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環状を抱く夜ー交差する夜ー
環状が吠えている。
コアラのワンダーが、
Rの白いテールを喰いちぎるように追う。
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タコメーターの針が、
赤を越えて跳ねる。
VTECの咆哮が、
高架のコンクリに反響して夜を叩く。
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Rは速い。
電子の鎧に守られた牙は、
路面を這う蛇のように滑る。
どこにも隙がない。
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昔なら、置き去りにされていた。
だが今は違う。
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コアラの右足が床を蹴りつける。
肺が焼ける。
目の奥が夜に溶ける。
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——もっとだ。
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鉄馬の心臓が、
化物みたいな音を吐く。
骨が震える。
ステアリングが暴れる。
それを押さえつける手が、笑っていた。
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Rが流れを切る。
加速する。
躱す。
背中を見せる。
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だが、消えない。
コアラの影は、
環状の奥で張り付いている。
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忘れ去られた獣が、
現代の牙に食らいつく。
笑う。
心の奥の棘が、
熱を放つ。
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速度計は役に立たない。
あるのは背中と、
その先に突き立てる牙だけ。
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「抜け……。」
喉の奥で、
声が鉄になる。
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遠ざかるRのブレーキランプ。
先に見えてくる、
環状の鬼門。
北浜コーナー。
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高架を切り裂く緩やかな闇が、
牙を研ぐ獣を待っている。
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——180は越えている。
馬鹿だと頭の奥で誰かが笑う。
それでも、右足は床を蹴る。
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前を走るRがわずかにブレーキを灯す。
冷たい電子の鎧が、
減速のタイミングを守らせる。
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だが、血の通った獣は止まらない。
コアラの奥歯が軋む。
肺の奥が焼ける。
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——行け。
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古い鉄馬が、
牙を剥いてインへ潜る。
北浜のタイトを切り裂くために。
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誰かの背中を超える夜が、
すぐそこにある。
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白いテールが、
一瞬だけ視界の端で滲む。
コアラの目が血を吸った。
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鉄馬が牙を剥く。
インを刺す。
180を越えて。
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夜が、息を呑んだ。
