環状に鳴く、夜鳥 — 折れた翼 —
ピヨは夜のコンビニに仲間を呼び集めた。
空き缶を放り捨て、胸を張った。
「俺のクルマだぜ。」
助手席で肩をすぼめていた小僧たちの目が、わずかに光った。
---
小さなカプチーノを見せた。
小さな身体で、どこまでも羽ばたきそうな姿だった。
---
「——俺も飛びたい。」
誰かが言った。
「ローン組んででも。」
「親父の車、黙って羽ばたかせようかな。」
「先輩のボロ、羽にしてやるわ。」
---
暗いアスファルトの上に、まだ飛べない雛たちの群れが生まれた。
胸が少し熱くなった。
ひとりじゃない。
環状を仲間で飛び回る夜が浮かぶ。
誰よりも、自分が最初に空を裂ける。
そんな気がした。
---
数夜後。
群れは夜の空気を割った。
---
中古のロードスター。
先輩が下ろしたシルビア。
親父のアルト。
どれもボロの羽根だったが、確かに夜風を掴んだ。
---
ピヨのカプチーノも羽ばたいた。
小さな車体を躍らせるたび、羽音が夜に染みた。
——飛べる。
夜空にひとすじの風を残す。
それが誇りになった。
---
しかし三周目。
高架の向こうで羽音が乱れた。
---
エンジンが息を詰まらせる。
ギアがもつれる。
仲間のテールが、先へ先へと遠ざかる。
---
ピヨは何度も羽ばたこうとした。
けれど翼は応えなかった。
---
小さな羽根が、ちぎれた気がした。
---
黙って車を降りた。
ボンネットに手を置くと、冷めかけたぬくもりが寂しかった。
---
夜風が背中を叩く。
群れのテールランプは遠く、もう誰も戻らなかった。
---
ピヨは翼を押して歩いた。
羽音の消えたカプチーノを、環状のざらつきに転がしながら。
---
夜空の奥で、別の誰かの羽音が響いていた。
自分はそこにいない。
---
額の汗が、冷えた夜気に溶ける。
胸の奥が、折れた羽根のようにきしんだ。
---
曲がり角を越えたとき。
小さな灯りがあった。
---
かつての持ち主——
あの親鳥が、路地に佇んでいた。
煙草を咥えて、ピヨとカプチーノを見た。
---
「翼、折れたか。」
ピヨは言葉が出なかった。
親鳥は短く煙を吐いた。
---
「……押せ。直すぞ。」
---
夜の空気が、小さく震えた。
折れた雛に、また翼が生まれる気配がした。




