環状に舞う狩人 — ファーストバイト —
アルトは環状の端を飛ばしていた。
軽いボディにターボを詰め込み、仲間の手で仕上げたフルチューン。
走りでは負けない。そう思っていた。
だが、銀の影は後ろから滲んだ。
蛇のS14が、ミラーの奥で細長く揺れた。
「来いや……!」
ブローオフの音が背中を叩く。
アクセルを踏むたび、後ろが笑う。
蛇は左右に振る。テールを揺らす。
ラインを塞ぐ。
鼻先をかすめる。
「ふざけんな……!」
アルトは踏む。
だが蛇はもっと踏む。
軽いボディに牙が刺さる。
湾岸の奥。
テールが、ふわりと触れた。
「っ……!」
一瞬、ハンドルが浮く。
ラインが外れる。
タイヤが泣く。
もう一度、尻を叩かれた。
蛇は追い越さない。
事故を誘うだけの、狡猾な牙だった。
ブレーキを踏んだ。
だが間に合わない。
足回りが軋む。
小さなアルトが、環状の外に弾かれた。
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路肩の暗がりに、アルトは蹲った。
エンジンが小さく鳴いて止まった。
震える手が、鍵を抜こうとした時だった。
蛇の銀のS14が、すぐ後ろに止まった。
ドアが開く音が、夜に落ちる。
暗い路肩。
蛇が近づく。
アルトのドアが開かれる。
胸ぐらを掴まれた。
「調子に乗んな、小僧。」
吐き捨てる声と同時に、拳が頬を割った。
アスファルトの上に血が滲む。
「環状、勝手に流してんじゃねえ。
金を用意しろ。わかるな?」
目の奥で、蛇だけが笑っていた。
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その夜。
環状を離れた路地裏のバー。
親鳥は、古びたカウンターでグラスを磨いていた。
ドアが開く。
足を引きずるアルトが、血の滲んだ頬で立っていた。
親鳥は何も言わなかった。
ただ視線を落とし、オイルの匂いの残る指を止めた。
アルトの手が、小さな鍵を握りしめていた。
親鳥は一度だけ煙草に火をつける。
赤く灯った火が、グラスの底に揺れた。
——これでいい。
小さく煙を吐いて、親鳥は奥歯を噛んだ。
蛇の牙が、罠にかかった。




