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Subjects Runes【完全版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第4章 王国の剣メルクリウスの帰還

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第121話 バートリーの鍵

 翌朝エーデル城を出発した私たちは、カインのお母様のクレアと共にバートリー騎士爵領へやって来た。このバートリー領は地下神殿のある旧領都バートリーとはかなり離れた場所にあり、領都の名はエゾルテ。小さな街だ。


 堅固な城壁で囲まれた街の奥に大きな屋敷があり、そこにバートリー本家の母屋がある。


「クレア様、カイン様、おかえりなさいませ」


 屋敷に入ると使用人が私たちを出迎えてくれた。そしてクレアが、


「今すぐ母上に会いたい。いまどちらにいらっしゃる」


「執務室です」


「わかった。このまま向かう」


「承知いたしました」




 クレアに連れられて、私たちはバートリー家当主であるカインの祖母の執務室に入る。


「クレアか、突然どうしたんじゃ。ん? 誰じゃその娘は」


「母上、この娘をカインの婚約者としてよいかご相談させていただきたいのです。彼女の名前はネオン・フェルーム」


「その髪と目の色はまさかっ! クレア、どういうことか説明せよ」


 そしてクレアは、昨日私から聞いたことを当主に説明した。




「なるほど事情はわかった。お前の言うようにメルクリウスの末裔で間違いないと思うが、いくつか確認しておきたい。ネオンと言ったか、正直に話してほしい」


 当主の眼が鋭く光る。


「我が王国で今メルクリウスを名乗っているのは、昨秋の叙勲式で突然男爵になったアウレウス伯爵の娘婿だと理解している。ソナタはあの者と関係があるのか」


「はい。泥棒ネ・・・フリュオリーネの代理人アゾート・メルクリウス男爵と父ダリウス・フェルーム子爵は従兄弟の関係にあり、わたくしは男爵の従姪にございます」


「そうか。アウレウス公爵家はなぜアゾートにメルクリウスの姓を名乗ることを許したのか理由を知っているか? メルクリウス家の復権を王国が認めたということか」


「わたくしもその場にいたのですが、アウレウス伯爵から一方的にメルクリウス姓を名乗るように提案されただけで、理由までは話されませんでした」


「ではソナタらからの提案ではなかったということか」


「はい。そもそもメルクリウスなどという姓は、父を始め一族の誰も存じ上げていませんでしたので」


「自分達がメルクリウスの末裔であることを知らなかった・・・ということはアウレウス伯爵はこの者たちが本物である事を確信した上で娘を嫁がせ、自派閥に取り込んだというのか。・・・ふむ、では最後の質問だ。お前がメルクリウス家の末裔である証拠を持っているならそれを見せてくれ」


「はい。この鍵が証拠です」


 私は当主に例の鍵を渡した。


「この鍵をどこで手に入れた?」


「この話は誰も信じてはくれなかったのですが、それでもお聞きになりますか」


「ああ、是非聞かせて欲しい」


 私はあの古い教会で起こった出来事を全て話した。すると途中誰も何も口を挟まず最後まで黙って私の話を聞いてくれた。





「これが、この鍵を手に入れた経緯の全てです」


 するとお祖母様が立ち上がって私に抱きついた。


「間違いなく本物! ついに正真正銘メルクリウス家の子孫がこの地に帰ってきてくれた。よくその顔を見せておくれ」


 大粒の涙を湛えて当主が私の顔を見つめる。


「なるほど、メルクリウスの姫の特徴がよく出ておる」


 母親に感化されたのかクレアも涙ぐんで喜んでいるが、そんな二人の様子にカインはどこか居心地悪そうに頭をかいている。


「でもどうして今の話を信じてくれたのですか。アゾートも誰も信じてくれなかったのに」


「それは我らも同じ体験をしているからだ。クレア、あの指輪をここへ」


 するとクレアが指にはめていた指輪を外して私に見せた。


「これは?」


「バートリーの鍵じゃ。ソナタが持っているメルクリウスの鍵同様、過去の出来事を見せてくれる魔術具」


「見せてくれる・・・ですか。わたくしはご先祖様と実際に話をして鍵まで託されたのですが」


「そこが我らの鍵と少し異なる点だが、ソナタが話してくれた内容と我らがこの鍵を介して見た過去の出来事が一致しておるのじゃ」


「そうでしたのね。わたくしを信じていただき嬉しゅう存じます」


「それでソナタはこれからどうしたいのじゃ」


「わたくしはもう一度過去に戻ってご先祖様に会いとう存じます。そして過去に何があったのか、メルクリウス一族とは何者だったのかを明らかにしたいと考えております」


「そのためにカインとの婚約を利用したのか」


「どうしてそのことを・・・」


「どういう事なのネオン?」


 当主の指摘に私は言葉に窮し、困惑するクレア。しかしカインが会話に割って入った。


「利用したのは俺の方だ。俺は元々ネオンの事が好きだったんだが、フェルーム家からホルスとセレーネの婚約の打診があった時に、父上に頼み込んでネオンとの縁談にこぎつけた。そして顔合わせの時にバートリーの鍵のことを教え、俺の婚約者になることを条件に鍵を貸してやると取引を申し出た」


 それを聞いた当主は顔を真っ赤にして怒った。


「カイン! その腐った根性を叩き直してやる」


 そしてツカツカとカインの目の前に歩み出ると、その頬を平手打ちした。


 ズガーーーーンッ!


 その瞬間、カインの身体が宙を舞い、執務室の壁に激突した。


「ええええええっ?!」


 かなりの体格差のあるカインと当主だったが、その小柄な身体からは想像もつかない怪力に私の目は見開いた。


 化け物・・・。


 執務室の壁にめり込み上半身が隣の部屋に突き抜けてしまったカインだったが、気絶することもなく立ち上がると、何事もなかったかのように当主に詰め寄った。


 こちらも化け物・・・。


「確かに俺はみっともないことをした。それでも折角のチャンスを何もせずに諦めるなんてできない! だからこのクエストをやり遂げてネオンを絶対俺に振り向かせてやる! なりふり構っていられるかっ!」


 カインの激白に毒気を抜かれた当主は、「はあ・・・」とため息を一つついてカインに母親の指輪を手渡した。


「本当にみっともない孫だねお前は。それでお前の恋敵は誰なんだい?」


「・・・アゾート・メルクリウス男爵」


「ぷーっ・・・ふっははは!」


「どうして笑うんだよ!」


「バートリー家の勇者がメルクリウス家当主から姫を奪い取るなんて、言い伝えにあった物語のそのまま。これが笑わずにいられるか」


「・・・ベタな展開であることは自覚している」


「わかってるなら指輪を持ってとっととお行き。そいつは婚約指輪としてくれてやる。バートリー家の勇者としてメルクリウス家当主になど決して負けるんじゃないよ!」


「わかってるよ・・・任せとけ!」


 こうしてバートリー家当主との面会が終わり、私はバートリーの鍵を手にいれることに成功した。



          ◇



 息子をよろしくと頭を下げられ、クレアと別れた私とカイン。学園へ戻るために冒険者ギルドへ向かう道すがら、


「カインのカッコ悪い告白のお陰で、無事バートリーの鍵を手に入れることができたよ。来週からはいよいよ地下神殿の攻略。よろしくねカイン」


「・・・カッコ悪くて悪かったな。でも俺に任せとけ」


「それにしてもカインのおばあさん、物凄い怪力だったね。片手でカインを吹っ飛ばしてた」


「あれがバートリー家の血筋に秘められた能力なんだ。あんな小柄な婆さんでもあれだから成人男性だと桁外れのパワーが出せる。そしてバートリー家にはもう一つ、【無属性固有魔法・護国の絶対防衛圏】を使える能力がある。この二つがあるから、かつて「王国の盾」と呼ばれて王国を守護する辺境伯を任されていたのさ」


「カインとおばあさんを見て納得だよ。あとさっきカッコ悪いって言ってゴメン。あそこでカインがあの演技をしてくれなかったら、きっとおばあさんから指輪を貸してもらえなかった」


「いやあれは演技じゃなく俺の本当の気持ちさ。俺は絶対にアゾートからお前を奪ってやる。この指輪は俺の決意表明として受け取ってくれ」


「・・・普通の女の子なら今ので落ちてたかもしれないのに、相手が私で残念だったね」


「いいさ。この程度で落ちる女に興味はないし、やっぱりお前は魅力的だよネオン」


「カインのその情熱的なところ、アゾートにも見習って欲しいよ」


 いつもそっけないアゾートを思い出して、私は大きなため息を一つ吐いた。

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