第15話 超高速知覚解放
かなりの精神的ダメージを負った俺だったが、終わってしまったことはもう取り返せない。
気を紛らわすために俺は遺跡に集中することにした。
壁面の模様をジッと見つめていると、似たような幾何学模様が周期的に並んでいるようにも見える。
少し離れて全体感をみたり、角度をつけて斜めから眺めてみたりしたが、結局何もわからない。
壁画の全てが必ず何らかの意味を持つのか、意味のない物も含まれるのか。
何でもかんでも日本と関連づける必要もないのだろうが、ようやく祭壇の方に何人かの研究者が移動したので、俺もその後についていった。
そんな俺の後ろをマールがぴったりとついて来る。
「・・・なんでついてくるんだよ」
「だって、やることないんだもん」
「・・・・・」
何か照れくさいし少し離れて欲しかったが、なぜかマールが楽しそうなのでとりあえず放っておくことにした。
俺は研究者たちの邪魔にならないように、少し後ろから祭壇をじっと見つめる。
高さが3メートルほどある祭壇は左右対称の構造で、真ん中には何かを祭るための空間が設けられている。
今は何も祭られていないが、本来はここに神様の像でも置くのだろうか。
そういえば、昨日入り口で見た祭壇もこれと同じようなものだったから、この祭壇の裏側にも同様の隠し階段があるのかもしれない。
ひととおりスケッチが終わったようで、研究者が祭壇近くに集まり各部の調査が始まった。
俺も祭壇に近付くと、周りに触れないようにそっと真ん中の空間に頭をつっこんでみた。
底面は平らで物が置けるようになっており、左右両サイドは何かの文様が刻まれている。
正面の壁面は真っ黒に塗りつぶされており、上部にも少し空間があってランタンで照らさなければ暗くてよく見えない。
空間から頭を出して、今度は祭壇の下部を見る。
左右に台座が2つあって円盤状のガラス板が1枚ずつ乗せられている。研究者がちょうどそれを回収したので、
「そのガラス板は何ですか」
「これは古代の魔術具で、このような祭壇のある部屋には必ず備え付けられているものなんだ」
「どんな魔術具なんですか」
「このガラス板を通して壁面の文様を見ると、異なる文様が浮かび上がってくるんだ」
「えっ? み、見せてもらってもいいですか」
「構わんが丁寧に扱うんだぞ」
俺はガラス板を通して壁面の文様を眺めてみたが、特に文様が変化することはない。
「ガラス板を少しずつ回転してみるといいよ」
2枚のガラス板を回転させると、確かに文様が変化する場所がある。
これ偏光板だ。
左右の目それぞれに偏光板をとおして壁面を見てみると、女性の像が立体的に浮かび上がってきた。
「立体像が浮かび上がりました」
「どれどれ」
研究者がガラス板を手に取り、同じように立体視で確認。
「ああ、これはこの古代文明で祭られている女神のうちの一柱だな」
もう一度ガラス板を貸してもらい、俺はあちらこちらを観察してみた。すると女神像以外にもいろいろな立体画像が壁面に描かれていた。
祭壇の方にも何か描かれていないかガラス板を向けてみたが、こちらには何も描かれていなかった。
祭壇の空間の中も見てみよう。
「マール。ライトニングで祭壇の中を照らしてくれないか」
研究者がランタンを使用中であるため、俺たちは光属性初級魔法ライトニングを使う。
「わかった。眩しくない様に小さくするね」
祭壇中央の空間部分、その天井部分をライトニングで照らしてもらい偏光板で確認。
天井には特に模様がなく、角度を変えても何も見えてこない。
「何もないか」
そう思って祭壇内の天井から視線をずらしたその時、視界の端に何かがちらついた。
正面の黒い壁面に何かが見えたのだ。
「マール。もう一度ライトニングを頼む」
真っ黒に見えた壁面にはどうやら特殊な加工がされており、ライトニングで照らされた光が反射して模様が浮かび上がったのだ。
「・・・なんだこれは」
壁面だと思っていたそれは、まるでPCのモニターのようだった。
画面にウィンドウが表示されたかと思うと、何かのバッチファイルが勝手に起動した。
「インストールが始まった・・・」
そして新たに表れたアイコンを指でダブルクリックすると、ウインドウが開いて見たことのない魔法陣と、ある日本語が表示された。
【無属性固有魔法・超高速知覚解放】
「見つけた!」
このダンジョンを選んで大正解だった!
同じ古代文明の遺跡にある同様の祭壇を調べていけば、きっといろんな魔法の発見につながるかもしれない。
ていうか、他の祭壇でもこれはまだ発見されてないはず。そうでなければ、真っ先研究者が調べる場所はここ。
未発見の理由はおそらく、正面の黒い壁の謎が解けなかったからであり、GUIの操作以前に、そもそも壁面に何も写し出されていなかった可能性が高い。
そう考えると、おそらくは偏光板とライトニングの関係。
そこで最初に思いつくのはコヒーレント性だが、ランタンの光と違ってマールのライトニングはレーザー光だとでもいうのか?
新入生歓迎ダンジョンの全日程が完了し、全てのパーティーが冒険者ギルドに戻ってきた。
受付でクエスト報酬を受け取り、臨時メンバーの冒険者たちにお礼を言って別れた。
「アゾートまたな。いつでも気軽に声をかけてくれ」
「少佐も」
俺は少佐に海軍式の敬礼をビシッと決めて見送っていると、ネオンが近づいてきた。
「アゾート、何やってるのそれ」
どう答えようか迷っていると、マールが可笑しそうに笑った。
「アゾートって、あの冒険者とすごく仲良くなったみたいで、ずっとあんな感じなの」
「ふーん・・・」
ネオンは訝しげに俺の方を見ているが、コイツの考えていることは今いちよく分からない。
「みんなケガもなく無事にクエストを終えてよかった。これからささやかながら反省会を開催する。いろいろと武勇伝があると思うし大いに語りあってくれ」
部長の挨拶により、みんなはギルド内の酒場に移動し、気の合う仲間たちと盛り上がった。
俺たちはいつもの5人で集まった。口火はカインから。
「俺はビスポル火山にあるダンジョンで魔獣討伐だ。火山だけあって火属性の魔物が多く、先輩の水属性魔法頼りだったが。とにかく前衛を突破させないように魔獣を切りまくってたわ。上級クラスの奴が全く戦力にならなくて、二人分働いた感じ。きつかったー」
「俺たちはあの有名なダンガール迷宮都市だ。巨大ダンジョンで未到達エリアもあるので、そこでお宝さがしだ。見ろよこれ」
ダンが金色の腕輪を取り出した。
「魔術具で魔法の効果を上げるらしい」
ネオンも何やら魔術具を手に入れたようでマールがうらやましそうに、
「いーなー。私たちは何もお宝が手に入らなかったのよ。それよりもアゾートがひどいの」
といって毒虫の沼の話を語りだした。
「土魔法で爆発を起こした? なんだそれ意味が分からん」
「飯がまずくなるから、マールその話をやめろ」
やはり不評のようだ。
「それより聞いたぞアゾート。おまえセレーネ先輩の婚約者だって? あんな美人とうらやましい」
「本当かよそれ。ショックだ」
ダンが「なんで黙ってたんだ」と不服そうに言うと、カインもガッカリした表情を見せている。
俺はサーシャ先輩からアドバイスされていたことを話すと、
「確かに上級クラスの連中には気を付けた方がいいかもしれないな。何かあったら俺に言え」
そういって、カインは鼻をならして5人組の方を一瞥した。
「まあハッキリ言ってセレーネさんはお前じゃないと手に負えねえな。あの人、意外にポンコツで暴走すると手に負えないし、嫁にするのも命がけだ。実際何度も死にかけたし・・・」
ダンがブルブル震えているが、一体何があったんだろうか。
「それより聞いてくれ。遺跡で重要な発見をした」
俺はみんなに近くに寄るように手招きし、小声で言った。
「たぶん未発見の古代魔法だと思う。随行した研究者たちも誰も気づいていない」
「本当か」
発見したときの状況を簡単に説明しつつ話を続けた。
「魔法陣と発動方法が浮かび上がった。おそらく身体強化系の、マジックバリアーと同じ無属性魔法だと思う。これから詳しく調べようと思うが、まだここだけの秘密にしておいてほしい」
「わかった」




