環状に舞う狩人 — 最後の羽音 —
蛇は群れを連れてきた。
銀のS14だけではない。
黒い180、白いマークⅡ、赤いシルビア。
牙を揃え、輪に編み目を張る。
湿った路肩で、古豪の顔が煙草を踏み消した。
「……数が増えたな。」
MR-Sのドアを閉める音が、夜の奥に吸い込まれた。
親鳥は何も言わない。
ただ背中に散った羽根を感じていた。
——喰う。
今日は爪先だけじゃ足りない。
湾岸を抜けた直線で、蛇の群れが親鳥を囲む。
銀の牙が横を擦り、赤いシルビアがラインを潰す。
前に黒、後ろに白。
環状の速さと峠の狡猾さを混ぜた布陣。
「潰せ……」
蛇の声が無線に滲む。
親鳥はハンドルを抑えたまま、息を吐く。
肺の奥に錆びた煙草の味が残る。
ピヨ、お前はこんな牙の中を飛んだのか。
——なら、俺は貫く。
赤いシルビアが、テールをかすめた。
アクセルを抜かせようとする。
だが親鳥は踏んだ。
横滑りするリアを抑え、S14の隙間を割る。
「何だこいつ……」
蛇が吐き捨てた声が夜に散る。
ブローオフが咬む。
MR-Sのタイトな足が、環状に爪を刻む。
ラインを奪い返す。
一台、群れの尻を裂いてインを抜ける。
黒い180が追う。
親鳥は振り返らない。
蛇のミラーに映るのは、獣の牙を刻む爪の影だけだ。
次のコーナー、黒が横をかすめる。
わずかにテールが触れる。
事故を誘う。
親鳥は逆に鼻先を押し込む。
ギアを落とす。
回転を上げる。
直線に持ち込む。
群れの包囲が解ける。
蛇のS14だけが、背を張り付いた。
銀の牙が吠える。
「てめえ……潰れろ……!」
蛇が煽る。
事故を誘う。
だがもう通じない。
親鳥は息を止める。
ハンドルを切る。
ラインを潰す。
銀のS14の鼻先を、コーナーの壁へと押し込む。
蛇が慌てて逆ハンを切る。
しかし速度は落ちない。
親鳥はさらにインを詰める。
——喰え。
銀の牙がバランスを失う。
蛇がブレーキを踏む。
遅い。
MR-Sのテールが、銀の腹を抉った。
金属の擦れる音が、夜を裂いた。
蛇のS14はスピンする。
ハイサイドで外へ飛ばされ、ガードに当たる。
鉄が潰れ、タイヤがちぎれた。
ブローオフの音だけが残った。
親鳥はミラーを一度だけ見た。
砕けた銀の牙が、環状に散った。
ピヨの鍵が、胸ポケットの奥で冷たく鳴った。
——もうお前を喰うものはいない。
親鳥はアクセルを踏んだ。
群れの影が後ろでブレーキを踏む。
誰も追わない。
鉄と煙が夜に滲んだ。
親鳥のMR-Sだけが、輪の奥へと消えていった。




