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Subjects Runes【完全完結版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第1部アージェント王国編 第1章 超速爆炎の新入生

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第12話 現代知識で危機を乗り切れ

 先ほどの沼地まで戻ると既にかなりの数の毒虫が外に這い出してきていた。


 足下の毒虫をファイアーで一掃した後、俺は簡潔に作戦を説明する。


「土魔法ウォールを発動させた後、俺が合図を出します。それに合わせてサーシャ先輩はウォーターを撃ってください。なるべく広い範囲に水が拡散するようして全員で一目散に退避します」


「ウォーターなんか撃ってどうするのよ。でもわかったわ、言う通りにしてみる」


 俺とサーシャ先輩が前面に立ち、他のメンバーは岩壁に隠れておいてもらう。


 そして彼女がウォーターの詠唱を終えて、いつでも発動できる状態になったことを確認すると、俺の出番だ。



 俺は洞窟の「天井」に向けてウォールを唱える。


 ただしイメージは「土」ではなく、ナトリウムやカリウムといった「アルカリ金属の元素」だ。


 そもそも土属性魔法とは「土元素」を操作する魔法であり、その初級魔法ウォールは地面から岩盤を隆起させて壁を作る魔法である。


 この世界の人々は「土は元素」だと理解しており、この魔法を発動させるために脳内に作るイメージはその全員が「土元素」頭に思い描く。


 だがしかしである。


 前世とこの世界は物理法則が同じで、土という元素があるわけではない。


 この時代の人々がどう考えようとも、土とはケイ素や鉄などの酸化物をはじめ様々な有機・無機化合物で構成された混合物なのである。


 だから土をイメージする代わりに、土に含まれる成分の一つであるアルカリ金属を「元素としてイメージ」してやれば、生じる物質は変わってくるはずである。



  【永遠の安住地】


 俺は天井に向けて土属性初級魔法ウォールを発動。


 天井から銀色の金属片が大量に舞い散ると、沼全体に覆うようにキラキラ降り注いで来た。


 よし成功だ!


「今だ、ウォーターを!」


 すかさずサーシャ先輩がウォーターを放った。


 すると、ナトリウムやカリウムの金属片がまさに沼の泥に付着するタイミングで、水がまんべんなく覆いかぶさった。


 次の瞬間、沼地全体が大爆発を起こした。


「退避!」


 俺たちは急ぎその場から離れ、入り組んだ洞窟を走り出した。


 沼地からは爆音が断続的に鳴り響き、その爆発一つ一つが燃えて飛び散る金属片が引き起こしたものだった。そして副次的に発生する水素が熱に反応して水素爆発が発生し、さらに追い討ちをかける地獄絵図。


「すごい爆発だけど、洞窟が崩れたりはしないの?」


 爆発の振動が洞窟や空気を通して伝わってきてちょっと恐いが、エクスプロージョンと違って爆発にそこまでの威力はないし大丈夫だとは思うが、さすがにやりすぎた感はあるし、天井や壁が崩れる兆候を見逃さないように注視しつつ、安全な距離を保ち爆発が完全におさまるのを待つしかなかった。




 ようやく爆発音が聞こえなくなり、粉塵がおさまるのを待って沼の方に戻ってみた。


「うわー、これはひどい・・・」


 爆発で飛び散った泥やら毒虫の死骸やらがあたり一帯に広がり、洞窟の壁面や天井にまで飛び散った飛散物がボトリ、ボトリと落ちてくる。


 しかも発生した水酸化ナトリウムなどの強アルカリが死骸をドロドロに溶かしていく。


「おえーー。吐きそう」


 それを見たマールが顔面蒼白になって俺の背中にしがみつく。


「と、とりあえず毒虫は沼ごと一掃できた。作戦は成功だ」


 俺がそう言うと、マールにジロっと睨まれた。


「こほん。えーっと、このまま沼に入ると靴が溶けてしまうので、今から沼の上に土の橋を作ります。その上を通りましょう」


 マールだけでなくパーティーメンバー全員にドン引きされた俺は、評判を挽回するためウォールを発動させて立派な橋を架けてあげた。


 壁面に沿って人一人が歩ける幅の土の橋が現れ、さらに頭上にもう一つ、天井から落ちてくる飛散物よけのひさしも用意してあげた。


 アフターケアもバッチリなので、これで機嫌を直してほしい。


「それでは、この橋の上を進みましょう」


 俺達は足を踏み外して毒虫の死骸だらけのアルカリ沼に落ちないよう、慎重に歩を進めた。


「おえええ、気持ち悪いー」


 マールが俺の背中に顔を押し付けながら後ろを付いてくる。


 沼の惨状を目に入れたくないんだろう。


 俺もできるだけ沼地を見ないように、足元と正面だけを見て進む。


 ようやく全員が渡りきると、再び洞窟の奥へと俺たちは歩き出した。


「早くここから離れようよー」


「マール距離が近い。わかったからもう少し離れて歩いてくれ」


 もう沼からは大分離れたのに、マールが俺の背中に頭をくっつけてグイグイと押してくるのだ。


「いいの。早く行きましょ、アゾート」






 ビスポル火山のダンジョンでは、カインたちパーティーBによる魔獣討伐が進められていた。


 そしてついに討伐対象の一つである火焔鳥の巣を発見したが、2羽のつがいの火焔鳥がこちらを警戒している。


「バーンの水属性中級魔法・アイスジャベリンを使って火焔鳥を撃ち落とす。2羽目を倒すための詠唱に30秒以上間隔が空くので、その間だけ何とか持ちこたえろ」


「了解」


 カインとウォルフ、二人の盾役の後ろで新人のロジャーズは恐怖でガタガタと震えている。


 最初の方こそ張り切って一番先頭を歩いていたが、ゴブリン相手に手も足も出ず、それ以降は魔獣が出る度に二人の盾役の陰に隠れ、口先だけは勇ましいことを言う始末だった。



  【水属性中級魔法・アイスジャベリン】



 アイスジャベリンが片方の火焔鳥を巣ごとまとめて貫いた。当然、残ったもう一羽の火焔鳥は鳴き声に怒りを乗せて、こちらに突進してきた。


 ウォルフは自分にヘイトを集めるため、すかさず予め準備していた魔法を火焔鳥に放つ。



  【水属性初級魔法・アイス】



 怒った火焔鳥がウォルフの方に向きを変えて突進してきたが、ここまでは作戦通りだったのに思わぬ伏兵がパーティーメンバーの中に現れた。


「うわあっ! 何をやっているんだバカ! 僕の方に向かってくるじゃないか・・・あわわわわ」


 ロジャーズがパニックを起こして、一目散に逃げ出したのだ。


「バカ、そっちに行くな!」


 ロジャーズが向かった先には、アイスジャベリンを詠唱中のバーンがいた。


 そしてバーンを見つけた火焔鳥はウォルフを無視してバーンの方に向きを変え、全身を炎で包んで突っ込んでいった。


「マズイ! バーンを守るんだ!」


 あわてて後ろに向かおうとするカインとウォルフだったが、火焔鳥の速度が速く、どうしても間に合わない。


「くそっ!」


 ウォルフが悔しさで顔を歪めたその瞬間、信じられないことが起きた。



  【無属性固有魔法・護国の絶対防衛圏】



 キン!


 金属同士がぶつかったような鋭い音がしたかと思うと、パーティーメンバー全体を守るように目に見えない壁が発生した。


 火焔鳥はその見えない壁に激突し、その反動で地面に叩きつけられた。


「バーンさん、今のうちに詠唱を」


 呆気に取られて言葉のでないウォルフに代わって、カインがバーンに指示を出した。


「わかった!」


 バーンは再び詠唱を開始すると、2発目のアイスジャベリンが再び飛び立とうとしていた火焔鳥を見事串刺しにした。


 討伐成功だ。


 だが自分の命が助かった途端、口先だけ強気のロジャーズがカインに言い放った。


「そんな凄い魔法があるなら始めから使えよ。そしたらこの僕も安心して存分に活躍できたものを」


 だがその顔面めがけて、カインが拳を振り抜いた。


 バギャッ!


「黙れ」


「ぐはああっ!」


 宙を舞ったロジャーズの身体が思いっきり地面に叩きつけられ、さらにバウンドしながら転々と転がっていった。


 そしてピクリとも動かなくなると、


「気を失って動かない状態の方が、こいつは戦力になる。このまま先に進もう」


 そう言うとカインはロジャーズを肩に担いで、今だ呆然としているパーティーメンバーを残して一人歩き出した。

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