめられた領民の不満はかなりたまっている。
フェルーム家は決して贅沢三昧をしているわけではないのだが、領民は貴族はどこも同じだと考え、反乱を起こされる危険性も少なくない。
だから上級クラスから嫌がらせを受けて腹は立つが、領民からみれば「同じ貴族どうしのいがみ合い」であって、同じ穴の狢なのである。
前世の記憶のある俺から見れば、フランス革命前夜がこんな感じだったのではないかと思う。
「このままだと民衆の反乱が起きるのでは」
「そうね。それも怖いけどブロマイン帝国の侵略も警戒しなくては。贅沢三昧して領地の活力が失われれば戦うこともできないのに、内陸に領地のある貴族ほど帝国の脅威には無関心なのよ。あるいは気付かないふりをしているか・・・」
ブロマイン帝国。
もとは辺境の小国だったその国は、周辺の国々を侵略して徐々に領土を拡大し、今や大陸随一の大国にのしあがった新興帝国。
今、帝国の侵略の手がここアージェント王国にも延びていると聞く。
まさに内憂外患である。
北門から街の外に出た俺たちは、眼前に広がる切り立った岩場や枯れ木の荒野に向けて、新魔法の試し撃ちを行うことにした。
「マール、さっきと同じように魔法を撃ってみてくれ」
「わかった」
そう言ってマールが詠唱を始めたその時、俺の頭に衝撃が走った。
ZA, ZA ZA ZA....ZA, ZAZA
突然のめまいと耳鳴り、目の前の景色が歪み雑音が頭に響く。
この現象に覚えがある。5歳の洗礼時に起きたあの・・・。
だが俺は地面にうずくまったまま、気を失った。
「アゾート! アゾート!」
気がつくと、ネオンが俺を覗き込むように顔を近づけていた。
とても心配そうな顔だ。
「おはようネオン」
「何言ってるんだ。突然倒れたんだよ、大丈夫?」
・・・そうだ思い出した。俺はマールの魔法の実験中に倒れたんだった。
俺ははっとして立ち上がり、ネオンに尋ねた。
「どれぐらい倒れていた?」
「5分ぐらいだ。それより体の調子は?」
「大丈夫だネオン。それよりあの雑音が頭の中で聞こえた」
「何だって!?」
「もしかすると、光属性魔法で高速詠唱が手に入れられるかもしれない」
俺とネオンが思わずガッツポーズすると、マールが不思議そうに尋ねる。
「二人で何話してるの?」
「いや何でもない。ところで実験は?」
「ちゃんと発動したよ」
「よし、実験はうまくいったのか。マールすまないが、もう一度魔法を撃ってみせてくれないか」
「うんわかった」
再びマールが詠唱を始めると、俺は神経を集中しながらマールの詠唱を寸分も聞き漏らさないようにした。
「・・・え? 何だこの呪文は」
マールの発動した魔法は、パンという乾いた音とともに前方の枯れ木にヒットし、木片が飛び散った。
それは俺のイメージ通り、まさにパルスレーザーだった。
普通はここで実験の成功を噛み締めて大喜びする場面であったが、俺の頭は全く別のことでパニックになっていた。
そう、マールの詠唱した呪文に衝撃を受けていたのだ。
まさか、こんな呪文だったとは!




