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孤独の狂気 — 伝説の残り火 —


ゴキの排気が、夜を裂けなくなっていた。

スロットルを捻っても、返ってくるのは痩せた咆哮だけだ。


この脚じゃ、番犬の牙に届かない。


分かっていた。

あいつに噛みつくなら、もっと鋭い牙が要る。



---


昼も夜もないアスファルトを流すうちに、ひび割れた壁みたいに、街の噂が耳に滲んできた。


潰れた暴走族の残り香。

途切れ途切れの声が、ひとつの言葉に繋がった。


——伝説。


鉄の塊が、まだ街のどこかに息を潜めている。


GPZ900R。

銀色の巨躯。

誰も追いつけなかった牙。



---


笑えた。

こんな時代遅れの亡霊に、縋る日が来るとはな。

だが、胸の奥で何かがくすぶった。


火が欲しかった。

牙が欲しかった。



---


夜を何度も裂いた。

潮風の底に、古いオイルの匂いが混じる場所を探した。

誰も寄りつかない町外れの片隅。

崩れかけた看板が、月の下でかすかに光った。



---


軋む扉の奥に、それはいた。


埃を纏った銀色の塊。

腐ったはずの血が、鉄の奥でまだ熱を帯びていた。


触れた掌が、鈍く痺れた。


——これだ。



---


奥の椅子に、誰かが座っていた。

老いた背中。

ただ、視線だけが鉄だった。


言葉は要らなかった。

火は、火種に引かれる。

牙は、牙に引かれる。



---


GPZ900Rのセルを回したとき、夜の底が震えた。

喉奥で笑いが滲んだ。

こんな鉄塊でも、まだ咬める。


孤独は変わらない。

だが、牙が違う。



---


番犬の環状。

あの潰れた鼻面を、この牙で喰い破る。



---


乾いた排気が、夜に混ざった。

銀髪が風に翻った。


銀色の狼が、輪に向かって吠えた。



---

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