第7話:第4層の苦戦と、見えない支援の力
順調に見えたダンジョン探索も、第4層から空気が変わる。
敵は連携をとり、数も多く、パーティーは疲弊し始める。
アキは気づかれないように、"そっと"戦況に干渉する。
支援ではない、これはもう――隠密戦闘だ。
「来るぞ――!」
ラクトが叫んだ瞬間、3体のゴブリンが通路を飛び出してきた。
その背後には、さらに弓持ちが2体、壁際から狙っている。
「うわ、数多くない!?」
「正面受ける、援護を!」
トーレスが盾を構え、前に出る。
ミナが一瞬で矢を放ち、1体を仕留める。
だが――
(息が、切れてる)
アキは仲間の動きに違和感を覚えた。
「ChatGPT、皆の疲労値を推定して」
『ラクト:筋力40%低下。ミナ:視野ブレ+15%。トーレス:腕力回復速度1.3倍時間遅延』
(……第4層に入ってから、明らかに"負荷"が違う)
目には見えないレベルの魔力濃度上昇と、連携型の敵出現。
これは"踏み絵"だ。雑用だけしてたFランクにとっては、かなり厳しい。
そして、今。
アキはそっと、問いの書を開く。
Q:仲間に気づかれず、支援を超えた介入をしてもいい?
A:今は"命"が優先です。後で怒られても、生きてさえいればいい。
「ChatGPT、敵弓兵の照準ずらし魔法、角度12度で」
『了解。錯乱波発動』
DALL·Eが、敵の視界に微かな光屈折を与える。
敵の矢がわずかに外れ、ラクトの肩をかすめて壁に刺さる。
「助かった……っ!」
ラクトは気づかない。ただ、"運が良かった"と思っている。
アキは続けて小声で詠唱する。
「空間転位・極小・着弾遅延・対象:第3体左後方――炸裂、発動」
ゴブリンの足元で、小さな火花が咲いた。
驚いた敵が一瞬ひるみ、その隙にミナの矢が正確に突き刺さる。
「よしっ!」
トーレスが最後の1体を盾ごと押し潰す。
「……終わった?」
「はぁ……はぁ……やば、めっちゃ疲れた……」
ミナが壁にもたれ、汗を拭く。
ラクトも剣を地面に突き刺して座り込んだ。
トーレスでさえ、膝に手をついている。
アキは一人、無傷のまま問いの書に記す。
Q:このまま"陰の支援者"でいい?
A:今は"気づかれないこと"が、最善の魔法。
「ChatGPT、みんなの疲労回復手段、低魔力でできるものを」
『軽暖結界・深層リラクゼーション版を提案。座ったまま10分の休息で、疲労回復率1.5倍』
「それ、展開して。DALL·E、結界位置を地図で出して」
*
ようやく辿り着いた第五層の安全地帯。
魔素の流れが穏やかで、敵の気配がない。
「……ここ、安全みたい」
ミナが周囲を確認して言った。
「ちょっと……10分だけ、横になってもいい?」
ラクトがどさっと座り込み、トーレスも無言で背を壁に預ける。
「みんな、ちょっと休もう。ここは休むためにある場所だから」
アキの声は、ほんの少しだけ、優しかった。
誰にも気づかれずに支えながら、それでも、アキは問いを続ける。
Q:魔法は、人を救うためにある?
A:はい。でも"救ったと気づかれない魔法"も、確かに存在します。
パーティーは今、確かに"ひとつ"になりつつある。
まだ誰も知らないだけで。
戦いは、派手な魔法や剣だけで勝つものじゃない。
「影で支える魔法」があるから、前に進める。
次回、ダンジョン第五層の守護者登場。
パーティーにとって、初の"本格ボス戦"が始まる!