環状を抱く夜 ー邂逅の夜ー
環状の奥に、
鉄と風の匂いが沈んでいる。
コアラのワンダーが、
低く、獣の息を吐いた。
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街は眠っている。
だが、環状は目を覚ましていた。
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昼の顔も、名刺も、肩書きも要らない。
ただハンドルと、
足元の鉄だけが真実だ。
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遠く、白い光が滲む。
背筋を刺すような鋭さで、
夜を切り裂いてくる。
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——R。
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現代の象徴。
牙を研ぎ続けた若い獣。
電子の制御に守られた、
剥き出しの牙。
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忘れ去られた鉄馬、
昭和のワンダー。
スクラップの奥で朽ちかけていた獣が、
現代に噛みつこうとしている。
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クラッチの重さが指先を刺す。
VTECが低く咳をする。
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アクセルを煽る足が微かに震えた。
これが恐れか、昂ぶりか。
いや、違う。
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——これが速さだ。
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すれ違う瞬間、
Rのライトが夜を裂く。
若い顔が、一瞬だけミラーに映る。
何も恐れていない目。
何も諦めていない目。
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テールが真っ直ぐに誘う。
——来い。
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針が跳ねる。
肺が焼ける。
ステアリングを握る掌が汗で滑る。
それでも、握り直す。
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かつてのコアラは笑っていた。
群れの中で。
誰かの背中で。
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だが、
コアラは笑わない。
ただ、獣の奥で棘が疼く。
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「お前を食う。」
小さく、声にならない声が喉を裂いた。
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ワンダーが吠える。
鉄の心臓が環状に火を吐く。
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現代の象徴に、
忘れ去られた亡霊が牙を剥く。
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白いテールが、闇を滑る。
コアラはシフトを叩き込む。
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始まる。
鉄と鉄の、夜を抱き裂く獣の牙。
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まだ、夜は死なない。




